怒らない彼が、怒った日。
いつも甘々な話ばかりなので、今回はビターなお話をひとつ。
彼は本当に、やさしい人なんです。
普段はにこにこしていて、声を荒らげることなんて皆無。わたしがちょっとグチっても、「大変ですね〜」なんて、ほぼ天使の微笑みで受け止めてくれる。
そんな彼と付き合ってからというもの、ケンカなんてしたこともなく、毎日が平和そのものでした。
……そう、あの日までは。
事の発端は「カフェに行く約束」でした。
午後からふたりで行こうって決めてたのに、当日、私が疲れてしまって、つい「やっぱ行かなくていいや」って、ノリで言っちゃったんです。理由もロクに伝えず、やや不機嫌気味に。
すると彼が、ものすごく静か〜に、でも明らかに空気を変えてこう言ったのです。
「しろさん。行きたいと言っていたのに、なぜ急に変えましたか?……残念です」
残念です、って。
心の中で鐘が鳴りました。ゴーン……。
あの「残念です」、ふだんの100倍くらい効きました。
怒鳴られるよりよっぽど怖い。なにせ、普段怒らない彼だからこそ、その一言がすごく効く。まるで、モフモフな猫に引っかかれたような、意外性とダメージのダブルパンチ。
泣きながら謝りました。
「ごめんなさい、ちゃんと伝えなくて。疲れてただけなんです……」って。
自分で言いながら「これは子どもの謝り方では?」と内心つっこみつつも、必死でした。
彼はしばらく黙っていたあと、「わかりました」と、やっといつもの表情に戻ってくれました。
このときばかりは、本気で「別れ」を覚悟しました。
あれ以来、「何を感じてるかはきちんと伝えること」「疲れてても八つ当たりしないこと」を、少しだけ、心がけています。
にしても、「残念です」って、あんなに刺さる言葉だったんですね。今や、私の中では「静かな怒りランキング」堂々の第1位。
ふだん怒らない人が怒ると、ほんとうに怖いです。
そして、だからこそ、ちゃんと向き合わなきゃと思う。
みなさんもどうぞ、ご用心を。