47話 禁忌への挑戦⑥ ~終結~
岩倉と木野、そして叡斗のバンド演奏を背中に感じつつ、由佳たちは御神体をひとまず安全な場所に移動させた。
「あ。そうだ。顕乗さん。はい。これ」
そういって由佳は顕乗に一万円を差し出した。
───が、顕乗は怪訝な顔をした。
「え? この一万円はなに?」
顕乗ならこの一万円が何であるか、すぐにわかってくれると期待していた由佳は意表を突かれた。
「これは顕乗さんが苗蘇神社のお賽銭箱に入れた一万円です。
願いが叶わなくなったのでお返ししようと思いまして」
そう言われて顕乗はますます怪訝な顔をした。
「僕はお賽銭箱に一万円を入れてないよ?」
「えっ? そうなんですか? 願い事をされた時に入れたんじゃないんですか?」
「確かに願い事はしたし、お賽銭も入れたけど、小銭を入れただけで一万円はお賽銭箱に入れてないよ」
この一万円は顕乗が入れたものに違いないと思っていた由佳は驚いた。
「それじゃあ、この一万円は誰がお賽銭箱に…」
由佳がそう言って一万円に視線を落とすと、9匹の式神が由佳に飛び掛かり、由佳があっと思う間もなく一万円札をかすめ取った。
「あっ! 一万円がっ!」
由佳から一万円を奪った式神たちは相田、備井、椎名、泥田の4人の許に一万円を運んで行った。
「この一万円をお賽銭箱に入れたのは私たちです」
相田が一万円を掲げ、そう真実を告げた。
「あ、あなたたちだったの?」
由佳は意外な人物がお賽銭を入れた張本人だったので驚いた。
「といってもこれは自分たちのお金じゃなくて、お賽銭箱に入れるよう渡されたものですけど」
「ちょっとそれは言っちゃだめじゃない! それを言ったらあの人の存在がバレちゃうじゃない!」
「でももうワタシたちの背後に黒幕がいることはバレてるように思いマス」
「あ、あなたたちは一体何者なの…? どうしてお賽銭箱に一万円を入れたの?」
「私たちの正体は今はお答えできません。ですが、お賽銭箱に一万円を入れた理由はお答えします。
それは苗蘇神社の神様を強くして、一条神社の神様と闘っていただく為です」
「苗蘇神社の神様に、一条神社の神様と闘っていただく…ですって…?」
まったく想像もしていなかった理由に由佳は混乱しそうになった。
「あともうちょっとで布が取り払われて、御神体が露わになるところだったのに…。
そしたら怒り狂った神様同士が闘うはずだったのに…」
「そうよ! 私たちのせっかくの苦労が水の泡じゃない!」
「静子様のお声で惚けてしまったデス。チャンスを逃してしまったデス」
「ど、どうして神様同士を闘わせようとしたの? 一体、何が目的なの?」
「それはこの小説の第二部で明らかになります」
「色々な伏線も第二部でちゃんと回収する予定です」
「…え…? な、何…? あなたたち、何を言っているの…?」
「ダメじゃない! そんなメタ発言をしたら後に引けなくなるじゃない! 第二部を絶対に書かないといけなくなるじゃない!」
「もうすでに書き始めているから大丈夫のはずデース」
「ご、ごめんなさい。あなたたちが何を言ってるのか本当にわからないんだけど…」
由佳は、まさに混乱してしまう寸前だった。
「わからなくていいです。とにかくこの一万円は返してもらいます」
「でもこれで終わりじゃないですよ。またすぐお会いすると思います」
「そうよ! またすぐ会うんだからね!」
「それじゃあ、ワタシたちは行きマス。先輩のミナサン、ご迷惑をおかけして本当にゴメンナサイデース」
そういって4人は背を向けると呆然とする由佳たちを残して去っていった。
「なんだったの、あの子たち…」
由佳はわけがわからず、4人を追うこともできなかった。




