第47話:街丘 由佳
数日後、彩花と顔を合わせたとき、私は抑えきれない笑みを浮かべていた。
「……健太から聞いたの。秀介と連絡を取り合ってるって」
「ええ!?……それで、どうなったの?」
興奮する彩花。
声を弾ませながら私は答えた。
「健太の所属するスタートアップのファウンダーから、正式にオファーが来たんだって。渡米しないか、って」
その瞬間、彩花の目が大きく見開かれた。
「本当に……? ……やっと……」
言葉が途切れ、代わりに涙が光った。
「やっとね。――わたしたちの秀介が、還ってきたのよ」
気づけば私も声を震わせていた。
ずっと「処理屋」として仮面をかぶっていた彼が、やっと夢を追いかける彼自身に戻ろうとしている。
胸の奥が熱くてたまらなかった。
けれど、その喜びと同時に、胸の中に重い問いが沈んでいた。
――美沙と、本当に離婚するのだろうか。
もしそうなれば、彼は独り身になる。
ならば……そのときは。
想像した途端、頬が熱くなる。指先が震え、視線を伏せた。
彩花がふと真剣な表情で言った。
「……でもね、由佳。会社での美沙、最近憔悴していて……休みがちなの。顔色も悪いし、周囲も心配してる」
胸が痛んだ。
美沙の苦しみは理解できる。彼女にだって愛があった。
けれど、それでも――。
――もう秀介を自由にして。
――もう秀介を私に返して。
心の中で、女としての声が鋭く響いた。
彼を愛しているのは私だ。
本当に愛しているのは絶対に私の方だ。
あの笑顔を守りたい。あの夢を支えたい。
その思いに、偽りはなかった。
彩花は黙って私を見つめ、そして小さく頷いた。
その頷きに、二人の願いが同じ方向を向いていることを感じた。
――やっと秀介が還ってきた。
だからこそ、今度こそ失わせてはならない。




