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第五話 第六のアルカナ+第十のアルカナ+第十四のアルカナ+第十八のアルカナ

心の中にあるとびきりの勇気を全面に持ち出して、格好良く一丁前な二枚目であり続けるのも気持ちいいものかもしれない。少なくとも、僕のためにここにいてくれてる女の子の前では、ぱりっとした気持ちで格好つけるのも必要かもしれない。


「もう逃げないって決めたんだ」


僕は過去一番のイキり顔でそう言った。


「ダメです」


「えっ」


「逃げるべき時は、逃げてください」


「…はい」


「そういう思考放棄が致命的です。危ない時は避ける。逃げる。英雄殿も、助けたいヒトには逃げろって言わないとダメです。この世には、絶対はありませんから」


「はい…」


かっこよく決めてるとこだったのに。


「…」


死ぬと言われたり、助けられると言われたり、或いはそれが予言だったり。僕はどこまでも誰かの意見に左右される。最高の強さを得ても、やっぱりまた助けられるのか。100日後に死ぬなんて、いや死ぬとは違うけど。それでも、多めに醤油かけて食べる最高の卵かけご飯も、父さんや母さん、家族とも会えなくなる。まだ、やりたいことやってみたいことがあったはずなんだけどなぁ。まだ、なんにも生きちゃいないのに。世界を全て知った気でいるけど、そこらへんの高校生は一体何を知ってるというのだろうか。わかってるふりしてるだけで、実際のところ、まったく見当違いのところを暴走してるのではないか。


「いえ、少し出過ぎた真似をしました。申し訳ありません」


「ありがたいよ。ちゃんと意見を言ってくれないと、今の僕にはこの場所で、何をすればいいのか分からないんだ。ところで、巫女…っていうのは、名称で、名前は何て言うんですか?」


「それをお答えになるには、少し説明が必要なので、宜しいですか?」


「え?はい…」


「私達の一族は特別なもので、救世主へのサポートが命題ですから。それがずっと続いてるんです。有史以来何代も以前から。その流れの中で、編み込まれた秘儀の一つに魔眼の開発がありました」


「魔眼…」


ヤバイ。心臓が跳ねた。ちょっとテンションが上がってきた。割と元気になったかもしれない。


「そ、それで…?」


生唾を飲んだ気さえもする。僕の心はかつてない程に心拍を打ち、鼻息が荒くなってるようだ。目からビームとかじゅばじゅばの光で視界一面を支配するような。バトル的なアレの代名詞。


「何世代も後に発生する災厄のために、今代の巫女が、次なる巫女のために形を取って継承してゆくのが、習わしでした。私以前の巫女は、生まれた時には右目に秘術をかけて、魔力と秘儀の秘匿に務めてました。許嫁との婚姻前夜に右目を摘出され、自身が究めた叡智の保存がなされます」


「うっちょっとそれは……」


大分えぐいのが出てきちゃった…。


「まだいい方だと思いますよ。魔術の秘儀には、同情の余地すらも無い外法も多いですから。今は大方狩り尽くされてはいますが。ですので私の伝承魔法は、自身の親族の持つ目を道具として使用することで発動されます」


「そ、それはスゴイ……えーっと。お母さんの得意な魔法やお祖母ちゃんの得意な魔法を、使えるというわけですか?」


「その通りですね。単数のみならず、組み合わせたり並行して使用も出来ます。その過程の中で、巫女が本物の魔眼を持って生まれた事がありました。秘儀を込める事で神秘へ到達する道具へと昇華するのではなく、元々魔眼だった。という稀な類ですね。余談になりますが、五代前の巫女は破天荒な性格で部屋を抜け出した挙句当時のサルビナ王子をそそのかして世界を放浪した経緯があります。歴史の闇で消された事実ですが、世界征服を目論む彼女は王子と関係を結んだ途端に一切の魔法が使えなくなりました」


「や、ヤバイ人だったんですね…」


世界を守る守護者だった人が世界征服に乗り出しちゃったよ!どんだけなんだよ。


「彼女は自身の持つ強力な魔眼、本人の日記には宇宙一無敵魔眼と記載されておりましたが、処女でなければ扱えない魔眼と判定しました。彼女の娘、次期巫女に移植して結果は成功。ここから、汚れは巫女の持つ本来の魔力すら薄めるのではないかという仮説が立案されました。巫女は純真無垢であるべきという考えが更に強まり、当代の巫女へ名前を冠して呼ぶ事が無くなりました。そして実際に、三代前から巫女の持つ魔力の質が飛躍的に向上したのも事実です。大家の命に、また一つ刻まれた事が、英雄殿により名づけの厳命です」


「す、すんごい人だったんですね…。そして名前って、それはつまり…」


「そうです」


「ぼ、僕がつけるの…」


ムリ。無理無理無理のかたつむり。絶対ヤバイでしょ。女の子に名前を付けるとか。そりゃ自分の子供じゃないんだからさ!


