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泉でまた  作者: 漆黒のバナナ
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第一章 剣は腰に

 あの日は空は晴れ渡り、雲一つない快晴だった。孤児院で暮らす僕たちはいつも一緒に遊んでいた。そう、六歳のあのときも。

「アオト、今日最後だっけ?」

 鳥の人間のハーフ。鳥人の男の子、ヘロウが言った。いつも元気だけど、この時は少し元気がないように感じた。鷹の頭を持つ彼は、かっこよくて、僕は憧れていた。背中には茶色い羽根がはいていて、ヘロウに訊くと、大人になると空を飛べるようになるらしい。

「寂しくなっちゃうね」

 妖精と人間のハーフ。精人の女の子、ティリーが僕を見て言った。いつも明るいティリーからは笑顔がなかった。

「そうだね」

 僕自身はあまり自覚がなく、あっけない返事だった。

「僕たちのこと、忘れないでね」

 人間と狼のハーフ。人狼の男の子、ラステンが言った。口数は少ないけど、仲のいい友達だ。灰色の毛がきれいで、目が赤いのが特徴だった。夜になると光るので、わざと怖がってからかったりした。

「もちろんだよ!」

 僕は人間だった。目がきれいだねとよく言われるけど、僕は自分を見たことがないからわからなかった。

みんなそれぞれ種族は違うけど、その時の僕たちにはそんなこと関係なかった。お互い同い年でとても仲が良くて。

「じゃあ、いつもの場所まで競争しようぜ」

 ヘロウが笑顔になって言い出した。

「よーい、どん!」

 そういい、ティリーが走り出す。

「ずるいよおー」

 僕もそう言い、走り出す。

「負けるか!」

 ヘロウが走る。

「置いてかないでー」

 そう言い、ラステンも走り出す。

 僕たちは世界戦争で両親を亡くし、同じ孤児院に来た同い年組だった。僕たちは外に出ると、一通り遊び、その後泉に向かって競争して、乾いた喉を潤し、少し話してまた帰るというのが日課だった。泉の水は綺麗で、とてもおいしかった。泉がある場所も、綺麗だった。一面草原で、丘の上にあった。とても不思議な空間だったのだと今思う。

「また一番だあ」

 ティリーが悔しそうにヘロウに向かって言った。

「俺は早いからな」

 ヘロウがどや顔で返す。

「一回も勝てなかった」

 僕も悔しそうに言った。でも、内心は楽しかった。僕たちにとって競争は争いではなく、共同作業みたいなものだった。

「やっと・・・ついた・・・・」

 へとへとになったラステンが到着した。僕たちはそのまま泉の水を飲み、濡れないところで一番着から横に寝転がった。

「本当に、行っちまうのか?」

 沈黙を破って、ヘロウが言った。

「うん、新しいお父さんできたからね」

 僕は親ができたことが誇らしかった。

「ねえ、約束しようよ」

 ティリーが体を起こしてみんなに言った。

「何を?」

 僕も体を起こして、ティリーの言葉に反応した。

「みんなバラバラになっちゃっても、いつかここで会お!」

 まだ完全には整っていない荒い息で、ティリーは興奮気味に言った。

「じゃあ、二十歳のこの日でどうだ?」

 次はヘロウが体を起こして言った。

「四月九日?」

 ラステンも体を起こして言う。

「そうしよ!また、ここで!」

 僕は笑顔で答えた。僕たちはまた会える。


「どうだ?気分は」

 いきなり父に話かけられ、僕の回想は止まった。

「快調です」

 僕は答えた。僕は今、護衛についている。といっても、王国間の協定締結の護衛だ。僕が十年前に引き取られたのはタマラニン王の家臣である、将軍カタストルだった。僕はカタストルから剣を教えられ、扱えるようにまで成長していた。今日が初陣である。現在、馬に乗り移動中で、おそらくぼーっとしていた僕を案じてくれたのだろう。

「まあ、そんなに緊張しなくていいからな」

「ありがとうございます」

 僕は乗馬も教えられた。おかげで最近は馬で移動ができるようになった。僕の馬、マイクが時々走りたそうにこっちを見てくるが、そのたびに僕は首を横に振るのだった。王は馬車に乗っていて、それを囲むように護衛の五百ほどの兵士が配置されている。それをまとめているのがカタストルだ。僕は先頭をいく父の横にぴったりついてマイクを歩かせていた。

「あと少しで到着だ。そしたら」

「そこで待機。父上が王とともに相手方の王と対面なさるのですよね?」

「上出来だ」

 この協定締結には大きな意味がある。それは、停戦である。僕が住む国は、規模こそ小さいものの、食料が豊富で色々な種類があるだけでなく、資源も豊富なのでなかなかに豊かな国だった。しかし、隣国は規模は大きいが、資源はあまりなく、ほとんどを輸入で賄っている、そのため、僕の住む国を占領すべく出陣。小競り合いがときどきあり、両国ともそれなりに被害が出ていた。

