守谷楓華の場合。②
猿丸先生の授業が終わり、俺と守谷を除くクラスメイトたちは全員がもれなくボロボロになっていた。猿丸先生は手加減してくれているのだろうが、それでも俺たちは一撃も攻撃を与えることができていない。
「ふぅ、疲れた・・・・・・」
「だ、大丈夫?」
唯一無傷の守谷が俺の隣に歩きながら心配してくれている。今は体操服から制服に着替えに行くために俺と守谷は教室に戻っていた。
「大丈夫だ。猿丸先生は手加減してくれているし、これくらいならすぐに治せる」
「も、もしかして、それも、魔法?」
「魔法だな」
「ど、どどどどど、どんな魔法なの⁉」
食い気味に守谷が魔法のことを聞いてきたが、こういうところは良いと思う。色んな事に興味を持つのは成長の幅が広がってくると思う。
「大まかに言えば治癒魔法、厳密に言えば身体活性魔法。守谷は漫画とかアニメとかは見るのか?」
「見る見る! すっっっごく見る!」
「それなら魔力とか想像しやすいかもしれないな」
「魔力ッ! すっごく好き!」
魔力がすごく好きは意味が分からないが、それでも二次元や魔法のことにすごく興味を持っているようだから、これは説明しやすいと思う。俺は魔法を知ってから、漫画とかアニメを見始めたから魔法の万能さに落差はあれど、感覚はつかみやすいと思う。
「だが、どうしたものか」
「えっ、えっ、ど、どうしたの? ま、魔法について、説明、してくれないの?」
「いや、俺が説明していいものかと思っただけだ。この次の授業は魔法基礎学だからそこで説明を受けても良いと思ったんだが・・・・・・」
少人数だし、先生に教えてもらった方が良い気がする。猿丸先生みたいな先生ではないから、良いと思うが、ここで説明しても問題はない。
「こ、ここ、ここここ、ここで説明して! 早く知りたくて気になるのッ!」
「お、おう、そうか」
俺に接近してきた守谷に押し切られて、俺は説明することになった。間違えたことを説明するわけではないため、大丈夫だろうと俺は判断した。
「まず、何から説明するかに悩むんだが、何から説明してほしいとかあるか?」
「じゃあ魔法がどうやってできるのか! それに今の私にもできる魔法とかない⁉」
魔法のこととなると興奮しだす守谷を分かりやすいなと思いながらも、俺は守谷に魔法についての説明を始める。
「魔法というのは、人間の身体に宿っている魔力を魔法という結果を生み出すために消費して変換することで発動できる。とりあえず基本的には何も知らない状態で魔法は発動できない。だが魔法師以外でも意識せずに魔法を使っている人はいるがな」
「えっ、私の内なる力が目覚めてすぐに使えるようになるとか、じゃないの?」
「どこの主人公だよ。魔法のことを知らないと使えないと思うぞ」
「・・・・・・そ、そうなんだ」
どうしてそこでものすごく残念そうな顔をしているのか。俺が悪いことをしているような感じになってしまうじゃないか。
「・・・・・・じゃあ、変換ていうのが魔法陣ってこと?」
「そんな感じだ。厳密に言えば魔法陣ではないが、分かりやすく言えば漫画とかで見る魔法陣は頭の中でする感じだ」
「な、なら、どうやって私が魔法を使えるようになるの?」
「まず魔法の大前提である魔力を認識する必要がある。魔力を自在にコントロールできないと、魔法の精度にもかかわってくる」
「ま、魔力って、漠然としているよね。どうやって認識するの?」
俺と守谷がこうして話している間に教室にたどり着いた。だから一旦話を中断して俺が外で着替えて守谷が中で着替えた。最初からこうしていれば話だと後悔しながらも、着替え終わった。
「それで、魔力をどうやって認識するかって話だったな」
「うん。魔力って聞いてもパッと来ないし、認識するところから難しそうだね」
「そうでもない。魔力を認識するのに簡単な方法がある」
俺と守谷は席に着きながら話し続ける。まずは魔力が無意識に魔力が認識できているかどうかを判別しないといけないと思い、俺は誰も使っていない机を対象に重力魔法を浮かび上がらせた。
「おぉっ! 魔法だ!」
「そうだな。まぁ、これくらいはできるようになってもらわないと困るぞ」
目を輝かせている守谷にそう言ってゆっくりと机を戻した。
