第1話「残響」
テレビは、まだ終わらない。
《ジャッジメント死亡》
そのテロップが、何度も繰り返される。
特集。
討論。
再現映像。
街頭インタビュー。
「英雄だったと思います」
「行き過ぎてた。あれは犯罪者だ」
「でも、あの人が暴いた不正は本物だった」
世論は、まだ割れている。
結論は出ない。
彼が何者だったのか。
正義か、暴力か。
誰も統一できないまま。
事情聴取室。
白い壁。
机を挟んで座る刑事。
「発砲は正当防衛として処理される」
淡々と告げられる。
証拠は揃っている。
威嚇。
接近。
緊急性。
法的には、問題ない。
「……はい」
友人は短く答える。
感情は、外に出さない。
署名をする。
ペン先が、わずかに震える。
夜。
自室。
明かりはつけない。
机の上に、古びたファイル。
“社会改革計画書”
大学時代、二人で書いたもの。
制度の透明化。
監視機関の独立。
内部告発者の保護。
ページの端に、走り書き。
《変えられる》
若い字。
真っ直ぐで、迷いのない文字。
友人はページをめくる。
笑い声が、脳裏に響く。
「俺たちならやれる」
あの夜。
あの熱。
そして、あの選択。
窓の外で、救急車の音が遠く鳴る。
無意識に体が強張る。
銃声が蘇る。
引き金の感触。
倒れていく姿。
最後の言葉。
「生きてるのの何が悪いのさ」
目を閉じる。
深く息を吸う。
吐く。
静寂。
ニュースアプリの通知が光る。
《ジャッジメントの影響で法改正の議論》
皮肉のようだ。
壊した先で、制度が動く。
それは、望んでいた未来か。
それとも、犠牲の上の副産物か。
友人は、ファイルを閉じる。
指でなぞる、タイトル。
「俺は……正しかったのか?」
誰に問うでもなく。
答えは返らない。
正当防衛。
法はそう言う。
だが、正しさはそれだけでは測れない。
部屋の隅。
計画書の隣に、新しいノートが置かれている。
まだ白紙。
開くかどうか、迷う。
続けるのか。
別の道を選ぶのか。
沈黙の中で、時計の秒針だけが進む。
失ったものは戻らない。
だが、残響は消えない。
彼の問いも。
自分の迷いも。
夜は静かに更けていく。