 僕と父が話し終えると、甲冑と甲冑の触れる音、馬の蹄が地面をける音、風が木々を揺らす音が響き渡った。

しばらく木々に囲まれた一本道を進むと急に視界が開けた。

「着いたぞ」

 カタストルが静かに言う。

「我々はここで待機!父上、お気をつけて」

 僕は副隊長に命じられているため、ここからは何かあれば僕が指揮を執ることになる。しかし、僕は実戦すら経験しことがないため、形だけである。

「戦争をするわけでもなし」

 カタストルは苦笑しながら馬を下り、タマニラン王がいる馬車へと向かう。カタストルが馬車につくと、馬車の扉があき、タマニラン王が出てくる。

「着いたか」

タマニランは笑顔で言う。タマニラン王は笑顔が多いお方で、威厳はあまりない。歳は五十二。金の王冠を頭にかぶり、赤いローブを身に着け、腰には短剣。背中には王国の印がでかでかと縫われている。タマニラン王は馬車用の馬に乗る。カタストルは馬車とつなぎとめている紐をほどき、自分の馬へと向かった。タマニラン王の馬が嬉しそうに鼻を鳴らした。

「それでは行ってまいる。アオト、ここを頼んだぞ」

「お任せください」

 タマニラン王とカタストルが出発した。僕はしばらくそれを見送ると、兜を取った。兜は群青色に輝き、額の部分には金の三日月が付いている。甲冑も兜と同じく群青色で、一度も使っていないためものすごく綺麗に見えた。左腰には父からもらったショートソードがある。右腰には非常用の食料と水筒が付いている。



※                                                           ※

 タマニラン王と私が約束の場所についたときには、既に相手方のロウクチョーク王がいた。私は驚いた。早さにではなく、護衛の多さにだった。約束の場所は広場で、見えるだけでも千。いや、二千は兵士がいる。

「お早いですな、ヨウクチョーク王」

 馬から降り、タマニラン王が言う。ヨウクチョークは紫色のローブを纏い、おどおどしているように見える。かなり若い。まだ二十前半というところだろうか。

「い、いえいえ。こちらが少々近い故、ささ、さっそく本題に参ろうか」

 ヨウクチョークが言う。

「協定についてですが・・・」

 と、ヨウクチョークの傍らに居る人が話を始めた。この広場は、ヨウクチョークの治めるチョークの敷地内にある。敷地内での話し合い、そして、この兵士の数。嫌な予感がした。予感のまま終われと心の中でなんども呟く。しかし、

「何事だ!」

 話し合いを進めていくうちに、相手方の護衛の兵が動き、我々を囲んで剣を構えた。

「かかれ!」

 ヨウクチョークの傍らにいた配下の指示で、兵士たちがこちらに向かってくる。

「タマニラン王、馬に乗ってお逃げください!」

 タマニラン王の馬がいる場所までの道を作るため、私はロングソードを抜いた。

「おりゃああ!」

 後ろから来る敵には構いもせず、進行方向にいる兵を薙ぎ払う。

「逃がすな!」

 タマニラン王が馬に乗る。こういうときのタマニラン王の体はよく動く。

「王、先に、私も後から追いつきます」

「わかった。かならず来るのじゃ」

 タマニラン王は馬を走らせる。

「必ず!これは、宣戦布告と受け取ってよろしいな!」

 私は振り返り言う。ヨウクチョークの姿はどこにもない。いるのは兵士だけ。前からは大勢の兵士がこちらに向かってきている。

~してやられた~



※                                                          ※

「騒がしいな」

 タマニラン王と父が行ってから少しして、僕は違和感に気づいた。何やらもめているようだ。僕は一瞬で察した。

「王が来たらすぐに撤退を!」

 そう言い残し、僕は兜をかぶって馬を走らせた。父が危ない。おそらく王を逃がし一人で戦っている。僕が行ってどうにかなるものでもないが、なぜか向かわずにはいられなかった。

「父上!」

 しばらく進むと、一人で戦う父の姿が見えた。ロングソードは血に染まり、敵はなぎ倒されている、が、僕には押されているように見えた。数が数だ。と、槍が父の甲冑を貫いた。

「父上!?」

 僕はさらに馬を走らせた。父が倒れ兵士たちが僕に気づく。瞬間、僕はマイクから落とされた。マイクが前脚を大きく上げたのだ。僕は後ろに転げ落ちる。僕は少し地面を転がり、体勢を立て直そうと手をついて、顔を上げた。目の前には信じられない光景が広がっていた。マイクが、いたるところから血を流して倒れている。兵士たちの槍には血がついていた。

「マイク・・・・」

 兵士の数はざっと百。勝ち目はない。どうせ死ぬなら何人か斬り殺そう。人を殺したこともない僕は、ふいにそう思った。僕の中にあるどす黒い何かが、目覚めた感じがした。まず一人斬ろう。そう思った瞬間、体が勝手に動き目の前に敵が現れた。というより、僕が瞬間移動をした。

~殺す~

 僕は抜剣し敵を一人斬る。そのまま剣を返し、一人、また一人。甲冑は重いはずなのに、なぜか殻がよく動く。

~殺す~

 ただただそう思った。思うだけで体は動いた。まるで藁人形を切るように、簡単に人が斬れる。さらに驚くべきは、感知と瞬発力だ。相手の動きが予測でき、かわせる。自分の身に何が起きているのかわからないが、今なら何百人だって相手にできると、そう思った。

「死ねええええええええええ!!!」

 夢中になって人を斬り、気づけば敵はいなくなっていた。瞬間、僕の体に激痛が走る。僕は、その場で倒れた。


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