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第十一話 第七のアルカナ、戦車

ことごとく大きな動物、動物園で見たことがある動物の2倍から3倍ぐらいの大きさの巨大な動物の大行進だった。それぞれの動物は首から宝石で出来たネックレスをかけて肩や足や腕にもそれぞれに豪華に着飾っている。王都の街を凱旋するパレードで人々を喜ばせていた。動物のいななきにも負けないぐらい、人々も熱狂し叫び出して僕の名前を呼んでいる。人々が住んでいるのは四階建てのマンションぐらいの建物らしく、王宮を中心にして正四角形で囲むようにメインストリートは四角く整備されていた。人々の恰好は様々で、老若男女それぞれが僕から見た奇妙な井出立ちの恰好をしていた。例えばペットである小さなトカゲを頭に乗せてたり、服の色の配色が明らかに僕の常識と異なっていたり。花火が打ち上げられ、僕が登場し、一際大きい傷だらけの軍用熊に乗って、僕は彼らに手を振っていた。


「嬉しいな…」


中には涙ぐんでる人もいる。僕は一際大きく手を振ってみせる。


「この後は晩餐会を控えております。その後、各国の有力者が訪問を希望してます。受けますか?」


巫女さんに大声で言われる。了承の言葉を僕も大声で言う。ひしめき合う人々は折り重なる顔から更に顔を覗かせる。


「力が無くなりましたけど…」


僕の言葉を遮り、一段と着飾った王子が言う。


「ユッキーは変わらず偉大なる英雄として進んでくんだ。力があるなしは、もうこうなってしまえすれば関係無いね。皆がユッキーに謁見の許可を求めてくる。皆、礼を言いたいんだ。そして彼らを恩義に報いる。その感謝の気持ちが、民衆にも渡って、人々は幸せなひと時を得るんだ。面倒だろうけど我慢してくれよ。ただ椅子に座って頷くだけでいい。それがなによりの希望になるんだ」


「わかりました」


吹奏楽団の演奏が止まって、一端お昼休憩になる。


「警備兵にも休憩を取らせてくれ。俺らはお昼にしようぜ」


王子が言うと、巫女さんは首を振った。


「警護の観点から市街での昼食など許容できません。王宮に戻って休憩すべきです」


「いいじゃないか。こんな機会なんだ。サルビナの祭りを楽しまないと。ユッキーはカーニバルは好きなの?」


「嫌いじゃないですよ」


多分、滅茶苦茶好きだ。お祭り特有の空気は、熱を上げてどきどきさせる正体不明の高揚感がある。だから認めるのもちょっと格好悪いことかもしれないけど、本当は好きなのだと思う。今度は祭囃子を家で聞くばかりじゃない。僕が神輿なのだ。


「じゃあ楽しみにいこうよ」


「許可できかねます」


「警護兵ももちろん連れてくよ?巫女ちゃんだって知ってるし優秀だって大判押されてる」


「何故女性ばかりなのですか?」


「そりゃお祭りだからね。特別なひと時には華がなくちゃ」


王子の後。


「精一杯の警護をさせて頂きます!」


僕を奮い立たせた伝令役の軍人が敬礼をしながら言ってくれる。


「不満があるわけではありません。私一人居れば十分。問うてるのは場所の話です」


巫女さんは待ったを更にかける。確かに安全面では完璧だと言い難いように思う。なにより群衆の真っただ中なのだから。それに、求められるままに握手にも応えている。それが僕の義務であり仕事であり、僕なりの返礼の仕方だ。握手はもちろん手と手が触れ合うので、魔術的要素の危険性も高いが、巫女さんは当初の意見を曲げてくれて握手の許可も取り付けることが出来た。もし、僕が憧れのスター、ミュージシャンだったりだとかと握手できるなら、その日一日はハッピーで過ごせるであろう。学校の皆にも自慢してる。きっと、人々に必要なささやかな楽しみっていうのは、そういう事の積み重ねだと思う。


