始まりの物語その4
「姫、またゴブリンかと思いませんでしたか?」
「まさかそんな……少しだけ」
「ははっ俺も思いましたよ。少し前に襲われたばかりで、またゴブリンを見てしまったのですから」
「モンスターは他にもいっぱいいますのにね」
「ええ、でもゴブリンのように知能があるモンスターだったからこそ、その場で牛を食い荒らさず、盗んで巣まで運んだのです」
「それで現場を見たマナトはどうしたのです?」
「相手は複数いたのでまずは大きい音を立てました。なんでだと思います?」
「さあ?ゴブリンを驚かせるためかしら?」
「そうです。そして村の人達の助けを呼ぶためでもありました」
「それからどうしたの?」
「近くにあった農作業に使うクワを持ってゴブリンに襲い掛かりました」
「あら、ふふっ……」
「どうしました?」
「いえ、ごめんなさい。勇敢ですわね」
「ああ、なるほど。そうですね。今回は勇敢にゴブリンに立ち向かいました。と言っても1体倒したら、他のゴブリンはすぐに逃げ出してしまったのですが」
「でも、また死闘にならなくてよかったですわ」
「ご心配いただきありがとうございます。ですが今回は武器があったので死闘にはならなかったと思いますよ」
「クワですけどね」
「でもそのクワで1体はやっつけたのですよ」
「そうでしたね。ふふっ」
「でも1体でも取り逃さなくて良かったです。オオカミ少年のようになってしまっても困るので」
「オオカミ少年?」
「ああ、異世界の絵本です。嘘をつきすぎて、いざと言うときに本当のことを信じてもらえなかった少年ですよ自業自得という話ですね」
「まあ……でもそれはかわいそうですね」
「姫はお優しいのですね」
「そんなことは……」
「それで騒ぎを聞きつけて村人たちがやってきたのです。俺がゴブリンの死体を見せると、全員がゴブリンが犯人だと納得してくれました」
「よかったですわ」
「ただ、大きい問題が出てきてしまいました」
「なにかしら?」
「この村はモンスターに襲われたことがなかったのです。もちろんゴブリンにも」
「平和な村だったのね」
「そんなに遠くないとはいえ、わざわざ村までゴブリンを倒しに来てくれる冒険者なんていないのです。大金を払えるならもちろん話は別なのですが、貧相な村ですのでそれもかないません」
「国内のことだから国で解決できると良いのですけど……」
「すいません国を……姫を攻めるつもりで言ったのではないのです」
「困らせてしまったわね。こちらこそごめんなさい」
「姫が謝ることはありません。大丈夫ですよ。それで村では、冒険者も呼べない、ゴブリン退治の経験もない、と言うことで全員で対策を話し合ったのですが、一向に話はまとまりませんでした。平行線と言うやつです」
「とても困りましたわね……」
「ええ、だから俺もずっと悩んでいました。そして、その間にまたゴブリンに家畜が盗まれる事件が起きてしまったのです」
「まあ!」
「それで俺は決意しました」
「いったい何を決意したのですマナト?」
「それはもちろん俺がゴブリンを退治するということをです!」