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ご依頼品

おいしい紅茶の後は、少し真面目にお仕事です。

作 まだ蕾だった赤い薔薇は綺麗に咲くのでしょうか!


作り始めて1週間がたった。


やっと、やっとグレイシア公爵夫人からの依頼品である、赤い薔薇の刺繍が入ったハンカチが出来上がった。作り始めた時は、納品期限ギリギリまでかかるなんて思っていなかった。

針が踊らない。

糸が舞わない。

それでも作り続けないと。私が無くなっちゃう。


私の体は、自分の意思に逆らうように日に日におかしくなっている。



「ベノン夫人、グレイシア公爵夫人の依頼品が出来上がったので見て貰えないでしょうか。」


「えぇ、見せてちょうだい。……今回もとても素晴らしい出来栄えね。みごとな薔薇ね。これなら公爵夫人もきっと喜んでくれるはずよ。」


そう言うと、少し悲しそうな眼差しで私を見つめる。


「貴女は幸せになるのよ」


いきなりどうしたんだろう?

私は大好きな父の跡を継いで刺繍ができている今がとても幸せなのに。



「ルディ、これをグレイシア公爵家に届けてくれない?」


綺麗にラッピングしたハンカチを搬送するために、ルディに擦り寄りに来た。


「ん」


相変わらず私には一言しか返してくれないが、この言葉には、

分かった

すぐにやる

今日中には届く

という意味が込められている。

工房の外の人に言ったら同じことを何度か繰り返すことになるだろうな。


「ソルにしては今回の依頼は時間がかかったな。」


ルディは本当に痛いところを的確に突いてくる。


「それは私も分かっているよ」


「そうか。悪かったな。」


少し冷たい言い方になっちゃったかな…。


「ベノン夫人はなんて?」


「とっても素晴らしいって褒めてもらった」


「そうか」


工房を出るルディの背中が、とても大きく見え、それと同時に視界が波打ち、頬が冷える。


「私が1番分かってるよ。ルディのバカ」

「美しいものを作る」という誇りと、逃げられない現実。

その狭間で、ソルはただ懸命に、今日も針を持っています。

でもきっと、彼女の刺繍には、誰にも真似できない想いが込められているんだと思います。

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