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20/22

20:実りの前に芽吹くもの


 魔導具の試験が終わったとリンゼから連絡を受けヒルデガルドはセルゲイと共にギルドへ向かった。

既に長期休暇も半分を過ぎ、一足先に王都へと戻らなければならなかったヒルデガルドは安堵しつつも、結果によっては成果もなしに戻らなけらばならないのかと焦りもあった。


「やぁやぁ!よく来てくれたね~!

 伯爵んところのご子息もちょっとお話聞いてってくたまえ!」


そんな心中を吹き飛ばすような笑顔に出迎えられた二人は顔を見合わせ、おずおずと以前通された応接室へと到着したその足で向かった。

応接室に入るや否や、リンゼは抱えていた木箱をテーブルに下ろして中身を取り出す。

その道具の数を見てセルゲイが顔色を変えた。


「多くないかヒルディ」

「私も知らないのがあるんだけど」

「あっはー!だろうさ!ヒルデガルドは魔導具で手一杯だったからねぇ!

 防具関連は私がやったのさ!」


勢いよくソファーに腰を下ろし、その勢いのまま己の膝をぱぁんと叩いて笑う。

出会い頭から思っていたがこのリンゼの上機嫌さは寝不足、研究疲れによるものだろう。

眼から狂気が漏れ出している。


「まぁまずは気になっているであろう、実験結果だね!」


ヒルデガルドにまとめられた書類が渡された。

厚みからして結構な耐久試験を本格的に行ってくれたようだ。

しかも、属性数を絞り使用対象を広げた魔導具だけでなく、あの個人用調整の魔導具もだ。


それに気づいた少女がぱっと顔を上げれば、それを待っていたかのようにリンゼが目を弧にする。


「ちょっとばかし調整は必要だったけどほぼそのまま使えたよ!いやぁ見事だ!

 しかし軍用と冒険者用、双方を見たからこそヒルデガルドはこの導図を組んだんじゃない?

 長期使用が出来て且つ一度起動させれば魔導具自体で硬度を保ち続ける事ができるような、ね」


障壁は硬度や反射性能が高いほど術者の消費魔力が大きくなる。

加え使用回数も反比例するように少なくなるにも関わらず使用する素材は一級品が必要だ。

故に購入者は金回りの良い富裕層が主になってしまう。


そんな彼等が何に備えて障壁を持つのかと言えば、日々向上する人間が放つ魔導である。


長い時間をかけて、人間が発明した魔導の力はダンジョン内に蔓延る魔物よりも強くなっているのだ。

ただそれでも魔物が放つ魔導が無視できる威力である訳じゃない。

それでもスタンピードで多くの犠牲者が出るほど、簡単に人間の身体を破壊する威力はある。


つまりここでリンゼが言いたいのは、如何に軍用に負けまいと障壁の強度を引き上げた魔導具を作成しようとも、それは冒険者がダンジョンで使用するには過剰であるという見解だ。

強いものは強いほどいい、という単純明快な思考になりがちな冒険者だから気に留めていないが、この過剰に消費される魔力こそ、特に魔導師が長期戦闘では喉から手が出る程欲しい切り札となり得る。


「放たれた魔導を分解して補修に回し、余剰分は魔導具の魔石に回し、更にその余剰は放出。

 まぁよくこれだけ欲張って入れたなって最初は思っていたけど、確かに必要な処置だった」


ヒルデガルドが提案した魔導具の導図では、魔導攻撃と物理攻撃で障壁の動作が異なる。

魔導障壁は物理障壁よりも強度が低いものの魔導自体を分解し砕けた魔力を障壁の即時補修へ吸収するようになっているため完全破壊がされにくいのが特徴である。

また分解し余った魔力を魔導具自体に吸収させて所持者の魔力供給が無くとも稼働する仕組みだ。


これにより、特に常時戦闘が発生するような場であればほぼ永久機関として障壁が張られ身を守れる。


物理障壁は強度上限を初めから高めに設定しているものの、冒険者は自ら相手の懐に入り武具を奮い、人間とは比べ物にもならない魔物の牙や尾から放たれる衝撃を受ける可能性が高いからだ。

