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ぼく  作者: クルトン
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誘拐犯とぼく

ぼくは人質らしい


らしい、というのは、ぼくが「それ」がどんな状態なのか、自称「誘拐犯」にしか聞いたことがないからだ。


ぼくは「誘拐犯」の顔を知らない


実は性別も知らない。


声は聞いたことがあるけど、「誘拐犯」はあまり声を出さない質らしいのだ。


「誘拐犯」の顔はいつも白い仮面で覆われている


仮面は白なのに、着込んでいるマントが黒なもんだから目立って仕方がないと思うのだけど、そこら辺はどうなのかと聞いたら肩を竦めただけだった


“どうでもいい”らしい。


仮面も白一色ではなく、時々コロコロ変わるから、本当にどうでもいいようだ


マントもしょっちゅう変わるから、自分の見た目についてはあまり気にしないのかもしれない


体つきはそれなりに中身があり、でも太っているわけでもなく、のっぽなわけでもなく、小さいわけでもない


とどのつまりは中肉中背というやつだ。


それでもぼくよりは大きい


「誘拐犯」の服装は体つきから性別を悟られないということを目的として選んでいるらしく、ぼくは「誘拐犯」の素肌を首とか腕の一部しか見たことがない


ぼくが人質だというなら、バレたくなければ殺せばいいんじゃないのかと尋ねると、殺したら人質の意味がないと説教をされた。


なんで誘拐犯に命を大事にしろと説教されなければならないんだろう


それを言ったら生きててもらわなくちゃ人質にできないとまた説教をされた


今までの苦労がどうとか言っているけれど、ぼくを誘拐するのが悪いんじゃないか。


ぼくは気がついたら「誘拐犯」のいうところの「人質」になっていた


「人質」になる前にぼくが何をしていたかという記憶はないから、ぼくは世間一般で言うところの人間ではないのかも知れない


なぜなら、人間は赤ん坊から育って行くけれど、ぼくには赤ん坊のころの記憶はないし、体も子供のものではないから


ということを「誘拐犯」に言ったらぼくは思考回路が宇宙人かもしれないと言われた


宇宙人の思考回路を見たことがないから、そのことについての明言は避けておこうと思う。


「誘拐犯」の行動はぼくにはよくわからない


時々バケツ一杯の赤い液体を持ってきては、ぼくに頭から被せる


そのにおい、生臭いというらしいそれを嗅ぐとぼくは気分が悪くなるが、その時にたまに腹を思いきり殴られる


蹴られる時もある


ぼくがその衝撃で吐瀉物を撒き散らして床を転げまわると、それを冷静に眺めている


ぼくが落ち着くと、おもむろに掃除を始める。


何の意味があるのかと聞いたら、人質の意味を考えてみろと言われる


考えてみろと言われても、ぼくには「人質」というものの状態がわからないのに。


「誘拐犯」が食事するところを、ぼくは見たことがない


「誘拐犯」は、ぼくが食事しているところをじっと見ているが、たまに黒コゲの料理が出された時は別の方向を向いている


そういう時はじっとその顔を見返すと、「すみませんでした」と床に四つん這いになって仮面を床につけてくる


「土下座」というらしいことは後で教わった。


仮面の奥の瞳は日によって色が変わるが、仮面が緑で瞳が赤い時なんかは目が痛いと文句を言ったらしばらくその組み合わせが続いた


普段は特に近寄りもしないけど、流石にその時は意趣返しを試みた


物凄く怖がって泣いて謝られた。


以前見かけたナンパの真似をしてみただけなのに。

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