第2話:大田 秀介
社会人としての仕事の仕方というのは、所詮こんなものか――入社して仕事に慣れてきた頃のオレの正直な感想だった。
広告の本体が担う華やかな舞台とは無縁の、システム開発や運用保守。もっとも、その華やかさも所詮は上辺だけだということを、オレはすぐに理解するようになっていった。クライアントの言うことが全てであり、それに応じるためにシステム的な手立てを尽くすのが、オレたちの役割だった。
システムの不具合を修正するためにログを追い、納期の迫る案件に夜遅くまで張り付く。プレゼンの舞台に立つのは本体の社員で、オレたちは裏方としてひたすら動くだけ。だが、無理難題を押し付けられて疲弊する彼らの過酷さを理解できるようになってからは、むしろそれを労りつつ、自分にその負の影響が降りかからないように用心深さを身につけていった。
パソコンの画面に向かい、ひたすらコードを書き直し、意味の分からないエラーメッセージと格闘し、とにかく処理を進める。終電に飛び乗り、自宅に着くころには日付が変わっていた。それでも翌朝はまた早く出る必要がある。
――これが、オレの選んだ仕事なのか。
研究室にいた頃は、最新の論文を追い、自分のアルゴリズムを形にするために夢中でノートPCに向かっていた。そこには「自分の名前で世に残せる何か」があると信じていた。だが今は、誰が書いたかも分からない古いコードの穴を塞ぎ、クライアントの怒りを避けるために夜を費やしている。
「大田くん、これ明日までに対応してくれる?」
上司から投げられる案件は、どれも期限が短い。理由を聞けば「とにかく客が怒ってるから」で終わる。思考の余地などなく、体力と時間を削って片づけるしかなかった。
給料は悪くなかった。大企業グループに属しているという安心感もあった。母は「よかったね」と笑い、妹は「お兄ちゃんすごい」と言ってくれた。
――そしてオレ自身も、これでいいのだと自分を納得させていた。
研究者にはなれなかった。夢を叶える舞台には立てなかった。
それでも、家族を支えるためにこの道を選んだ。
そう自分に言い聞かせながら、オレの社会人としての最初の一年はまたたく間に過ぎていった。




