第82話:高瀬 彩花
会場に張り詰める空気は、ただの学会やカンファレンスのものではなかった。
Silicon Valley AI Paper Contest――世界中の投資家、研究者、エンジニアたちが集い、未来を競う舞台。
今回はすでに噂が走っていた。
大田秀介という日本人の研究者がAgentic AIを用いたものすごく斬新な発表するらしい――その一報だけで、最終的なエントリー数が大きく減ったという。
他の出場を検討していたメンバーは、その発表の斬新性を恐れたというのだ。
結局、残ったのはわずか五件。その最後に秀介が配置されている。
主催者の期待が、これ以上ないほど明白に示されていた。
※※※
前の発表が終わるたびに、私の鼓動は速くなった。
隣では桑島部長が落ち着いた表情を装いながらも、指先が机を叩くリズムで緊張を隠しきれていない。
遥は小さな声で「もうすぐですね」とつぶやき、まるで選手入場を待つサポーターのような目でステージを見つめている。
そして――。
いよいよ、秀介の名前がアナウンスされた。
※※※
大きな拍手に包まれて、彼がステージに現れた。
黒のTシャツにジャケット。肩に無駄な力がなく、自然体のままヘッドセットを装着している。
けれどその立ち姿は、誰よりも堂々としていた。
――還ってきた。
目の奥が熱くなる。
そうだ、私たちの秀介が。
世界よ、見なさい。
これがわたしたちの秀介なの。
どうしてあなたたちは、もっと早く彼を見つけてくれなかったの?
でも――もういい。赦してあげる。
私も、由佳も、ずっと信じていた。
信じて、この瞬間を待っていた。
今、この時から世界は変わるのよ。
※※※
視線の先で、秀介が静かに口を開いた。
低く、落ち着いた声が、ホール全体に響く。
背後のスクリーンに最初のスライドが映し出される。
――Agentic Ad Companion。
プレゼンが始まった。
胸の奥で、何かが爆ぜるように脈打った。




