第33話:街丘 由佳
彩花からの電話は、夜遅くにかかってきた。
「……結局、冷却期間を置くことになったみたい」
静かな声に、重苦しい現実が滲んでいた。
彩花は淡々と説明した。美沙が泣き崩れ、秀介にすがりつきながらも、最終的には「しばらく別居」という結論に至ったこと。
彼女自身も、美沙の言葉には胸を打たれるものがあったと付け加えた。
「美沙の気持ちも分かるのよ。……愛してるからこそ、あんな風に壊れてしまう。私だって、もし逆の立場ならそうなっていたかもしれない」
受話器越しの彩花の声に、私は驚いた。
ずっと厳しい言葉を美沙にぶつけてきた彩花が、今こうして「可哀想だ」とまで言う。
その裏には、きっと罪悪感もあったのだろう。自分が追い詰めたのではないかという。
「だから、これ以上は刺激できない。私は先に出たわ。……あとは二人に任せるしかないと思う」
通話が終わったあと、私はしばらく机に伏したまま動けなかった。
――関係は、もう壊れてしまったのだろうか。
そう思う一方で、美沙が可哀想だという気持ちも確かに芽生えていた。
だけど……それでも。
私はスマホを手に取り、指先が震えるのを感じながら画面を開いた。
この状態で直接会いに行くのは、さすがにまずい。
でも、黙って見ているだけなんてできなかった。
私はLINEの入力欄に文字を打ち込んだ。
――「なにがあっても、私は、私だけは秀介の味方だから」
送信ボタンを押すまで、心臓の鼓動が耳に響いていた。
既読がついたのは思ったよりも早かった。
『ありがとう』
その一言だけ。
けれど、今の私には、それが何よりも重い返事だった。




