プロローグ 夢の終焉:街丘 由佳
終わりを告げる時というのは、いつだって唐突なものだ。
それでも、あの秋の日、最後に見上げた夜の空を私はいまでも鮮明に思い出す。
有楽町の国際フォーラムで開催されていた、人工知能の新研究に関する論文コンテスト。天井から降り注ぐ光の下、彼はまるで自分の存在を忘れられたかのように立ち尽くしていた。壇上に名前を呼ばれることを、あれほど願っていたのに。
「最優秀賞、東都大学チーム!」
アナウンスと同時に拍手と歓声が弾けた。優勝したチームの笑顔が会場の中央を照らすなかで、彼は影のように立ちすくんでいた。
私の目には、その姿こそが強く焼きついている。
秀介。
大学時代、誰よりも熱心に研究に向き合い、AIで世界を変えると本気で信じていた。仲間の誰よりもノートパソコンに向かって過ごし、最新の様々な関連論文の隅にまで赤字を走らせていた人。その人が今、こんなにも小さく見える。
拳を握りしめているのが分かった。彼の指先は白くなっていて、爪が食い込んでいるはずだ。隣で「次があるさ」と笑う仲間の言葉に、彼が頷かなかったことも、私は見逃さなかった。
――次なんて、彼にはもうない。
私は知っていた。彼の父親が病に倒れていること、大学院進学を諦めなければならないかもしれないこと。彼が背負っているものの重さを。だから、この敗北がどれほど彼を打ち砕くか、分かっていた。
大学院進学に向けて準備していただけだったので、就活も全くしていなかった。マスターとなる事を諦めてからは、このコンテストでなんとか認められて、自らの道を切り開く覚悟で取り組んできていた。
講堂の扉が閉じる直前、私は彼の背中を見た。肩がわずかに震えていた。
あの背中を追いかけたくても、私は足を一歩も動かせなかった。声をかければ、彼の痛みに踏み込むことになる。だけど――声をかけないことで、もっと彼を孤独にしてしまったのかもしれない。
あの夜から、私は何度も同じ問いを繰り返している。
もしあのとき、私が彼の隣に立って「まだ終わりじゃない」と言えたら、何かが変わっていたのだろうか。
けれど、私はただ黙って見ていただけだった。
……夢が終わる瞬間を、最も近くで見てしまったのに。
その痛みを自分の胸にしまい込んだまま、私は社会に出て、別の道を歩くことになった。
そして彼もまた、全く別の道を歩んで行った。




