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1:此奴、またしてもポンコツを引き寄せておる

主人公がテンション高めです、ご了承ください。


「モーリス・ラゲール!」


呼ばれた少年は、聞き慣れた声に足を止めて振り返る。

まだ寒さ残る早春の木々を背負った渡り廊下、はっきりとした色味の強いその赤は良く目立った。


彼女は柘榴色の長く緩やかな髪を靡かせ、顎をきゅっと上げて少年を見据えて言い放つ。


「今年こそは!今年こそはっ正々堂々、公明正大にいざ」

「リースお兄さま!」

「わ」


ぴゅっと横から飛び出した黄色に、毅然としていた少女の声が止まった。

彼女の視界を遮るふわふわとした金糸雀色の長い髪が引き留めたモーリスの姿を隠す。

一体、何が我々の合間に入り込んだのだと、一息遅れで認識した時には、既に布告の勢いはきれいさっぱり削ぎ落されていた。


「セシー嬉しい!これでもっとリースお兄さまと一緒にいられるわ!」

「セシル」


眼に鮮やかな黄色の長い髪が軽やかにその身を覆い、真新しい制服は後ろから見ても初々しい。

背は然程高くなく、頭が丁度少年の胸元くらいに届くかどうか。


勢い良く抱き着かれ驚いていたモーリスが、セシルと呼んだ少女の肩に手を置きそっと身体の距離を正す。

小鳥のように華奢な少女の小首を傾げる動きに合わせ、またその巻き毛が柔らかに揺れ、ふわふわ、ふわりと、彼女の高い声音も相まって、まるでそこだけ春のような緩やかさだ。


「キミ達一年生は先に教室へ向かった筈だろう。

 どうしてまだ渡り廊下なんかに残っているんだい?」

「セシー、迷っちゃった」


上目遣いでぱしぱしと長い睫毛を瞬かせ甘える仕草を少女が少年に見せる。

成程、恐らくモーリスの発言からしてこの闖入者は新入生であり、そして彼の顔なじみであろう。


片や突如始まった寸劇に立ち止まっていた周囲の三年生、皆が思った事だろう。

何故迷う、と。

どの学年生も新入式と進級式を一緒くたに終え、各学年でまとまって移動していた筈だ。

あれだけ大人数が同方向に濁流の如く動いている中で何故、迷う事が出来るのか。


「ああ…」


誰ともなく溜息を零し、額に手を当て天を仰いだ。

それとなく息を殺す様に笑う学生の姿もあった。


出たぞ、出た出た。


「モ、モーリス…貴方、またしても…!」


渦中から追い出され呆然としていた少女が、肩を震わせ紫色の瞳を煌々と光らせ憤怒を放つ。

思わず口から漏らした、か細くも確かな怒りの言葉にその場から音が消えた。


「一昨年は同級生!昨年は卒業生!今年こそはと思ったらまだありましたわ、新・入・生!!

 貴方!いつになったら私と勝負するの?!どれだけ待ったと思ってるの?!」

「え?いや…約束していたっけ?」

「きゃっ何…?セシー、怖い…」


モーリスが正した距離を改めて少女が詰め、そっと肩を少年の胸元に寄せる。

ほのぼのこれから始まる楽しい学園生活初っ端に赤髪の怒髪天を見れば、まぁそうなるだろうと周囲は思った。

小鳥の怯える様子を微笑ましく眺めつつ、いいぞもっと煽れと内心で両手を叩く生徒の方が多いのは仕方が無いだろう。


彼らはこの二年間、平然と佇むモーリス・ラゲール少年と、怒髪天鬼女ヒルデガルド・デイビアのやりとりを面白おかしく眺めて楽しんできた実績があるのだから。


「してませんけど?!してませんけどぉ?!

 私は毎年ちゃんと貴方にライバル宣言は布告したでしょう!」

「そうだね?そうだっけ?」

「キイィ!

 …その余裕っツラ、本気で覚えてないわね」


スンと怒気を取っ払い、ヒルデガルドが真顔になる。

この感情の急降下に周囲が付いていけないのだが、モーリスは気にせず付いてきているので話は続く。


「なら改めてここに宣告するわ!

 モーリス・ラゲール!今年こそは、私、ヒルデガルド・デイビアと!

 主席の座をかけて謹厳実直に、真っ向勝負よ!!」

「ねぇリースお兄さま、早くセシー教室行かなきゃぁ連れて行ってぇ」

「あ、そうだね」


「なのに!!お前は何故またポンコツの世話をしているの!」

「ポンコツは失礼だよ、謝った方が良い」

「ごめんなさい」


懸命にライバル宣誓を叫ぶ少女に応える事はなく、ただただモーリスは自然に非礼を注意した。

それを即座にヒルデガルドが受け入れると分かっていたのか、彼はにこりと微笑みを浮かべて見せると、傍らの金糸雀の背を促して踵を返す。


「一年のクラスに送ってから教室へ向かうよ、先に行っててサティ」

「あ、うん…分かった」


急に声を掛けられた友人は慌てながらも返事を返す。

そうして、もう終幕かと他の学生らも動き出す中、唇を尖らすヒルデガルドの肩を叩く手があった。

ちろりと見上げた先には、如何にも楽し気で軽薄な笑顔がある。


「ポンコツに取られる最速記録更新じゃん」

「もうほんとアイツ…いっそポンコツに守られているのでは?」


ぐぬと眉間に寄った皺を、幼馴染のセルゲイが指でつつきほぐす。

それを払い除けて彼女は颯爽と歩き出した。


ああ、今年の一年も、奴はポンコツの世話ばかりするのだろう。


(勝負出来ずに、終わるなんて…そんなの、嫌!)



こうして、少女の最後の学園生活は憤悶を宿して始まったのだった。



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