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《天へ至らんとする愚者の道》  作者: Aluluna
《プロローグ》
3/3

f30xa-f-2d《無為なる救済》エリア

 「ぁ……あさ……」


 暖かな病室に声が響く。

 機械は音も立てずにその職務を全うし生命を維持する。


 「…………」


 病室は明るく、窓からは薄暗い森が見える。


 外は夜だ。


 「……ぉはん……ぁ……」


 他の誰もここにはいない。

 機械は何も答えない。

 それに意味が無いことを、AIはよく知っている。

 ただ点滴に栄養を流し込み、排出物を処理し、彼に夢を見せる。


 それは救いだ。

 社会において一定の功績を残したが、不死化される程ではなかった人物の、末路。

 昔は介護や延命について議論もあったが、夢を操れるようになってからは、この方法が取られている。


 「ぅ……あ……」


 それは寝言だ。

 きっと、さしたる意味もない、寝言。


 だが、どうだろうか。


 彼は、救われているのか。


 幸せを感じているのか。




 生きて、いるのか。




 「………」


 機械は何も答えずに、ただ職務を全うする。






◆◇◆◇◆







 明るい部屋。陽の光が十分に入り、清潔に見える、シンプルな部屋だ。

 その端にあるベッドに、若い男性が寝ている。


 「あー、そうそう、うん。まぁ仕方ないよねー」


 ホログラムデバイスを用いて通話をしている。

 指を使う操作も必要無くなったそれは、うつ伏せに扱う必要もない。ただ好きなように寝ているだけでも、扱うことが出来る。


 「実際しょーもないゲームだしさあ。え?まあガチでやってるつもりだけど、どうせトップにはなれんしょ」


 彼はきっと、過去にゲーマーへの道を志したんだろう。

 この時代において、娯楽とは仕事だ。

 極め、頂点を目指し競い合うことは、多くの人々に褒め称えられる立派な仕事となる。


 だが、彼はそれを諦めたのだろう。

 或いは初めからそんなつもりはなかったのか。


 このエリアにいる事が即ち、その答えとなる。


 「いーのいーの、なんもしたくないから。死んでないのが奇跡みたいなもんよ?ははっ、早く死ねって言われたけどさ」


 ここは、幾度もの教育、矯正を経て尚奮起することの無かった怠惰な人間の行く末。

 彼はその生涯において何らかの行動を起こすのだろうか。


 このエリアから社会に復帰した者は、全体の1%にも満たない。

 年々人口が増え続けエリアの増設も考えられているここは、安寧が産んだ廃棄物なのかもしれない。


 人は、満たされ続け崩壊が見えなくなった時、何を求めて活動をするのだろうか。

 彼は犠牲者か、それとも弱者なのか。

 益のないものを庇い続けなければならないだけの余裕は、果たして優れていると言えるのか。


 そして彼もいつか、その人生について考える時が来るのだろう。






 このエリアの自殺率は4割を超える。

作品中のf~は基本、階層を意味するものでは無いので、マップとしては割と平面に広がっています。

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