表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/98

第44話:大田 秀介

 車窓の外を流れる風景は、どこまでも灰色だった。

 義父母の家を後にし、電車に揺られる帰路。

 母と妹が両脇に座っている。三人の間に漂う沈黙が、胸に重くのしかかっていた。


 先に口を開いたのは妹だった。

 「……私、どうしても美沙さんを許せない」

 小さく、けれど抑えきれない怒りがこもっていた。

 「兄さんを悲しませて……裏切って……。兄さんは私の誇りなのに」


 オレは何も返せなかった。ただ、車窓に視線を逸らした。


 母が妹の肩に手を置き、低く言った。

 「……もういいのよ。美沙さんのことは」

 そしてオレを見やり、心配そうに尋ねてきた。

 「秀介。あなたは、これからどうするの?」


 問いかけに、オレは少し息をついた。

 「……今さら研究者としてやっていくのは無理だろう。道を外れて十年以上だ。だから、別の方向性を考えるつもりだ」

 静かな声だった。諦めではなく、淡々とした決意。


 母はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

 「いいのよ。どんな道でも。もう、あなたがしたいように生きてくれれば」


 妹も、涙ぐみながら言葉を継いだ。

 「……本当に、ごめんね。私、兄さんに全部背負わせて大学まで出させてもらった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなの」

 目を潤ませたまま、唇を震わせて続ける。

 「でもね……私、今、お付き合いしている人がいるの」


 オレは驚いて妹を見た。

 妹は必死に笑おうとして、けれど涙が頬を伝っていた。

 「だから……お兄ちゃんも、もっと幸せになってほしいの。自分のことだけ考えて……笑って生きてほしい」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 オレは目を伏せ、しばらく言葉を失った。

 電車の揺れの中で、母と妹の存在がこんなにも温かいものだったと、今さら気づかされていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