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北斗七星 1

激しく闘う音が聞こえる。


先程までの静けさが夢であったかのように恐ろしい音が渦巻いて押し寄せてきている。

怒号。剣が交わり、鎧が鳴る。ズンという物が落ちる音。いくつもの足音。

そして、開け放たれる扉。


そこからゆっくりと現れたソレは、北斗七星にライオンを模った見慣れた紋章のついたサーコートを返り血で斑に染め上げ、金色の刺繡をギラつかせていた。


視覚の後に追って来る生臭い匂い。

こちらのほうが夢か?

その願いも虚しく激しい痛みが肩に走る。


反射的に打ち下ろさせる剣をかわしたが寝起きの体は反応が鈍く2撃目が肩をかすったようだった。

開いた鎧戸から入る月明かりで視界は悪くない。

転がり落ちたベットの下から木剣を掴むが、傷を負った利き手が震えうまく掴めない。

3撃目は避けきれない。


そう思った矢先、黒い何かが視界を遮ったかと思うと、耳慣れない不快な音と共に覆いかぶさってきた。


耳元で苦しげだがはっきりと明瞭な声がする。


「···クリス様。早く。お逃げ下さい。」

「メラニー!?」


咄嗟に支えた体はぬるりと粘着質な何かで濡れていた。


目の前がチカチカと赤く点滅する。

手の平も世界も真っ赤に染まっている。


「メラニー! メラニー!」


叫んでいるうちに、誰かが体ごと掴み上げ肩に担がれる。

硬い鎧が腹に食い込む。

「ぐぅぅ」

くぐもった唸り声が出る。


「ご辛抱を」


低く緊張した声が響く。

咄嗟に味方だと安堵するが動き出す視界の端に血溜まりのなか突っ伏した侍女を捉える。

微笑むメラニーと視線が合う。


「メラニーは?」

「申し訳ございません」

「嫌だ! 降ろせ! 止まれ!」

「逃げろとの仰せです」

「ダメだ、逃げない! まだ生きている! 助けよう!」

「兵力が足りません。それに···将軍が、お父上が殺されました。貴方様には生きて頂かねばなりません」

「···何を? ···言って····」

「···ご辛抱を」


メラニーの姿はとうに見えない。

館内を走り幾つも曲がり、自宅といえどもう何処かわからない。




これは夢だろう。


運ばれながら目に飛び込む焼ける何かも、倒れていく見慣れた顔も、鉄のような匂いも。

痺れ脈打つ腕も、真っ赤な手の平もすべて。


目が覚めればメラニーの顔が飛び込んでくるはずだ。


いつもの朝の様に···。








「クリスティーナ様。おはようございます。」


眩しい光が天蓋のカーテンを開けられた事によってベットに差し込む。


「···メラニー。···嫌だ。今日は社交レッスンの日でしょ?体調が悪い。今日は起きない。」

「あら。ティナ様。いいのですか? 本日のレッスンには旦那様がおいでになるそうですよ?」

「父上が? 帰っていらしてるの?」


クリスティーナはそれを聞いて布団を跳ね飛ばし、ブルーにもグリーンにも見える宝石のような瞳をパッチリと開いて飛び起きた。

美しい金髪は少し癖があり、寝癖も相まって派手に跳ね上がり、寝間着も男物を着用しているせいで元気の良い男児の様に見えるがクリスティーナは女児である。

夜にこっそり剣の稽古をするのが日課でその為ズボンを着ているが、ベットの下の木刀を含め、メラニーとクリスティーナの双子で兄のクリストフ以外には秘密にしていると思っている。が、それは本人だけで家中の者は皆知らないフリ、をしている。


「もうすぐ11歳のお誕生日ですからね。毎年その日を含めた1週間は何があってもお帰りになられます。今年も例外なくご帰宅です。」


自分の手柄のようにフンスと鼻で息を吐くとメラニーは自慢げに言う。

それと同時に手は澱みなく朝の支度をすべく桶に水を注いでいる。


「そうよ! 父上はあたし達が大好きなんだからね!」


そう言いながらベットの上で「♪チチウエ♫ チチウエー♪」と足をフミフミ両手をフリフリと動かしながらコミカルにダンスをしていたが、ハタと踊るのを辞めて真剣な顔をする。


「···でもダンスのレッスンなんて見られたら、きっと叱られる。···母上なんてこれみよがしに『ほらご覧なさい。』とか言って練習時間を増やすに違いないよね。ぐぬぬぬ。」


メラニーはベットに突っ伏して悔しがるクリスティーナの尻を叩き、顔を洗わせる。


「そうだ! 近衛のダニエルを呼んでよ! あの子との稽古をレッスン後に見てもらう予定にしましょう! そうだね。我ながらいい作戦だね! 父上に近衛の詰所に来ていただく手筈にしたら皆喜んで大騒ぎになるはずだから触れ回ってもらおう! 母上のお行儀三昧コースなんて受けてられないんだからね!」

「あら。先日護身術という名目の稽古の折、ダニエル殿では物足りないから相手を変えろと隊長に直談判していたのはどなたでしたかしら。ダニエル殿チョット泣いてましたよ。自分3つ歳上なのにって。」


そう言いながらメラニーは目線で端で控えていたもう一人の侍女にダニエルを呼ぶ様に伝えつつクリスティーナの身支度を始める。


「おだまり! ダニエルには後でこっそりお菓子をあげるからいいの。あの子甘い物に目が無いんだよね。フッフッフ。父上にいいとこ見せるチャンスだからね。メラニーよろしくね! おやつこっそり取っておいて! あたしがやると絶対に母上にバレちゃうからね。でも、なんでかな? なんでバレちゃうんだろ。母上後ろにも目があるんじゃないかな。」


話を聞きながら髪を梳かし、主の性格のように自由にカールする艷やかな金色の髪を巧みに結い上げながら、メラニーはため息をつく。

前は見つけた仔鹿を飼うと言い張り内緒で馬屋に隠し、自分の朝食用のミルクこっそりあげようとして奥様にバレていたな。

その前は犬。

もっと前は鳥。

そして今回のダニエルは少し学習したらしい。


「ティナ様。私を懐柔かいじゅうするおつもりですか。あらあら。どういたしましょうかしら。」


クリスティーナはメラニーの言葉を聞いて途端に目をキラキラさせる。


「懐柔! 先日クリスに教えてもらったんだよね。ちょっと何の事か分かんなかったけど、こういう時の事なんだね! 懐柔するする。好きな物あげないといけないんだよね!」

「好きな物って、あの。ティナ様? それ、ちょっと違いますよ。懐柔っていうのはもっと腹黒い感じの···」

「プレゼントってことでしょ? うふふ。楽しみ! 黒い感じだね。わかったわかった。メラニーは意外とシックな趣味なんだね!」


メラニーはクリストフの苦労に思いを馳せると再びため息を付き、仕事に専念した。









初回投稿日

2022年 07月28日 12時40分


予約投稿設定間違えて公開にしてしまいました。

編集方法変わって下書きに移せるかなと思ったら失敗しました。(言い訳)


『テンプレ騎士』というシリーズ物を書いておりまして、そちらを完結させたら続きを書くつもりでいます。

多分まだまだ・・・・先の話かと。

すいません。


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