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【秋の文芸展2025】嘘を分け合った夏

作者:妙原奇天
最終エピソード掲載日:2025/10/07
 夏の体育館は、暗くしても熱が消えない。
 演劇部・夏公演『八月の残響』。男子ふたりが恋人役を演じる。台詞にある「好き」は、稽古のための“合図”で、嘘で、練習用の鍵。
 成瀬は笑って言う。「嘘くらい上手にやるよ」。相模は眉を上げるだけで、「嘘は稽古の燃料だよ」と返した。
 舞台袖の匂い、照明の埃、板の軋み。何度も言い合う「好き」は、やがて重さを変え、気づけば喉に引っかかる。稽古だから触れる、稽古だから見つめる、稽古だから心拍を揃える――そう言い聞かせれば言い聞かせるほど、成瀬は台詞の軽さを失っていく。
 相模は気づいているのかいないのか。合図の握手は毎回同じ強さなのに、終わったあとだけ指先が遅れて離れる。
 本番前日、ふたりは台本の一行「好きだ」をめぐって衝突する。成瀬は“ほんとう”に寄りそうとし、相模は“役”に後退する。
 迎えた本番。―。

成瀬 湊(なるせ・みなと):2年。軽口で場を回す主演タイプ。嘘は得意だと思っていた。

相模 陽(さがみ・はる):2年。台詞を丁寧に積む実直派。嘘を嫌わないが、嘘の熱を怖れている。

顧問・橘:現実的な采配。舞台は“約束の場所”だと教える。

一年・桐野:小道具。二人を観察している目。
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