始まりの物語その5
「だから俺は村の話し合いの場に乗り込んでゴブリンは俺が退治すると言ってやったのです」
「一人でということ?嘘でしょう?」
「俺は嘘をつきませんよ」
「でもみんなで戦った方が安全ですわよ?」
「はい。問題はそこなのです。みんなで力を合わせて倒そう!という風になれるのであらば、話し合いは終わっています」
「それはそうね。元々そういう話だったわね」
「たしかにゴブリンは弱いモンスターで、大人ならば誰でも倒せると言われているのですが……誰もゴブリンはおろかモンスターと戦ったことはないのです」
「不安で仕方がないということですね……」
「その点、俺は実際にゴブリンを退治したことがあるわけです」
「でも少しでしょう?」
「それでも村の人達を納得させるには十分でした。皆不安だったのですよ」
「心配はされなかったの?」
「村長や一部の方達はかなり心配してくれました。ですが命を救われた恩を返したかったのです」
「とても立派だと思うわ」
「最終的には村長も納得してくれて、なんと装備を用意してくれたのです」
「それが、マナトが今着ている鎧なのかしら?」
「そうなりますね。鎧と言っても皮の服みたいなものなので、お城の兵士の立派な鎧を見慣れている姫には貧相な装備に見えるかもしれないのですが……」
「まさか!そんなことはありません!」
「……意地悪な言い方でしたねすいません。この服だけでなく、村に唯一あった剣と護身用に短剣を持たせてくれたのです」
「剣は……持っていませんわよね?」
「ははっ流石に宿に置いてきましたよ。でも短剣はこの通り」
「とても綺麗ね」
「大事なものなので肌身離さず持ち、毎日磨いておりますので」
「私も実は短剣を持っているの」
「今ですか?」
「ええ、もちろん。ほら」
「姫の短剣も綺麗ですね」
「使ってませんからね」
「護身用でしょう?使っていたら大変ですよ」
「私が襲われたことがあるってことですものね」
「初めて使われたのが俺でなくて良かったです」
「使うべきだったかしら?」
「ははっやめください」
「私もこの短剣はいざと言うときにと爺やが……あ、じいやは私の本当のおじいさまではなくて……」
「執事ですか?」
「そう、それですわ。じいやの名前はマドシトルだったかしら?いつもじいやと呼んでいるから忘れてしまいましたわ」
「ははっそういうことはよくあります」
「ふふっそうね。あ、ごめんなさい。話の腰を折ってしまって」
「全然大丈夫ですよ。姫のお話も是非お聞かせください」
「ふふっ。でも今はマナトのお話を聞かせて」
「それでは……そして俺は村への恩に報いるために一人でゴブリンの討伐に向かったのです」