エピローグ1:佐藤 英明
地方支社に飛ばされて、もう1か月が経った。
本社で営業第2局の局長として何十人も部下を抱えていた頃とは違い、今はわずかなスタッフと小さな案件を回すだけの日々だ。
それでも広告は広告だ。足を使って、汗をかいて、頭を下げる。そうやって今日も営業に歩き回っている。
昼どき。
部下を連れて、商店街の定食屋に入った。
安っぽいカウンターと、昼時で賑わうざわめき。注文を待つ間、壁際のテレビが視界に入った。
※※※
「――Silicon Valley AI Paper Contest。今年度の優勝者は、日本出身のエンジニア、大田秀介氏!」
画面に、見覚えのある顔が映し出された。
プレゼンで見せた堂々とした姿。
さらに続けて、ニュースキャスターの声が響く。
「また世界最大手の栗田自動車は、本日、大田氏の技術“Agentic Ad Companion”の採用を早くも決定しました」
会場の熱狂。
拍手。
閃光を浴びる秀介の姿。
箸を握る手が止まった。
気づけば、凝視していた。
※※※
「佐藤さん、この人……電報堂グループにいた人らしいですね。すごいな」
隣で若い部下が、感嘆の声を漏らした。
「ああ……本当に、すごいな」
口に出した瞬間、胸の奥に苦いものが広がった。
自分には、もう将来の社長の座も、華やかなキャリアもない。
部下を自死に追い込んだ、駄目な元局長。
そして地方に放逐される時、妻も子も去っていった。
――結局。
ただ一人、大田秀介という男だけが勝っていったんだな。
※※※
それでも、立ち止まってはいけない。
俺にはもう、ここしかない。
「さぁ、午後もまた営業頑張ろう!」
無理やり声を張り上げ、部下を叱咤する。
立ち上がった自分の姿が、窓ガラスに映った。
小さくなった背中。
けれど――歩くしかない。
俺の戦いは、まだ終わっていないのだから。




