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ジーク視点 1129いことを言う日

初投稿日が11月29日でした。

「そろそろ始めたいと思いますが、準備はよろしいですか」

「もちろん。この日のために、3日前から考えておいたからね」

「3日前から……!?」


 目の前に座るアイナが、怯んだ様子を見せる。

 けどすぐに持ち直し、こう宣言した。今回の議長はアイナなのである。


「いいでしょう、受けて立ちます。第14回『言いにくいことを言う会』を始めます」

「14回目だったんだ……」




 言いにくいことを言う会。

 僕ら夫婦は、二ヶ月に一度ぐらい、そんな場を用意している。

 普段は言いにくいあれそれを、相手への気遣いや敬意を忘れない範囲で話し、互いに納得できる落とし所を探してよりよい関係を築こうといった感じの……まあ、一言で言えば夫婦会議だ。

 籍を入れる前から開催されており、アイナが言うにはこれで14回目になるらしい。


 普段は夕方以降に行われることが多いこの会。

 今回は昼間の開催となったため、中庭が見える部屋でお茶を飲みながら話すことになっていた。

 クッキーなどのお菓子もついている。

 砂時計の砂が落ちきるのを見計らって立ち上がり、アイナが2つのカップにお茶をそそぐ。

 会議中は二人きりのため、こういったことも、自分でやらなければいけないのだ。

 最初の一杯は、その日の議長が用意することになっている。ちなみに、茶葉の決定権も議長にある。

 今日は、甘い香りが漂うノンカフェインのお茶を選んだそうだ。


「砂糖は?」

「角砂糖を1つ」

「ん」


 砂糖を入れて軽くかき混ぜるところまで済ませると、片方のカップが僕の前に置かれた。

 うん、いい香りだ。

 お茶のセットを終えたアイナが、僕の向かい側に座る。

 カップを口元に運び、一口飲んで……まだ熱かったらしく、あつっ……と小さく呟いてからカップを置いた。

 彼女は軽く咳払いし、会を進める。少し恥ずかしかったようだ。


「……では、ジークベルトさん。3日前から考えていたという話について、どうぞ」

「うん。これまでも何度か話してきたことだけど、君はもう少し周りを頼ったりペース配分を考えたりするように。特に秋から冬。君は、ハロウィンやクリスマスの準備のために、一人で突っ走るところがある」

「うっ……」


 ハロウィンとやらの衣装は、アイナが自分で作っている。

 年々クオリティが上がっていく様子は、見ていて楽しい。

 けど、そのために頑張りすぎているんじゃないかって、ハラハラする。

 クリスマスだってアイナ主導のイベントだから、彼女がやることはたくさんある。


「やめろとは言わないよ。僕も楽しませてもらってるし、君がとても嬉しそうだから。でも、君は昔から、夢中になると止まれないタイプだからね。頑張りすぎて体調を崩すんじゃないかって、心配になるんだ」

「はい……」

「頑張り屋なところも好きだけど、無茶はして欲しくない。他の人に相談して、力を貸してもらう。僕はもちろん、この家に仕える人たちだって、きっと嫌がったりしないから。……僕からは以上。君は?」

「えっと……」


 ちょっと俯いたアイナが、目線だけ上げてちらちらと僕を見る。

 言いたいことはあるけど、言いにくい。そんな雰囲気だ。

 言いにくいことを言う会なのだから、明らかにこちらを傷つけるような内容じゃなければ、話してくれて構わない。

 そんなことを伝えると、彼女は「あのね、ジーク」と遠慮がちに話し始める。


「……私に合わせて、我慢してない?」

「我慢?」

「お酒とか紅茶とか……。あんまり飲んでないよね?」


 諸事情で、アイナはアルコールやカフェインを控えるようにしている。

 言われてみれば、僕もアイナといるときはあまり口にしていない。

 お酒に関しては、強いだけで好んで飲むタイプではないため、我慢しているつもりはなかった。

 カフェイン……紅茶についてはアイナに合わせて避けていたけど、ノンカフェインローカフェインのものもしっかり用意しているから、特に問題はない。

 多少風味が違ったって、お茶はお茶だ。僕は、細かいことはあまり気にしないタイプなのだ。

 アルコールやカフェインが摂取できなくてもストレスはない。


「……そういうわけで、我慢してると感じたことはないかな」

「そう……?」

「うん。あとは……。実は、執務室では普通の紅茶も飲んでる……。出先では、付き合いでコーヒーやアルコールも……」

「……! 意外と飲んでた……」

「うん……そうなんだ……。だから、君が気にすることはないよ」


 君がいない時は普通に飲んでます。なんて、言わない方がいいのかもしれない。

 でも、話してしまった方がアイナの気持ちが楽になると判断し、白状した。

 むーっとしたアイナが立ち上がり、僕のカップに角砂糖を追加する。

 それも、あまりお茶が残っていないところに2個。彼女なりの腹いせらしい。ああ、アイナが拗ねてしまった。

 かなり甘ったるくなっていそうだけど、ここは妻からの嫌がらせを受けよう。

 そう思ったのだけど。

 アイナは少し考える様子を見せてから、僕のカップにお茶を足し、更に軽く差し湯もして自分の席に戻った。

 食べ物や飲み物を使った嫌がらせはよくないと感じたのかもしれない。

 普段よりちょっと砂糖が多いだけのそれ。飲んでみたら、ちゃんと美味しかった。


 言いにくいことがさっきのあれ。僕を気遣っているだけだった。

 拗ねて嫌がらせをしてきたと思ったら、この行動。僕には全くダメージがない。

 こんな人、夫の僕がしっかり守るしかないじゃないか……。


「アイナを守る……。無茶なことはさせない……」

「えっ……急にどうしたの……」



 こんな感じで、今回の「言いにくいことを言う会」は終了した。

 結論は、この人は僕が守る、だった。


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