「まぁまぁ。美味しそうなご飯があるなら寄って行ってもいいじゃないですか。王子行きつけの美味しいご飯なんですか?」


「もちろんそう。行きつけの最高の場所さ」


そのセリフを信じて僕達はパレードの籠の中の階段を下る。空間がねじ曲がっている、補正空間の場所らしい。こういう時、魔法って便利だなと思う。


「きゃっ!」


「す、すいません…」


豪華なひらひらのドレスを着た、お昼からの歌姫にぶつかってしまった。便利な通路も案外狭くて照明が薄いのが難点かな。


「えっと。ヨミヤユウキ?英雄の?」


「え?あっそうです…」


「きゃー感激。サリアよ」


「ユウキです」


手を出されたので握手をする。


「時間ですので、先へ進みましょう。ユウキ」


「本家はいいわよね。美味しいところは全部もっていっちゃう」


「相変わらずですね。私達は急ぎますので。失礼」


足早に階段を降りてゆく。


「本家っですか?」


僕が聞くと、巫女さんは珍しく表情を顔に出した。


「守護者の家系の分家ですね。例えば私が死亡した場合、今代の巫女は彼女が代わりに務めてました。それでも、始祖から渡って強大な血を汲んでるので、民間には降りることはできず、こうやって祭事の華を飾ったりしています」


「そうなんですか」


化粧が綺麗に施されて、なんというか、妙な女性っぽさというか……あれが色気っていうのだろうか。


「どうしたんですか?」


「いや、なんでもないです。確かに雰囲気は似てるものがありました」


「そうですか?」


通路の先は空き家に繋がって、そこからごった返す人々の合間を縫って目的地に到達出来た。もちろん、今僕が着込んでる服は特別なもので、無茶苦茶ひらひらが多くて白と黒のコントラストが特徴的な服。男なのにドレスと言ったら変かもしれないけど、そんな服を着込んでるし、前には王子が笑いながら道行く人が気付いて会釈をしたり握手をしている。だから僕が祭りの中心である英雄殿だと分かると、こぞって握手を求めたりしてこられた。キスをしようとする人が男性女性に関わらず現れる度に、巫女さんが両手で押しのけた。見れば彼女の両手には白い手袋をしてる。脂ぎった筋肉マッチョやペットの小さな空飛ぶトカゲなんかを引っ込めさせてるためか、それが少し汚れてる。彼女の負担を増やしてしまったかなと今更ながらちょっと後悔してしまう。


「気にしないでください」


巫女さんは僕の視線に気づいて言ってくれるが、こんな人がぎゅうぎゅう詰めになっている通りを僕達一行がなんとか進む苦労を考えてみると。確かにお昼ご飯ぐらいゆっくりと安全な王宮で食べた方が良かったかもしれない。


「よっし。行くぜ」


妙な雰囲気なエキゾチックな感じのお店にたどり着いた。


「なにしてんですか。ここ違うじゃないですか。冗談は止してください」


「冗談じゃないさ。いいだろ?ここ、実は俺の店なんだよ。売上見るのが毎月の楽しみでね」


「王が聞いたら激怒されますよ」


「そりゃ間違いないね。子離れしねーからな。あいつ」


「王子って身内になると情け容赦無くディスるよね」


「身内の特権さ。そうじゃなきゃ、調子に乗るだけ乗るからね。暴君怖いよー。マジでドン引き必至だからね」


「警護兵もおられるので、王家内部の情報は機密扱いです。軽々しく口にしないでください」


「大丈夫大丈夫。だから伝令ちゃんなんだって。セキュリティクリアランスはクリアしてる。だろ?」


「はい!もちろんです」


「だからこっから先も大丈夫。マジで美味いご飯はその場その時に食わないと損ってもんさ」


入り口の暖簾をくぐった先。際どい衣装をした女性が両脇にずらりと並んでお辞儀をしてる。これってもし絵があったらアウトぐらいヤバイ。ちょっと頑張ってつま先立ちすれば、乳輪が視えちゃうレベルでヤバイぞ。そもそもちょっとふっくらしてきた。っていうか!


「ここ絶対飯屋じゃないよね!?」


「え?そう?この世界じゃこういうのだって」


「王子のおとぼけはスルーしてください。ここは明らかに大人の劇場でしょう」


「ダンスフロアだろ?ポールダンスポールダンス。あ。伝令ちゃん現金持ってる?ちょっと貸してくんない?」


そう言って王子は伝令役に金を借りてる。なにやってんだ…。ここ自分のお店だろうに。促されるまま進むと、花道のような一本道の舞台の最前列にやってきた。妙に間延びしたエロチックな音楽に聞こえてくる。