強度が高いなら魔力消費も、と思うが、その障壁は衝撃があった瞬間だけ発生しその衝撃をもとに同等の強度を生み出すというものになっている。

つまり弱い攻撃には弱い攻撃と同等の障壁、強い攻撃には強い攻撃と同等の障壁が発生するも瞬間的であり常時過剰な魔力を流す必要がないのが特徴だろう。


またこの障壁は一度の衝撃で壊れるものの復元性が高く仕上がった。

それこそ、リンゼが得意とするダンジョン内であるからこそ稼働する特殊な導を組み込んだからだ。


復元性、時間の逆行にも見えるそれは、異空間だけで使用できる。

その導を含む際に必要なのが、ダンジョンそのものであるとは流石にヒルデガルドも知らなかったが。


「物理障壁はリンゼさんの知識と経験があってこそ出来上がりましたよ」

「そう言ってくれると嬉しいな!こういう使い方も出来るって、私も発見だったし!」


試作を作っている時に、そっとリンゼが『逆巻きの砂時計』について話してくれた。

それこそ、ダンジョン内で肉体復元を可能とする魔導具だ。

彼女曰く『逆巻きの砂時計』には導もだが、何よりダンジョンの欠片が不可欠なのだという。


ある冒険者が、ダンジョンの一部分が傷つけられると復元する部分とそうでない部分があることに気付いた。

殆どは復元しないが、階層を下へ行くにつれて復元する部分は多くなった。

気になった冒険者が破壊した欠片を持ち帰り研究をした結果、復元性を伴う物質だと判明したのだ。


まるでダンジョンは生き物のようだ。

傷ついて、壊れてしまった部分を自ら癒そうとしているように、じっくりと自己治癒する。

治せない部分があるのもそれこそ生き物らしい。

異物である人間は取り込まない癖に魂は取り込んでしまうところなんか特にね、とリンゼは語っていた。


「アナタが造った魔導具、個人もそうだけど両方とも冒険者には今後必須になるだろうね」

「使えそうな冒険者が居るんですか?」

「まぁウチじゃぼちぼちってところかな!

 そこで特に防具への付与を私が頑張りました~!これはギルド内のみ販売可能かな」


口ぶりからするに、恐らく復元性を持たせているのだろう。

ギルドの外、ギルド街で販売したところでそれは再現不可能であるためだ。


「という訳でヒルデガルド、これが販売価格ね?」

「ぐぅ…!」


魔導具の作成に携わったとは言え、材料費諸々はギルド持ち、リンゼ持ちだ。

ヒルデガルドは資料とは別に渡された価格表を見て呻き声を上げる。


「防具も、かなり気になるのですが…口惜しい!」

「はっはー!まぁ共同開発者の誼で安くしてあげるから何時でも声かけてね!」

「ありがとうございます…」


ヒルデガルドは用意していた金貨を取り出し、作成した魔導具を二つ買い取った。

腕輪型のそれは複数の魔石を配置し、属性数を増やした使い手を選ぶものではあるが、一つの同じ魔石を割り当てているため共鳴し補助し合う性能もある。

一つだけでも十分性能は良いが、二つ揃った時の方が安定性が増す。


「多めに持ってきたつもりですが…はぁ…素寒貧です」

「なぁヒルディ、それってダンジョン内でしか使用できないんだろ?」

「そうだけど?」


ふと、リンゼから伯爵宛ての報告書を受け取ったセルゲイが魔導具を覗き込み首を傾げた。

何を当たり前のような事をとヒルデガルドも首を傾げ返す。


「これじゃ魔導祭で使えないじゃないか、今から外用開発するのか?」

「…」


そっとヒルデガルドは眼を逸らした。

最初はそのつもりだったのだが、思ったよりもギルドで開発した魔導具が値を張ったため自分用に開発するにはお小遣いを追加で貰わなければならない。

厳しい、それは非常に厳しい。

何故ならこの手の中に今ある魔導具の購入費として充てた金こそ、事前に親から貰った開発費だ。

新たな言い訳を捻出しなければならないのかとヒルデガルドが遠い目をした。



 結局言い訳は思いつかず外用の障壁魔導具の改訂は出来なかったものの、粉クソと叫びながらセルゲイで試し打ちをしていた新技はそこそこ良い出来となったのでよしとし、ヒルデガルドは一度実家に戻ったものの、すぐに王都へと発った。


