第24話:高瀬 彩花
試乗キャンペーン・イベントは、想像をはるかに超える盛況だった。
最新のコンセプトカーに乗り込んだ参加者たちは、まるで子どものような笑顔で降りてきた。行き先指定から現地情報の照会、音楽や温度調整に至るまで、車が自ら“会話”を通じて応えてくれる。その自然さに、驚嘆の声が絶えなかった。
「栗田自動車は未来を持ってきてしまった」
「まるでオーパーツのようだ」
専門誌の記者が興奮を隠さずにそう言い切るのを、私は耳に焼き付けた。
実際に、このキャンペーンと並行して実施された栗田自動車ディーラー各社による販売は、前年同月比で大きく上向いているという。これは今回のキャンペーンによる「未来的」「先進性」という部分が、販売モデルのブランド感を大きく底上げした事を、数字によって立証してくれていた。
栗田の広報部長も、開発部の主任も、晴れやかな顔で握手を繰り返していた。
「今後も、こうしたプロジェクトを定期的に実施していきたいと考えています」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。ここまで辿りつけたのだ。あの場で勇気を出して秀介を推したことが、確かに正しかったのだと。
――そして、その中心に立っているのは秀介だった。
淡々と、丁寧に。だが圧倒的な説得力で、専門的な問いに的確に答え、時には試乗者の問いかけに軽いユーモアすら交えて返していた。マシーンのように冷静でありながら、人の感情を逆撫ですることもなく、むしろ安心させるその態度。栗田自動車が「次回も」と口にしたのは、彼の存在があったればこそ、なのだ。
会場を見渡せば、電報堂本体の営業たちの顔は硬かった。成功の余韻に浸るはずの笑顔が、どこか引きつっている。
――そう。彼らは気づいてしまったのだ。
自分たちが“空気”になっていることを。
そして、その原因が私ではなく、秀介にあることを。
私が仕切った、という物語なら彼らも納得できただろう。だが現実は違う。会場の誰もが「大田秀介」という名前を覚えて帰った。その事実が、彼らの胸にじわじわと反感を育てているのを、私は敏感に嗅ぎ取っていた。
夜、打ち上げの席。
ホテルの宴会場を借り切った会場には、栗田自動車の幹部も出席していた。
「いやあ、今回のキャンペーンは本当に素晴らしかった」「これほど短期間でここまで仕上げるとは」――無礼講の場とはいえ、一言一言が丁寧な礼を欠かさない。私たちもそれに応じ、笑顔で杯を交わし続けた。
けれど、その夜はそれだけでは済まないような予感があった。
浮かれた空気の裏で、電報堂本体の営業たちの目が時折、鋭く光っていた。彼らはもう、私ではなく――秀介そのものに、その反感を向け始めている。
グラスの冷たい縁に唇を触れながら、私は小さく息を吐いた。
――ここからが本当の勝負になる。
胸の奥に広がる高揚感と、冷ややかな緊張とを、私は同時に抱えていた。




