支配の腕輪
急に魔王として担ぎ上げられてから翌日。
置かれている状況の整理などをしてようやく実感がわいてきた。
まだ納得はできないけど。
そして現在、フードをかぶった骸骨姿の男が城の中を案内してくれている。
「これ、やっぱり捨てちゃダメかな?」
腕輪を見ながら言う。
「あなた様が王である証です。なくなれば魔境は混沌と化します。強さとカリスマ性、魔力量などあなた様は選ばれて魔王となったのです」
それで元OLが選ばれるのはちょっとシステム見直すべきでは。
「強さもカリスマ性もないんだけどなぁ。魔力はよくわからないけど」
「覇王の腕輪は魔王様の魔力でしか使用できません。魔族にだけ働き魔王様にしか使えない特別なアイテム、それが存在するというのが大事なのです」
抑止力になるみたいな感じかな。
その時ドタドタとゾンビが走りながらこちらへ向かってきた。
「魔王様!リッチー様!四天王のお三方が問題を!」
「なに?どういうことだ、案内しろ」
現場は城の中庭だった。
「ぬぅ!やはり強いな!しかし我も本気を出すぞ!」
「私より遅いくせに何を言っている?」
「自分は早く森へ戻りたいんだが」
壁が崩れ、木が倒れ、花壇がぐちゃぐちゃだ。
「え?え?なんでこんなことになってるの!?」
「はぁ…いつものことです。今回のケンカの原因は何ですか?花壇をこんなにして…」
「リッチーか!この中で一番強い者を決めようと思ってな!もちろん我だが他の2人が譲らなくてな!」
「だとしてもここでやらないでください。私が育てた庭園ですよ」
「リッチー、すまない。植物のために動いている身として謝る。後で元に戻すから」
「外で決着をつけるぞ、ズメイ」
「やる気満々だな!ハル!」
そう言ってどこかへ行った。
「こういうのよくあるの?」
「よくあるどころか…」
そしてまた別のゾンビが駆けてくる。
「魔王様!リッチー様!ハーピィが城に侵入してゴブリンたちとケンカを!」
「毎日ですよ」
「あんたたち魔王様に迷惑かけたってなぁ!もう部隊とか解散したらいいんじゃない?」
「なにぃ!お前らこそろくな連中じゃねぇだろ!」
「なんだって?おい、やっちまえ!」
次の現場に行くとハーピィが飛びながら戦ってゴブリンが槍で応戦していた。
「ねぇ!これ止められない!?」
「止めることは…かなり骨が折れそうですな」
リッチーが考え込む。
「どうしよう、このままだと城どころか死人が…」
その時腕輪を見る。
「リッチー…さん?でしたっけ。この腕輪、ハーピィとゴブリンだけに作用させることってできるかな」
「は?光の方向さえ間違えなければできますが…」
「ありがとう!光の方向ね!」
昨日はできた、あの感覚をこの人たちに。
腕輪が光る。
「うっ!」
「ぐあぁ!!」
「ぬぐっ!!」
そう言ってバタバタと苦しみだし倒れていく。
「何とかなった…?」
「ひっ!」
声のする方に顔を向けると金髪ショートの小さな女の子がこちらを覗いていた。
「アーサー殿!なぜここに」
ビクビクしながら部屋へ入ってくる。
「ハーピィ様たちが騒いでいたので、何があったのかと…」
かわいい。
人間…だよね?よかった、ここにも人間がいたんだ。
「あの」
近づいて声をかけようとするが
「やめて!あ、ハ、ハーピィ様と…ゴブリン様の…手当を…」
「あ…」
ハッとして後ろを見るとハーピィとゴブリンがぐったりとしている。
これ、私が無理やり押さえつけたんだ…。
「アーサー!魔王様に無礼を!」
「う…。失礼します!」
逃げるようにどこかへ行った。
「申し訳ありません、魔王様」
「いや、これは私が悪いよ。ごめん、手当をしてあげて」
どんよりとした空気が流れ、そのあと何を話しても頭に入って来ず最悪の日となった。
私、どうすればよかったんだろう…。