「ここってほんとにダンスフロアなんですか?」


「そうとも。皆大好きダンスフロア。だろ?伝令ちゃん」


「そうです。ここは皆大好きダンスフロアです。主に男性が好きな方が多いです」


言われるまま言ってる。僕達が席に着くと凄まじい料理の分量がテーブルに積み上げられていった。主にフルーツ、フルーツケーキ。


「ささ。遠慮せずに食ってくれ。ここのシェフは俺がスカウトしたヤツでね。王宮の流派とは違った絶品を提供してくれるんだ。だから女性の二人は今日だけカロリー無視ね」


「私も座って宜しいのですか?」


「口止め料口止め料。じゃんじゃん食べてね」


いただきますと言って軽くジュースから飲むと、プリンジュースのような甘い濃厚な飲み物で、湿度の低いこの世界も相まって一気に飲んでしまった。


「悪いけどアルコール入ってないから」


「当たり前でしょう!」


巫女さんは王子にきつく言ってる。王子の軽口も段々慣れてきた。


「美味しいです!」


気付くと隣の伝令さんは割とガチめに貪り食ってるという表現がぴったりの食いっぷりだった。


「うん、いけるね」


王宮での料理は確かに美味しいけど、カロリー計算されてるらしく、確かに過剰な旨さ、過剰な甘さ、尖った料理というのはなかなか無かった。野菜が主食だし。確かに美味しいし家庭的な味がするけども、たまにはこういうカロリー無視も人生には必要だ。これ言うと巫女さんから怒られたのだけれども。


「うまうま…」


え?


「…」


舞台の花道で、ダンサーが踊ってた。王子はダンサーの胸元に伝令さんに借りたお金を突っ込んでる。ここストリップじゃないか!今更気付いた。


「ユウキ、あまり視線を上にあげないでください。お昼からの仕事に支障が出ます」


「えっあっはい………」


「堅い事言うなって。男にはこういう浪漫が必要なんだよ。あ。伝令ちゃん葉巻吸う?」


「吸わせていただきます!」


王子は気持ちよさそうにぷかぷか葉巻をふかしてる。でかい葉巻だ。甘い匂いで鼻から酩酊しちゃいそうだ。


「ん」


絵に描いたような黒髪ロングの超カワイイ女の子が天井まで続いてる銀のポールをしっかり握ってダンスをしてる。


「ス―――ハ――」


酸素が必要なので、恣意的に深呼吸。ほんとどすけべ。えちえちが高い。テント張ってる。これはやべーだろさすがに。


「ヘイパーっス!」


そう言って王子はコインを投げてきた。


「胸元胸元」


僕は受け取ると、首を横に振った。隣の隣に座ってる巫女さんから変なオーラが漂ってるのが肌が分かった。だからっていうわけじゃないけど、僕はそれから上を見ずに料理に集中した。本当に美味しい。なんたってこれらの料理の半分は間違いなく砂糖で出来てるでしょ。それでも目の前にあったパフェ二つとケーキ三つ、シュークリームっぽい栗味団子を二つ平らげた。


「たまにはいっか」


隣の王子を見ると、食べかけの料理をほっといて、今にも落ちそうな葉巻を片手にいびきをかいて眠っている。


「じゃ。帰りましょうか。ツケは全部あそこのバカ殿にお願いします」


葉巻から漂う甘い匂いと、間延びした音楽が妙に印象的で、心に残った一幕だった。


「またのご利用をお待ちしておりま~っす!」


笑顔で送り届けられた。妙にリフレッシュになったらしく、割と気分転換になった。ここにきて女の子の身体という身体を見たせいだろう。しかも妙になまめかしいエロチック。


「王子あのままで良かったのかな…」


「いいんですよ」


「王族の方々はこの数日周辺国との連絡に加えて、エルセダスとの軍事報償の連絡で王子に白羽の矢が当たりましたから。連日、大変なご多忙だと思います」


「そうなんですか」


王子が居ないので、僕が英雄殿だと身バレせずに大混雑の中でも割とスムーズにパレードに戻る事ができた。


「王族にしては民衆側に立って政策に臨んでますからね。王族にしては珍しく」


午後のパレードも変わらず民衆に笑顔で応えることが出来たと思う。パレードも終わり、僕の身体に染み付いた魔術的仕掛けの有無もオールクリアで問題は無かった。


「楽しかったな…」


ベッドに横になって、そう呟いた。生きてると、良い事もある。浮き沈みの激しい数日だけれども、今日は最良の一日になれた。それがなにより。

疲れを癒すためにはどうすればいいのか。メンズエステと呼ばれるマッサージの存在がある。

その効能素晴らしい効能は彼女にとって決め手となった。英雄に必要な事だった。

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