「なんなりと。なんでも結構です」


ドラクエのネーミングで一時間かける僕に、それは無茶ぶり過ぎやしないか…!?真っすぐな視線が心に突き刺さる。


「い、今じゃなくて、後でとかいいですか?そんな、一生背負う名前なんてすぐには決められないです」


「分かりました。いつでも宜しいので」


巫女の女の子は懐から一枚のくしゃくしゃの紙を取り出した。


「ここに希望の名前を書いてください。書き方は英雄殿の言語でもこちらの世界での言語でもかまいません。可能なら血で記した英雄殿のお名前の上に血判を捺印ください。一応血判ではなく、精液でも代行可能です」


最後のところは聞き取れなかった。なんかヤバイ事を言われた気がする。くしゃくしゃの紙には読めない言語で長い文章を記載されている。


「分かりました。時間はかかると思いますが……えっとあの、希望の名前とかあったりします?」


「例えあったとしても、それは言えませんよ。さすがに」


「難しいですね…」


やっぱり個性的でいて、ちゃんと考えてある二重の意味や三重の意味ぐらいのちゃんとした名前にしないといけない。


「そういえば、その、前の巫女だった人たちのその、目、魔眼ってどこかに保管されてるんですか?」


ふとした疑問を口にした。


「見ますか?」


「えっ」


巫女の女の子が両の手のひらを上に向けると、ぼこりと人間の眼球が皮膚越しに現れた。


「全て体内にストックしてあります。親和性も血縁なのも相まって良好ですね。もちろん実践兵器ですので、試用運転もしています。どうやら四代前の巫女から守護者である立ち位置を名目に強さを目指していた節がありますね。六代前から既にサルビナの騎士団を圧倒する実力があります。もっとも、仕様上殺戮能力が高い魔眼は固定された死刑囚相手のみの試用で、どれだけ実戦で使用できるのか疑問ですが」


それを言うと、手のひらから、宝石が次から次へと出てきた。


「前の巫女、つまり私の母は、美しさにも重きを置いたようで、加工できるものは宝石のように仕上げました。母らしいといえば、母らしいですね。それでも、下手に魔力を加えると暴走する恐れのある五つの魔眼については、そのままにしています」


七つの宝石が一つの目玉を中心にくるくると浮遊しながら回ってる。見ていると、どこか別の世界に連れていかれそうな怖さがある反面、ずっと見つめていたいという思いが生まれる。小さくて、とても愛しい大切なもの。そう感じて視線を外す。


「こうやって人に見せる事ってあるんですか?」


「初めてですよ」


「…」


「変に、綺麗、ですね…」


多分、見てるとマズイ事になるそう気がする。そして彼女は、距離が近すぎる故にそのヤバさに気づけてない気がする。中央の魔眼を見てると、目の奥がずきずきと疼きだしてくる。やっぱり、これはとてつもない。


「やっぱりそう思います?最近面白い事に、輝くを増しているんですよね。まるで、早く使われたいみたいに。私も、こうやってメンテナンスを行う時、たまに思うんですよ」


その時、巫女の女の子の目が一番に輝くように見えた。


「一体、私は、どれほどの強さを獲得したのだろう。と」


僕は彼女に対して、ちょっと危うさを感じた。


「なんてね。どうです?私が少しは欲しくなってきましたか?」


魔眼を手のひらに仕舞われ、彼女の目は真っすぐに僕の目を見ている。僕はいつものように視線を下げながら。


「えっと、魅力的…ですよね」


どうして僕は宝具を纏ってるのに、彼女は僕と目を合わせようとするのだろうか。それができるのだろうか。


「私は、あなたを守護するために生まれきたんです」


きっとその言葉は、僕をひれ伏せるほどの重みがあった。だからあえて深く考えずに軽く流した。卑怯だとわかっていながら。


「それは、そういう風な、家柄だからですよ」


「それもありますよ。でも、私は、英雄殿が思っている以上に、英雄殿の事を知っているんですよ」


意味ありげに言われた。


「そうなんだ」


僕のために。全てが執り行われてきたのか。きっとそれが僕じゃなくても良かったのだろうか。僕じゃなければならなかったのか。僕という一個人の生き死にすらも超越してる。目を摘出し、次代に繋ぐほどに、彼女達一族は用意していたのだ。重い。重すぎるよ。少しだけ涙が出てきた。それを見せないように拭き取って、これが世界、僕以外の外のセカイなのだと理解に至った。もう人間じゃなくなっても、それが後少しだけしか残されてなくとも、なんだか、それでチャラになったような、救われたような気持ちにさえなっていた。皆が頑張った結果なのだからと、変に僕も恐ろしい運命を受け入れる気になれる気さえする。この世界の人々の終末への預言を受け入れた気持ちは、きっと今の僕の気持ちに似ているのかもしれない。それがどんなことであれ、どうしようもない事なら、受け入れるしかないのだ。


空軍総帥のロザルクは移動要塞内部で行われている暗号通信の解読に成功していた。移動要塞内部で行われている秘密通信は封じられ、代わりの返答は全てロザルクの指揮の下で回答がなされていた。


「予想通りの動きですが、やはり奇跡の目撃、救世主の出現には度肝を抜かれてますね。どうされますか?」


「今まで通りだよ。待つんだ」

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