「ブランコの達人、見参?」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
“お昼にコロネを勝ち取った午後”の締めくくりは、公園のブランコに決めた。
小さい頃と同じ勢いでこいでみたら、思った以上に楽しくてテンション爆上がり。
――子どもたちに「すごい!」って言われた瞬間、ちょっとだけ誇らしかった。
荻野目 蓮
陽葵が勢いよくこいでるのを、
「いやいや、そろそろ減速しよ?」と思いながら見守る係。
でもその笑顔を見てると、つい“そのままでいて”って思ってしまう。
――子どもたちへのフォローも忘れない、安定の“後方支援スタイル”。
【こんかいのおはなし】
夕焼けの色が、ちょっとだけ濃くなってきた放課後。
ふたりで寄り道した公園には、ほとんど人の気配がなかった。
「やっぱ……ブランコ、空いてる!」
「行く気まんまんだったの、知ってた」
そのまま駆け出して、
一台にわたし、もう一台に蓮が座る。
「よし、いっきまーす!」
ギッ、ギッ――
最初はゆっくりだったけど、
わたしはすぐにテンションが上がって、
立ちこぎに切り替えた。
「わあ、風、きもちいいーーー!!」
「おーい、あんま飛ばしすぎんなよー」
蓮は、となりで座ったまま、
のんびり漕いでた。
それでも、
目線はずっと、わたしの方をちらちら見てる。
「ねえねえ、こんな感じだったよね?小さい頃!」
「そうそう。……もっと小さかったけどな」
「ブランコって、なんでこんな楽しいんだろうねぇ!」
「バランス崩す前に着地の準備しとけよ?」
「任せとけぇ!」
そんな風に笑ってたそのとき、
ふと、公園の入口にちっちゃな子どもたちが数人現れて、
こっちを見てきた。
「……あれ、見て!ブランコめっちゃ高いとこまでいってる!」
「すごい!お姉さん、プロだ!」
「プロってなに!?プロのブランカー!?」
「“達人”って言われてるよ、陽葵……」
ブランコの勢いをゆっくり落としながら、
わたしは着地して、子どもたちに向かって手を振った。
「どうぞどうぞー!交代しますー!」
「やったー!ありがとう!」
子どもたちが嬉しそうに駆け寄ってくる中、
蓮は、しゃがんで目線を合わせながら、ぽそっと言った。
「お姉さんは、ちょっと特別な訓練を積んだ達人だから……真似するときは、ゆっくりね」
「わあ、すごーい……!」
「ブランコは、楽しく乗るのが一番だからな」
ふわふわと風に乗って、
子どもたちの声と笑顔が、公園にひろがっていく。
わたしたちは、
ベンチに並んで腰かけながら、
その景色を静かに眺めていた。
「ねえ、なんか……すっごく青春って感じしない?」
「陽葵が全力でブランコこいでる時点で、
青春しか感じなかった」
「それ、たぶん褒めてないよね?」
「褒めてる。全力で」
「ふふ、ありがと」
子どもたちに手を振って、
そろそろ帰ろうかって立ち上がるとき、
なんだか、あたたかい風が吹いた気がした。
【あとがき】
ブランコって、乗るだけなのに、
気持ちが“ちょっと未来に届いた”気がしませんか?
陽葵の“全力こぎ”と、蓮の“さりげないフォロー”、
そのバランスが今のふたりらしくて、
まるで、ブランコみたいにゆらゆらとちょうどいい距離感でした。