プロローグその1
side マナト
嘘をついてばかりの人生だった。
よりによってそんな俺に親が付けた名前は、まなとだった。真実の真に人で真人だ。
普通の家に生まれたのに、中学を卒業してすぐ半グレみたいになって詐欺師を始めた。
一体何人を騙したのかわからない。
ただ、だます度に心が痛んだ。
それでも続けた。それ以外に生きる方法がなかったから。
だけどしわ寄せというものはやってくるものだ。
歩道に突っ込んできたトラックが目前に迫ったときのドライバーの目は確実に俺をとらえていたのだから。
顔は覚えていないが必死に俺を睨む形相を見ればわかったよ、俺が騙した相手の誰かだって。
轢かれたときは痛かったがすぐに何も感じなくなった。
次の人生があるなら誠実に生きよう。
そう思った。
♦
次に目を覚ました時はなにかふわふわとした感覚しか感じなかった。
その現実離れした感覚に、これが天国ってやつなのかなと考えた。
体は動くので無理やり体を動かすと、仁王立ちの男が目に入った。
その男に話しかけようと思ったのだが、何故かこちらを強く睨んでいるように見えたのでやめる。
「おい、貴様」
随分と乱暴な物言いで男が口を開いた。
返事をしようか迷っているとそのまま男は続いて口を開いた。
「強くなりたいか?」
「いや、別に……」
つい即答してしまった。
何故なら次の人生があるなら強く、ではなく誠実にと誓ったばかりである。
男の方も予定外の言葉に戸惑ったのか、気まずい沈黙が続く。
「そうかわかった」
何が分かったのかわからないが、勝手に納得された様子である。
「強くなりたいのだな」
もしかしたらこちらに回答権はないのかもしれない。
「じゃあ、はい。強くなりたいです」
「貴様ならそう言うと思っていたぞ」
言ったというか言わされたのだがツッコむのも野暮なのだろう。
「ところで今更で悪いのですけど、ここはどこですか?」
この現実離れした空間と最後の記憶からなんとなく想像はついてしまうのだが念のため聞いてみる。
「うむ。それでは精進するのだぞ。我に届くほどに。期待しておるぞ」
返事になっていない返事を返され、困る間もなく体が光りだし、意識が薄れていく。
そしてそのままその世界から消えてしまった。
♦
目を覚ますと森の中だった。
先ほどまでの不思議な体験は、記憶に残っているが白昼夢だったのだろうか?
とにかく連絡を取ろうと思い、スマホを取り出そうと服を漁うとしたのだが、やけに服が簡素だ。こんな服を持っていただろうか?
体中漁ってもスマホどころか財布すらない。そもそもここはどこだろうか?辺りを見回しても木しかない。
いや、俺だって馬鹿じゃないし仕事柄、世情には詳しい方だ。
そして先ほどの白昼夢。
つまりはそういうことなのだろう。
その証拠にほら森の中から化け物が出て来たよ。
これから一体どうなってしまうのだろう。