そうして知らされていた予定通り、フロイディヒ魔導学園三年生の内上位成績者十名前後が一同に会し王宮魔導師の詰め所へと訪れていた。

道中などで話した生徒は殆ど宮廷魔導師を目標としているらしい。

流石人気の職業だ、これだけ応募する若者が居るのであれば今後も国は安泰だろう。


「久し振り、ヒルデガルドさん」


声を掛けて来たのは馬車の違ったモーリスだ。

出発前の学園でもちらちら視線を寄越して来ているのは察していたが無視していた。

何となく、暢気に空気を読まない気配がしたからだ。


案内役の魔導師が学生を引き連れ移動する中、その少し後方で二人は肩を並べて歩く。

さも自然に隣に来たが何だ魔導祭の探りだろうか。

今度は策に嵌ってやるものかと内心構えていたが、彼はただただ嬉しそうに少女を見ていた。


(いや前を向きなさいよ)

「モーリスは休暇中、あちこち行っていたの?」


ヒルデガルドは前を向いたまま尋ねると、相手は首を縦に振って言葉を続けた。


「ヒルデガルドさんは休日は髪型変えているの?」

「は?」

「三つ編みだった、この前」


いやどうでも良くないかその話。

モーリスの言っている三つ編み姿は、恐らくベルリオーズギルドで開発中の事だろう。

夏の休暇中、ヒルデガルドにその認識は無いが彼が彼女の姿を見たのはそれくらいしかない。


早速彼独特の調子が二人の間を流れ、少女の瞳が呆れを伴う。


「ちょっと作業に邪魔だったから括っていただけよ」

「そうなんだ、雰囲気違うなって」

「ありがとうと言っておいた方が良いのかしら?」

「付与していた魔導具の導とか、光の属性結構強めだったし意外だった」

「…」


そっちの話か!と声に出さなかっただけ偉い、よく耐えたとヒルデガルドは自分を褒めた。

完全に休日のキミは雰囲気が違うねとかいう誉め言葉的なものだと思ったのに、なんだこの妙な敗北感と屈辱感は。

急に話の柱をすり替えておいて、のほほんと笑っていないで欲しいこの男。

サティやセシルはよくこんなのを慕っているなと思ってしまったではないか。


「かなり複雑だったから一部しか分からなかったけど」

「それでも一部分かってる貴方が怖い」

「え?怖い?何故?」

「喧嘩売ってる?」

「喧嘩?売っていないよ、僕怖いかな…?」


心無し肩を落とし、自分の顔を手で覆いながらも悲し気な水色の瞳はヒルデガルドから外さない。

あの談話室の一件があったからか、これが彼なりに話をしたい合図なのだと少女は理解しつつも、それを移動中に示されたところでどうしろというのか。


「怖くても負ける気はしないけどね。

 貴方、休み中にウチにも来たそうだし、私に何かまだ話があるのなら後にして」


そう、一瞬デイビア領の自宅に戻った際に家族から、友達が尋ねに来たよと教えられた。

名前を聞いた瞬間に顔を顰めた娘に皆が小首を傾げたが、ただ友達ではないと言うのも憚られたため、そうとだけ返事してすぐに王都へ発ったのだ。

モーリスがベルリオーズ領のギルドより先にデイビア領へ来たのかどうか、その足取りまでは知らないが、何かしらヒルデガルドに用があるのだろうとは推測していた。


(この予想までただの取り越し苦労だったら無いわ、マジで)


頷くモーリスを置いてヒルデガルドは先を歩く集団が入って行った小会議室へと足を踏み入れる。

そこにはあらかじめ用意されていたのであろう、簡単な資料が机に並べられ、各部から案内役として出されたのであろう、学生とは別に数人の魔術師が壁際で話をしていた。


「さぁ席に座って、説明をします」


学生を迎えに来てくれた魔導師が着席を促し、各々手身近な席に座った。

ヒルデガルドの隣の席がモーリスなのは入室の順番だからだ、多分。

気にするほどの事では無いはずなのに気にしてしまうのは、彼が話したい内容をまだ聞いていないからだと頭の中で自分を納得させ、魔導師の挨拶を聞き終えた頃の事だった。


「遅れてすいませーん」


小会議室に間延びした緊張感のない声が響く。

どこか癪に障る雰囲気に、ヒルデガルドは眉間に皺を寄せるも資料から顔を上げない。


わざと無関心でいるにも関わらず彼の男はぽんと彼女の肩に手を置き、わざわざ顔を覗き込んできた。

きらきらしい金色の髪がさらりと揺れ落ち、整った顔立ちの中印象的な金色の瞳がくっと弛む。


「やっ!ヒルデガルドちゃん、会いたかったよ~」


苦虫を噛んだような顔をする相手に、去年のポンコツ、テオドール・フォーレが華々しく笑う。

ヒルデガルドにおける王宮魔導師の印象がこの瞬間ガタ落ちした。



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