第4話:街丘 由佳
健太がアメリカから一時帰国している――そんな知らせを聞いたとき、迷わず出席を決めた。健太の話を聞きたい気持ちもあったが、正直なところ、それ以上に大きかったのはやっぱり「秀介に会える」という理由だった。
私と秀介は、今でも頻繁に顔を合わせている。仕事終わりに飲みに行くこともあれば、休日に映画を観に行くこともある。誰から見ても「デート」と呼んで差し支えない時間を過ごしている。けれども、恐らく彼はそれを恋愛だとは思っていない。
――私は、秀介と私の関係というのが分からない。
ただ、時間がある時に、ふとメールしてしまう。チャットをしてしまう。そしてタイミングが合えば、また一緒に食事をするし、話題になっている映画があれば一緒に見に行く。そういう関係性で、そこから何も進まない。
健太は日本GBCの同期入社だった。でも2年で固い社風に見切りをつけ、自身で米国のスタートアップ企業に売り込みを図り、さっさと転職を決めていたのだった。もうシリコンバレーに住むようになって1年にはなる。
居酒屋のテーブルを囲み、健太がスタートアップでの挑戦を語る。アメリカでのスピード感や失敗を恐れない文化に、皆が感嘆の声を上げた。直人は結婚の話題を口にし、彩花は職場の愚痴を笑いながら話した。彩花は、秀介と同じグループの本体で、大学時代の研究内容とはあまり関係が深いとは言えないけれど、華やかな広告の仕事をしている。でも、にぎやかな声が響く中で、私は隣に座る秀介の横顔ばかりを見ていた。
健太が「お前はどうなんだ、仕事は順調か?」と振ると、秀介は「まあ、忙しいよ」とだけ答えた。昔なら夢を語り出して止まらなかった彼が、今は短い言葉で片づけてしまう。
私は胸の奥がきゅっと締めつけられた。あの、彼の夢が終焉を迎えた時から、彼は夢について話をするのを止めてしまったように思う。そういう彼が抱えている、ある種の痛みのようなものを、誰も気づいていないように見える。でも、例えばそれを私が気づいていると言う事が、逆に秀介を苦しめてしまうような気がして、だから私は何も言えないまま、ただ、彼の横顔を見ているしかない。
帰り道、人波に流されながらも、私は彼の歩幅に合わせて歩いた。
「……久しぶりで、ちょっと疲れた?」
何か話さなければならないと思って、やっと出た言葉に、彼は少し驚いたように振り返り、「大丈夫だよ」と笑った。その笑顔は少し不器用で、何かを諦めた感じがしていた。
健太や直人のように自分の道を選び、迷いなく進んでいる人間たち。
その中で、秀介は足を止めたままなのかも知れない。
私はその背中が、どうしようもなく寂しかった。