「あの机を見て、何か見えるものはないか?」
「・・・・・・うーん、何か、少しだけ、光ってる?」
「そうか。光ってるように見えるか」
「えっ! 何かまずかった⁉」
守谷には俺が浮かした机が少し光ってるように見えて、俺にも光ってるように見える。つまり守谷はすでに魔力を認識することができていることになる。
「いや、そんなことはない。あれは魔法を発動した時、発動した後に見られる残留した魔力だ」
「残留?」
「そうだ。魔法のコントロールが良くなければ、干渉した机の周りに魔力が残ってしまう。魔力であるあれを認識できているということは、守谷は魔力を見えていることになる」
「ということは、どういうこと?」
「魔力は誰しも心臓を中心にして全身に回っている。魔法師や魔力を認識できる人は、その魔力が一般人より活発的になっている」
「血液みたいだね」
「イメージ的にはそんな感じだ。それで魔力が活発になっているということは、一般人が魔力を説明されて意識するのとは違い、全身に流れる魔力が意識しやすいということになる」
「・・・・・・えっ、私って、魔力の存在を本気で信じていても魔法が発動しなかったんだけど」
「それはそれでどうかと思うぞ。それはただのちゅうに――」
「今のは忘れてくださいお願いします」
守谷の痛い言葉にツッコミを入れようとしたが、守谷は真顔で俺の言葉を遮ってきた。俺はそういう期間がなかったから、そういう話をすることがない。楽でいいな、悲しいな。
「まぁ、魔法は魔力さえあれば誰でも開花することができる才能だ。そして、守谷はすでに固有魔法を発動している」
「さっきの授業の時にも言われてたよね、それ。存在感がない、固有魔法?」
「猿丸先生に会った時に発動していたのなら、もう守谷は魔法が使える状態ということになる。ただ使える状態であって魔力を認識できる状態とは違うが、守谷は魔力を認識できる状態だから次のステップに行けそうだ」
「次って、もしかして魔力を使うってこと?」
「それはまだ先だ。まずは全身の魔力を認識するところから始めないといけない。今、自分の身体を見て何か思わないか?」
「・・・・・・別に、何も、感じないけど・・・・・・」
守谷が自身の身体を見ても何も感じていない。だが俺の目から見ると全身に流れている魔力が節々から漏れ出している。魔力とは誰もが持っている精神活力であり、それがなければ精神が崩壊してしまう。そのため漏れ出していても不思議ではない。一般人でも精神活力が漏れ出している。
「まずは今身体中から漏れ出している魔力を認識しなければいけない。机の魔力残留は分かりやすく魔力を多く残していたが、自身の漏れ出している魔力は自分自身だから確認しずらいというのもあるが、それを認識しなければ魔力を扱うこともできない。逆に言えば、それさえ認識して意識さえすれば魔力のコントロールもできるようになる」
俺がそう言うと、しばらく黙っていた守谷は自身の手を見てだらしなさがマックスな破顔をしている。一瞬戸惑った俺だが、こういう年頃の少年少女はこういう話をされると興奮してしまうのだろうと最近のラノベを見た情報で察した。
「んっんっんっんっんっんっ・・・・・・」
「何やってんだ?」
顔を元に戻した守谷は、次に自分の手を見て難しい顔をしてうなっている。俺は思わず何をしているのかを聞いたが、しばらく答えが返ってこなかった。俺は無視されてもくじけない男であるため、しばらく待つことにした。
それにこの段階ではこれ以上教えることがないため、会話がここで終わっても問題ない。俺は机の中に入ってあるラノベを取り出して読み始めようとした。
「何かコツはないの⁉」
「・・・・・・びっくりした」
隣にいた守谷が俺の意識の外から大きな声でしかも近くから声をかけてきた。俺はそれに驚いてしまったが、動揺を隠してその問いに答える。
「コツって何だ? ていうか近い」
「今は近くても我慢してください! 今まさに魔力を認識したら魔法を使えるようになるんだから早く魔力を認識したいの! そのコツとかないの⁉」
こいつ、最初見た時とは雰囲気が違っている。そこまでこの魔力というものに心がくすぐられているのか。それはこの学園で良いことだから別にいいけど。
