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ジーク視点 火薬の臭いと紙吹雪


「アイナ、入るよ」


 そう声をかけてから、夫婦の部屋のドアを開ける。

 先ほど、入室前にその旨をアイナに伝えて欲しいとも言われていたのだ。

 理由はなんとなくわかっていた。


 ぱぁん!


 僕の入室と同時に乾いた音が鳴り、なにかが降りかかってきた。

 通常であれば、こんな音がしたらみんな警戒態勢に入り、僕らを守ろうとするだろう。

 でも、なんの騒ぎにもならない。

 何故なら――


「メリークリスマス!」


 待ち構えていた妻が、クラッカーを使っただけだからだ。

 破裂音はクラッカーが発したもの。僕にかかった何かは、それから飛び出した紙吹雪。

 カラフルな紙が舞い、ひらひらと下に落ちていく。

 その向こうに見えるのは、クラッカーを構えた妻。

 これをやりたいがために、入室前に声をかけて欲しいと言い出したんだろう。他の人に紙吹雪をかけるわけにはいかないからね。


 アイナの手元を見てみる。

 クラッカーの大きさはごく普通だった。

 片手で持てる円錐形で、紐を引っ張ると破裂音とともに中身が飛び出すタイプ。

 火薬の臭いはするけど、そこまできつくない。

 ……今年は普通に可愛らしくてよかった。




 去年も、同じ日に二人でクリスマス会をした。

 その頃には僕が正式に家を継ぐこと、それと同時に籍を入れることが決まっていたから、なんというか、当時婚約者だったアイナは例年よりはしゃいでいた。

 オンオフの切り替えはできる人だから、外では淑女として振る舞うし、普段もそこまで羽目を外したりはしない。

 でも、こういった行事や旅行中。そこに特別嬉しいことが重なれば、話は別で。

 僕が離れに足を踏み入れた瞬間、彼女は巨大クラッカーの紐を引いた。

 アイナとしては、ようやく父に認めてもらえた僕を労わるとか、色々な日取りが決まってきて嬉しいとか、これからも一緒に頑張ろうねとか。

 色々なプラスの気持ちを込めて、特別に用意した一発だったらしい。

 その気持ちはとても嬉しい。本当に嬉しい。嬉しいんだけど――ちょっと、大きすぎた、かな。


 安全を考えてそれなりに離れた場所からの発射だったけど、まあまあ大変なことになった。

 音、風圧、飾りの飛び散り具合、火薬の臭い……。そのどれもがなかなかに高レベルだった。

 臭いを逃がそうと冬場に窓を開けたり、これをメイドに片付けさせるのかと二人揃って難しい顔になったり、何事だと人を集めてしまったり。


「……来年からは、安全性や後片付けについてもしっかり考えるようにします」


 巨大クラッカーが直撃した僕から紙テープや紙吹雪を取り除きながら、当時22歳だったアイナはそう言った。




 そんなことがあったからか、今年は普通に手に入る可愛らしいものを選択したようだ。


「ジーク、ちょっと屈んでくれる?」


 クラッカーを放って満足した彼女が、手を伸ばしながらそう言った。

 言う通りにすると、背伸びをしながら僕の頭をぱたぱたとはたく。頭についた紙吹雪を落としたんだろう。

 去年は優しく丁寧にやってくれたのに、今年はちょっと雑だ。

 アイナはふう、と一仕事終えたかのようにしているけど、まだ残っている気がする。


「夕ご飯にはちょっと早いけど……。もう始めてもいい?」

「うん。お腹空いてるよ」

「じゃあ始めよっか」


 アイナがくるりと向きを変え、部屋の奥に向かって進み出す。

 今日のアイナは髪をアップにしているから、うなじが見えてなんだか色っぽい。




 僕らが使っている部屋はそれなりに広く、ざくっといくつかのエリアに分かれている。

 よくいるのはベッドやソファのある……寝室……と呼ぶにはちょっと用途が多いけど……まあ、二人でゆっくりするときに使うスペース。こたつがあるのもこの辺りだ。

 その他に椅子とテーブルが置かれたダイニング、浴室や洗面所、簡易キッチンなどがあり、部屋から出なくても最低限のことはできるようになっている。

 今回はこの部屋のダイニングに食事や飲み物が用意されていて、使用人も一人控えていた。「クリスマス」らしく飾り付けもしてある。

 方向性としては、夫婦で過ごすしっとりした時間というよりは、子供が喜びそうなカラフルで可愛らしい感じ。

 アイナ曰く、ちょっとチープな方がおうちクリスマス感が出るとか。


 夫婦揃って席に着く。

 テーブルには1羽使ったローストチキンを始めとした料理が5品ほどと、ケーキ。飲み物はシャンパン……ではなく、シャンメリーが1瓶置かれていた。

 使用人はチキンの切り分け等を行い退室した。

 今日はなるべくゆっくり、夫婦で気兼ねなく過ごしたいのだ。


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