第93話:街丘 由佳
シートベルトを締め、窓の外を見つめた。
滑走路の誘導灯が点々と夜の闇に並んでいる。
胸の奥は空っぽで、ただ嗚咽だけが繰り返し込み上げてくる。
――終わってしまった。
私の最初で最後の恋が。
※※※
肩が震え、涙が止まらない。
隣の席の女性が心配そうに身を寄せてきた。
「Are you okay?」
柔らかな英語の響き。
私は声を詰まらせながら、英語で答えた。
「I… I just lost… my first and last love.」
言葉を吐き出した途端、胸の奥から溢れ出すように涙がこぼれ落ちた。
※※※
女性は小さく頷き、静かに微笑んだ。
「It’s okay. When something ends… something new will begin.」
大丈夫。終わったら、また始めればいいのよ。
その言葉が、心の奥にそっと沁み込んでいく。
※※※
機体がゆっくりと動き出した。
滑走路に並ぶ光が流れ、やがて夜空へと機体が浮かび上がる。
――遠ざかっていく街の灯り。
置き去りにしてきた人。
残してきた愛。
窓に映る自分の濡れた顔を見つめながら、私は胸の中で呟いた。
「……さよなら、わたしの秀介」
私はもうずっと前に間違えていたのだ。
あの喫茶店で秀介を見送っていた時に、もう間違えていた。
――ああ、人生は本当にままならない。
エンジンの轟音とともに、私の嗚咽も夜空に溶けていった。
飛行機は、涙を抱えたまま、未来へと飛び立っていった。