「コツか。魔力というのは、精神活力と言われている。魔力が尽きれば気絶するし、ストレスや不快感を覚えれば精神活力は下がり、魔力の質が落ちる。言うなれば精神、心の状態で魔力は左右される。魔力の上限値は変わらないが、魔力の出力や質は変わってくる。だから魔法師は一定の精神状態を目指すように言われる。つまり言いたいことは――」
「楽しいことを考えたり、魔力の出力が上がることをすれば良いってこと?」
「そういうことだ。まぁ、それはきっかけにしかならないが」
「きっかけって?」
「人間は圧倒的に負の感情を抱える人の方が多い。だから正の感情を維持し続けるのは難しいし、それを保とうとすればふとした瞬間に出力が落ちて思うようにパフォーマンスができないかもしれない。だからきっかけとしか考えない方が良い」
「・・・・・・なるほど」
自分の席に戻った守谷は俺の言葉に納得して、目をつぶって何かを考えている素振りをしている。俺はまたいつ近くに来られるか分からないため、守谷を何となく観察していると守谷が目を開けてこちらを見てきた。
「どした?」
「・・・・・・ね、ねぇ」
「あぁ」
「その、ね?」
「うん」
「えっ、と」
「何だ?」
守谷が何か言い出そうとしているが、言い出せないのを俺は待ち続けることにした。
「その、きょ、今日会った牛鬼くんに、言うのも何か、変だなと思うんだけど、私たちって、会話、してるよね?」
「会話は、してるぞ」
「と、とととととととということはつまり! 男女が二人きりで会話をしている、青春ってこと⁉」
守谷は上ずった声で俺にそんなことを聞いてきた。しかもこの俺にそんなことを聞いてきたのだが、どう考えてもそれが守谷の地雷だということは分かっている。
「まぁ、そういう見方もあると思う」
「そ、そうだよね⁉ 私たち、青春してるよね⁉」
「あぁ、してる。めっちゃしてる」
何か肯定してほしそうな顔と質問をしてきたため、俺は肯定しておいた。これ以上この話題が続くのはお互いに苦しいと思った。だが彼女の顔はそんな顔ではなく、嬉しそうな顔に変わっていった。
「ふへ、ふへへへへへっ、ようやく、ようやくあの呪縛から解放された! 私、青春してる!」
こんなことで青春を謳歌していると言っているのは、たぶん陰キャだけだと思う。ボッチな男子高校生が、同じクラスの人気な女子と日直になって、一緒に日直の仕事をして青春を謳歌しているとか思っているレベルに陰キャだと思った。
自分自身が陰キャであるため、俺は守谷に同情の視線を送ることができずに感情が渋滞していると守谷の身体から漏れ出していた魔力が強くなってきた。
「おっ、おおおおおっ⁉」
「待て、いや、その状態を維持したまま話を聞け。たぶん見えているだろう、それが魔力だ」
魔力が強くなったため、守谷の魔力に慣れていない目でも見えるようになった。魔力は強弱によって見えやすさが変わってくるから、こうして魔力が高まれば見えるようになる。
「魔力を見るだけではなく、感じろ。そこまで高まっている魔力なら感じるはずだ、魔力の感覚を」
「・・・・・・あー、何か、纏っているような、でも、疲れている? 気がする」
「それはそうだ。精神活力を消費しているんだから。そのままいったら気絶するから」
「えぇっ⁉ それを早く言ってよ! どうやって止めるの⁉」
「落ち着いていたら止まるし、そうやって不安にかられていたら魔力の出力は低くなっていく」
俺が言った通り、守谷の漏れ出している魔力は次第に収まってきて、通常通りの魔力に戻った。それに守谷は安どして机に突っ伏す。
「あー、疲れたぁ・・・・・・」
「まさか一日で魔力を認識できるとは思わなかった。普通はそれだけで数日はかかると思っていたが」
「えっ、それって、つまり才能があるってこと?」
「すごいというだけで、才能があるとは言えないな。自惚れるにはまだ早いと思うぞ」
「そ、そうだよね」
「だが素直にすごいとは思う」
「ほんと⁉」
「ほんとほんと」
何故か興奮している守谷を適当にいなしながら、俺は次をどうするか考える。とりあえず今日は守谷に教えることはせず、精神活力の回復をしてもらうことにする。精神活力に負担をかけるのは次の日からでも問題ない。
