f32xa-b-8d《罪の落とし子》エリア-下層
顔を上げれば、冥い空が僕を押し潰そうとしていた。
十年以上、見慣れた空だ。
どこまでも、いつまでも、闇の広がる空。
星や太陽と言うものはそこに無い。それは雲なのか、それもわからない。距離も測れない、闇。
「変わらない……なぁ」
昨日は一体、なんの為にあったのだろう?
今日は一体、なんの為に過ごせばいいだろう?
明日は……果たしてあるのだろうか。
答えの出ない問いだ。
答えなんて、きっと無いのだろう。
明日があるのか、も。
僕にはわからないことだ。
「君は今、光に出会えているのかな」
これも、知る術の無いものだ。
僕はそれを、幸せを祈るしかない。
だが、知らぬものを祈れるだろうか。
今日の天気は雨だそうだ。
今回は何処に落ちるだろうか。
大地には、穴だらけの石柱が連なっている。
それが唯一の目印。
唯一、世界が無でないことを証明する、物体。
「今日は、誰が旅立つんだろうな……」
この地にもまだ、人が残っているのだから。
常闇の空が唯一降らせる雨は、その石柱は、多くの人々の命を奪っていったらしい。
きっと今日も、何処かで誰かが死んでいくのだろう。
それは、救いか。
或いは、悲劇か。
遥か昔、世界が光に満ちていた時代には、人は太陽の光を浴びなければ気が狂うと云われていたらしい。
だとすれば、皆の死はきっと、救いなのだろう。
そうでなくては。
「僕は、皆は、何も信じちゃいないんだ」
歴史は育ての親に聞いた。
それは酷く大雑把で、物語にも思えなかったけど。
ただ、科学を否定され、信仰に縋った人々は、その神をも信じられぬ程の絶望に押し潰されたのだ。
それだけは、実際の出来事なのだろう。
「でも、何かを信じているから、生きてるんだ」
矛盾しているそれが、行動の示す真実だろう。
僕は何を、信じているのか、わからないけれど、何かを。きっと。
石柱は天罰のような死の象徴であると同時に、希望の象徴でもある。
人が希望を見いだせるとすれば、たったひとつ変化を与えてくれる、それだけなのだから。
「…………」
空を見る。
変わらない黒がそこにある。
ここから雨が降るなどと言われても信じられないが、何度もそれを見てきたのだ。
きっと、この空の上には、何かがあるのだ。
希望。
これが、唯一の希望。
空に挑むこと。
大地を抜け出すこと。
天上の世界を夢見て、だがしかし、殆どはそれを夢想に終わらせる。
希望を否定し、無為を生きる。
幾らかは種の保存を試み、食いでを減らす為にそれを殺す。
大地に希望など、もはや無い。
希望。その存在自体、机上の空論のようなもの。
この地には絶望が拡がるのみ。
けれど。
「君は……君は今、空が見えているかい?」
僕は、僕だけは、希望を見なければならない。
僕だけは、希望から目を逸らしてはならない。
全ては、君の為に。