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偏見の向こう側から

「やってしまった…」

城の案内が終わり夜になったころ、用意されたベッドの上で私は自己嫌悪をしていた。

あの子、怖がらせちゃったな。

この腕輪のせい…いや私が強制的に押さえつけるなんて考えなければ…。

でもあれ以外にどうすればよかったのか。

「帰りたいなぁ」

そんなことをグダグダと考えていると寝つけず気が付けば朝になっていた。


朝、リッチーさんが部屋まで迎えに来る。

「魔王様、本日は普段の業務について…。いえ、本日は魔王城の皆さんとの交流をしましょうか」

私が浮かない顔をしていたからだろう。

気を使ってくれているらしい。

「ではまず庭園から」


庭園に行くと植物をまとった人が何やら作業をしていた。

「あれ?庭が直っている…」

昨日の惨状はどこへ行ったのか青々とした芝生の匂いが鼻をくすぐる。

壁はまだ崩れているようだが花壇には青、赤、黄色といった様々なきれいな花が見える。

そして中央には立派な木が植えられていた。

「魔王様!」

こちらに気づいたようでゆっくりと向かってくる。

「いかがでしょう?壁はこれからゴーレムが来て補修してくれる予定ですができる限り元の状態に近づけました」

昨日の惨状なんて最初からなかったようだ。

「すごくきれい…。あ、いやそれより昨日は大丈夫だったの?」

「昨日…あぁ!ハルが飛びながら遠距離攻撃をし続けて自分とズメイは負けてしまいました。これで152戦103敗47勝2分けですね」

ものすごい戦ってる。本当に日常茶飯事なんだな。


「おお!ここにいたか!」

噂をすれば鱗の人とハーピィの人が庭を覗いてこちらに向かってきた。

「魔王よ!…いや、様?殿か?とにかく!昨日はすまなかった!」

「私も…戦いを挑まれてついカッとなってしまいました。申し訳ないです」

そう言って頭を下げてくる。

「えぇ!?いや、私は別に…」


慌てているとリッチーが少し笑う。

「四天王が揃いましたな。我々、まだ自己紹介もしていないのではないですか?」

「おお!確かにそうであるな!我はズメイ!竜人だ。この城の門番をしている」

「自分はミドリ。迷いの森の管理をやっています」

「ハル。ハーピィ部隊の長をやっています」

「最後にわたくしがリッチー。魔王城の業務や家事など基本的な業務はわたくしがやっております」

一人ずつ握手をしていく。

「私は…」

あ、どうしよう。元の世界の名前でもいいんだろうけど、魔王としての名前とかあったほうがいいんだろうか。

「どうした?名前を決めてないのか?だがそれもよかろう!」

「ズメイは大雑把すぎる。しかし、早めに決められた方がいいかと」

ミドリさんが悩ましげにこちらを見る。

「うーん、考えておくね」

そんなことを言いながらいつの間にか私も笑っていた。


「ではそろそろ行きましょうか、ミドリも作業がありますでしょう?」

「そうだね。ハル、ズメイ、君たちも手伝ってくれ」

「わかった」

「任せるがいい!」

そうして私たちは庭園から離れる。


「みんな仲がいいんだ」

そうして歩いているとまた大勢が走ってくるような足音が聞こえる。


「「魔王様-!」」


角から現れたのはゴブリンとハーピィたちだ。

「どうしました?またトラブルですか?」

「あ、リッチー様!我々ゴブリンとそこのハーピィ一同、昨日ご迷惑をおかけしたことを魔王様に謝りたく」

「え、私?」

「おい、『そこ』とはなん…いや、今日は謝りに来たんだ。すみませんでした」

ゴブリンとハーピィが頭を下げる。

「いや待って。私昨日みんなを無理やり押さえつけるみたいなことをしてしまって」

「?。力でねじ伏せるのは当然では?」

戦闘民族みたいなことを言い出した。

「昨日の魔王様のお力すごかったです!我々をアイテム1つでねじ伏せる能力!まさに魔族の上に立つお方!」

ゴブリンとハーピィがうっとりしている。

なんて返事しよう…。

「それは後でいいでしょう。あなた方、反省はしているのですか?」

「はい!」

「ではもう二度と問題を起こさないと言えますか?」

「……はぁ"い"」

ものすごく嫌そうな「はい」だ。絶対またやるね。


「ぷ…くく…あははははは!!」


「ま、魔王様?」

リッチーもみんなも困惑している。

「いやごめん。みんな自由なんだなって。ありがとう、謝ってくれて。あと私もごめん」

「魔王様が謝る必要など!」

頭を下げた私に対しハーピィとゴブリンたちがうろたえる。

「いいの、私が謝りたいだけだから」

「え…」

「でもほどほどにね」

「はい!」

笑顔でそう言うとみんな整列して元気のいい声が聞こえた。


「じゃあもう行っていいよ」

「はい!忙しいところ失礼しました!」

後ろを向き、

「燃えながら飛ぶのはかっこいいんじゃないか?」

「それいいかも!やってみようか!模擬戦をしよう!」

そんなことを言いながら廊下の角を曲がっていった。


「リッチーさん。私、みんなのこと勘違いしてたかも」

足を止めつぶやくように言った。

「どういう意味でしょう?」


「私、みんなの姿を見ただけで怖い人たちなんだって決めつけて、魔王なんて悪役みたいなこと絶対やりたくないって思ってた」

もし逃げられるなら逃げようとも考えていたしね。

「でも違った。自分のやりたいことをやっているだけで、悪いと思うことはしないし、迷惑を掛けたらちゃんと謝る。まだ案内してもらってすぐだけどみんなの空気に触れてそれがちゃんとわかった」

ゆっくりとこちらの目を見て笑いかけてくる。

「それはよかったです」


「リッチーさん、一つ聞かせて。この仕事、楽しい?」

目を閉じ、一呼吸おいて答える

「もちろん、楽しくて仕方がありません」


どたどたと足音がする。

リッチーの部下であろうゾンビがどこからか走ってきたようだ

「リッチー様!同士のゾンビ10人が焼却炉に飛び込んでしまい、スケルトンに!」


「まぁトラブルは絶えませんがね」

苦笑する姿を見て私も少し安心して笑う。

「ふふっ」

「ま、魔王様?リッチー様?」

そうなんだ、みんなケンカやトラブルばかり起こしてるけど悪い人じゃない。


「行こう、リッチーさん、骨まで溶けたら大変だ」

「ええ、そうですね」

「あ!それと昨日怖がらせちゃった金髪の子を呼んできてくれないかな?ちゃんと謝ろうと思う」

「アーサー殿のことですか?わかりました、では後ほど呼んで参りましょう」


ありがとう、みんなのことがわかってきたよ。

そうして一歩、私は踏み出した。

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