しかし、これ以上俺が教える必要があるのかと考えてしまう。これから先は先生が教える領域ではないだろうかと。むしろここまで教える必要があったのかと。今更ながらの話ではある。
「ほんとにどうやったら攻撃を当てられるの? あの胡散臭い先生」
「先生のことを胡散臭いと言ってはいけませんわよ」
「そうよ。あの先生は私たちを指導してくれている先生よ」
更衣室から帰ってきた神馬たちが教室に会話しながら帰ってきた。俺はそちらを見ずに守谷を見ていたが、守谷は俺と二人でいる時とは違い、縮こまってしまった。こうして見ると、多少は俺のことは慣れてくれているのだと思った。
「ね、ねぇ、次はどうしたらいい?」
「あ? 魔法のことか?」
「う、うん、そう」
「今のところ教えれることはない。今は漏れ出している少量の魔力を認識できれば次のステージに行けるってとこか」
「そ、そうなの? で、でも、どうしたら・・・・・・」
「さっきのを繰り返しすれば、嫌でも認識できるようになるって聞いたことがある。だけどそれは精神活力の消費が激しいから、あまり日に何回もしない方が良い」
「あー、そう、なんだ。なら、やってみようかな」
「今さっきやったばかりだから、少し休憩した方が良いかもしれないな」
「精神活力って、どうやって、回復するの?」
「寝るとか、好きな物を見るとか、食べるとか、リラックスすれば大体回復できる」
守谷は俺にぎこちなく質問しながら、俺が答えると納得したように何度も頷く。そうしていると今度は更衣室から男子二人が戻ってきた。
「卓也くんの筋肉は本当にすごいね。今日先生の攻撃を素の身体能力で避けていたよね?」
「そんなことはない。それを言うなら中口も先生に一発当てれそうになっていた」
「そうかな? ありがとう」
二人は仲睦まじく話しながら帰ってきたが、俺はその光景を見て悪寒が走る。だが気のせいだと思ってその考えを彼方へと放り投げた。二度と帰ってくるなと願いを込めて。
「・・・・・・し、質問に、答えてくれて、ありがとう」
「あぁ、それくらいならいつでも聞いてくれ」
クラスメイトが全員揃い、守谷は存在感がなくなるかと思うくらいに縮こまっている。ここに来た時よりも縮こまっているのではないかと思った。
「大丈夫か?」
「・・・・・・た、たぶん、大丈夫」
「たぶんって、これから共に青春を過ごすクラスメイトなのに、大丈夫なのか?」
「そ、それは、考えたら、無理、かも」
ますます顔色を悪くしている守谷にどうしたものかと思っている時、守谷の近くに神馬が来た。それだけで守谷の顔は固まってしまった。
「少し、良いかしら?」
「守谷にか?」
「えぇ、そうよ」
「俺は別にいいけど・・・・・・」
神馬が守谷に話しかけるつもりらしいが、守谷は未だに固まったままだった。これは会話できないと判断したため、代弁して答えてやることにした。
「お前とは話したくないんだってさ」
「それは、守谷さんが言っているのかしら」
「言っていなくても分かる。見ろよこの顔、この微動だにしない顔を。これが今日入ったクラスの人間に向ける顔と思うか? これはもうお前を見ていないぞ」
固まっている守谷が何を考えているかなんて分からないが、俺がこうして言葉をたしてやることでそういう風に見えてくると思った。決してこいつのことが嫌いとか、そういうわけではない。早くどこかに行けや、清楚みたいな面したビッチが。
「・・・・・・そうだとしても、どうしてかしら? 私は何かしたのかしら?」
「それが分からない時点でお前は守谷と仲良くできないんだよ。そもそもお前は誰とでも友達になれると思っていて、今までそうだったとか思っているのかどうか知らないが、その実は本当は誰とも友達になっていないんじゃないのか? だからこうして守谷は話しかけても答えてくれないんだよ。もう守谷は見抜いているんだよ」
適当なことをどんどんと並べていく。後戻りはできないが。前に進むことはできる。いや、前に進むしかない。
「何のことかしら? 私には全く分からないわ」
「まぁ、俺にはどうでもいい話だったか。それよりも守谷は話す気がないんだから、さっさと自分の席にでも戻ってればいいだろ」
