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彼は、静かな読書家です。

彼は、日常的に本を読みます。

それも「読書好き」というより、読書そのものが生活の一部という感覚。


大学院での専攻はフランス文学。

詩や小説、論文……その読書量には、いつも驚かされます。


一方の私はというと、漫画やライトノベルが中心。

難しい長文を読むと、途中で目が滑ってしまうタイプです。


そんな私たち、かなりの正反対。


けれど彼の読書スタイルは、意外なほど幅広くて。

フランス文学はもちろん、日本の小説(フランス語訳)や、ラテン語の古典まで。


……はい、ラテン語です。


ある日、何気なく聞きました。


「今日、何読んでたの?」


彼は、さらりと答えました。


「カエサルの『ガリア戦記』ですよ」


……カエサル。

私の中では、歴史の授業で名前を聞いた記憶しかない人物。

その著作をさらっと読んでいる彼に、ちょっとめまいがしました。


しかも、あるときはアウグスティヌスの『告白』。


そんな高尚な作品を、まるで週末のエッセイを読むような感覚で手に取る彼に、私はただただ感心するばかりです。


でも彼は、決してそれをひけらかすこともありません。

むしろ、私がライトノベルを書いていると話すと、目を輝かせてこう言ってくれました。


「私も、読んでみたいです」


その自然体な姿勢に、ふと胸が温かくなります。

違いを受け入れようとしてくれる人って、やっぱり素敵です。


……とはいえ。


私の作品、

『イケメンIT社長に求婚されました

―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―』


このタイトルだけは、さすがに口にできませんでした。


「作品のタイトルは?」と聞かれても、思わずごまかしてしまって。


彼は、含みのある笑みを浮かべながら

「教えてくれないんですね」と。


……たぶん、もう気づかれているんだろうな。


いつまで秘密にできるか、自分でも分かりません。


でも、そんな日々もどこか心地よくて。

彼との静かな時間の中で、自分の世界も少しずつ広がっている気がします。

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