「ちょっと、さっきから何様のつもりで言ってるの?」
俺と神馬が話しているところに、守谷のことを俺に押し付けてきたピアスの神馬の取り巻きの女が来た。
「何だ? お前こそ俺とお前に差があるみたいな言い方をしているじゃないか。お前らは俺より偉いのか?」
「そんなつもりじゃないけど、言い方ってものがあるでしょ」
「言い方? そんなものがあるのか? ははっ、面白いことを言うな。こいつに対して話す時は、言い方があるのか? 初めて知ったな。その常識はどこで教えてくれるんだ? 小学校か? 中学校か? それともこの学校か? どこで教えてくれるんだ教えてくれよ?」
「・・・・・・うっざ」
「答えてくれないなら早くどこかに行け。ハッキリ言って迷惑」
「はいはい、分かりましたよ。どっか行きますよ。行こ、美幸。こんな奴に構ってると時間の無駄だよ」
「ははっ、ようやく気が付いたか」
そう言って神馬たちは自分の席に戻って行った。俺がこのクラスで孤立している理由、それは俺がボッチを望んでいるからではなく、嫌われにいっているからだ。いや、そもそもあいつらと性格が違い過ぎるのが問題だと思う。
「・・・・・・おーい、大丈夫か?」
俺がそう呼びかけても守谷から返事は来なかった。仕方がないと思い、俺は放置してラノベを読み始めて次の授業の先生が来るまで守谷は戻ってこなかった。
学園の三つの授業が終わり、俺と守谷は教室から出て俺が学園の中を案内することになった。これは俺がまいてしまった種であるため、喜んでお受けすることにした。
「こっちが月光学園魔法専攻科の校舎で、あっちが月光学園軍隊専攻科の校舎だ。別に行ってはいけないということはないが、俺もあっちの校舎まで詳しくないから説明できない」
「私たちのクラスが魔法専攻っていうのは分かるけど、軍隊専攻って?」
「軍隊専攻は魔法師ではない人が魔法師を制圧するために作られた科だ」
「魔法師を制圧? どういうこと?」
「世の中には魔法を使って悪さをする奴がいるんだよ。だからそれを魔法師が制圧するが、魔法師では足りないところを対魔導軍の軍人が制圧している」
「何か、色んな組織があるんだね」
「まぁ、魔法師の歴史はそこそこ長いからな」
魔法師の歴史はそこそこの話ではないが、ここで魔法師の話をしても意味がないため俺ははぐらかして答えた。
「そ、そう言えばッ! ・・・・・・ゴホン、俺から少し謝らないといけないことがあったんだ」
「えっ? な、何?」
二人で並んで歩きながら、俺は先ほど守谷の代わりに神馬たちに適当なことを話してしまったことを謝らなければならないと最初上ずった声になってしまったが、話しかけた。まだ謝っていなかったが、これを長引かせたら確実に謝る機会を見逃してしまうと思ったからだ。
「その、守谷が神馬に近づかれた時に固まった時があっただろ?」
「あー、何かリア充の空気が私のところに来たと思った時には、次の授業が始まっていたあの時ね」
「たぶんその時だな。それで、あのな、その、非常に言いにくいんだが、神馬に守谷の代わりと思って適当なことを話してしまったんだよ。・・・・・・本当にすみませんでした」
あの時の俺は本当に適当なことを言ってしまったため、俺は素直に守谷に頭を下げて謝った。もし守谷が神馬たちと仲良くしたいと思っていたら、かなり悪いことをしてしまった。最悪あいつらに土下座をしないといけないのだろうが、俺くらいの土下座で許してくれるだろうか。
「あ、頭を上げて! 全然話が分からないよ! ・・・・・・とりあえず、どんなことを言ったのか聞いても良い?」
「簡単に言えば、お前と話したくないって言うのを守谷の言葉として言った」
俺がそう言うと守谷は驚いた表情を浮かべて俯いてしまった。こんなことをして良いよと言ってくれる人がいるわけがないんだと思い、今すぐに神馬に土下座しに行こうと思っていると、守谷から予想だにしない言葉が返ってきた。
「全然オッケー! むしろ言ってくれてありがとう!」
「は?」
顔を上げた守谷は俺に満面の笑みを浮かべて親指を立ててきた。その守谷の行動にどういうことか分からずに混乱してしまった。
「いやー、まさか牛鬼くんが言ってくれるとは思わなかったよ! ああいうタイプはいつかは言わないといけないんだろうなって思ってたけど、牛鬼くんが言ってくれて良かったー」
「そ、そうなのか? それは、何と言うか、結果オーライな感じだけど、俺が勝手なことを言ったのは変わりない。本当にすまなかった」
「別にそんなこと気にしなくて良いよ。私が固まっていたのが悪いんだから。それに牛鬼くんが何も言わなかったら、私が酷いことになっていたかもしれないから、お相子だね」
「そう言ってもらえるとありがたい」
守谷がこういう人で良かった、とは思わないでおく。これは俺が感情のまま嫌な奴に言葉を発してしまった俺の恥だ。例え学園であろうとも裏の世界なのだから、感情は殺しておかないと。
「それよりも牛鬼くんがそんなことを言うんだね。そんなイメージがないから驚いた」
「どんなイメージだ? でも今回の場合は相手が神馬だったところがある」
「神馬さんって、あの三人組の女グループにいる大和撫子みたいな人?」
「あぁ、そうだ」
「・・・・・・人を第一印象や雰囲気で決めつけるのは良くないけど、あの人にはあまりいいイメージは持たないかな」
「どうしてだ?」
「うーん、何となく、じゃダメかな?」
「いいや? 何となくで人を決めるのは別に悪いことじゃない。今回に関して言えば、間違っていると言えないからな」
こういうところは女の勘と賞賛すべきところだと思った。俺も男の勘と言うべきか、猿丸先生より胡散臭さを感じていたから避けていた。後から知り合いにあいつの本性を聞いて避けてて良かったと思っている。
「それってどういうこと?」
「ここで学園生活を送って行くなら俺が言わなくても嫌でもそれに気が付く。実際に目にした方が分かると思うからな」
「そう言われたら逆に気になるんだけど」
「それは我慢しろ」
「言ってくれてもいいじゃーん」
「無理」
俺から本性を言うことは止められているため、言うことができない。ただ、俺が言わなくてもそのうち見ることができるし、俺は何度も見てきた。
「ねぇ、牛鬼くん。この教室って何?」
「・・・・・・おぉ、これは驚いた」
「えっ! 何⁉」
俺と守谷が歩いていると、守谷が突如足を止めて変哲もない教室の前で俺にその教室のことを聞いてきた。俺はその教室の正体を知っているが、それが何かを守谷に言っていないし気にする素振りもしていない。守谷はおそらく魔法を察知する能力が高いと思われる。まだ開花していないのにこれであるから将来が有望だと言える。
「見れば分かる。少し覗くぞ」
「えっ、覗くって」
俺は言うことができないが見せることはできるため、隠密魔法を領域干渉をしてこの教室の周りにかけているところに、バレない具合に干渉して俺たち二人が領域の中に入る。そして隠密魔法をかけて音を反響させず、扉が開いていることに気が付かないように認識をそらす認識魔法をかけた。
「静かに」
「う、うん」
そうして俺と守谷がこっそりと教室の中を覗くと、二人の男女がいることが確認できた。だがその二人は身体を絡み合いながらねっとりとしたディープなキスをしていた。片方はさっき話題に出ていた神馬で、片方は知らない男子だが二年生の魔法専攻の生徒ではないかと予想する。
「え――」
「驚くのは分かるけど、それはバレる」
大声を出しそうになった守谷の口を手でおさえてそれを防いだ。初日でこの教室を見つけれて、なおかつこれを見れたのはデカいと思う。
「こ、これが、牛鬼くんが言っていた、そういうこと?」
俺が手をはなすと守谷は俺の方を向いて顔を赤くしながら聞いてきた。だがその質問は肯定も否定もできない。
「さぁ、どうだろうな」
「どうだろうって、絶対にこれだよね?」
「俺が言えることは何もない。後は自分の目で見て確認してくれ」
「・・・・・・つまり、何も言えないってこと?」
「さぁな」
俺はこうしてはぐらかすしかなかった。そして神馬たちが何をしそうになったため、俺と守谷はその場から急いで離れた。そしてそこから俺は神馬について何も言わずに学園の中を案内してこの日は終わった。守谷は俺と一緒にいる間、ずっと無言で頷いているだけだった。あれは陰キャの教育上良くないと思った。
次回は三月十六日にデウス・エクス・マキナ三話を投稿します。