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永劫的な少女?  作者: 緑神江
8/8

後日談?

今日は四月一日水曜日 午前九時 四十八分

九が消えてから三日後の世界。

異常では無い、普通の日常世界に僕は存在していた。

「あーあ」

 軽く身支度を済ませて家を出る。

駐輪場に止めてある、クロスバイクの鍵を外し少し高めに付けてあるサドルに股がり発進。

「……」

「ほんとに、疲れた……」

 それもそのはず、あの事件。

他からすれば紛れもなく事件なんだろう。

高校生が約三日にわたって、一人商店街に閉じ込められたって言う『変な事件』


報道も凄かったらしい。家族には迷惑をかけたもんだよ……

まあ、報道に関しては『事件性』がないって分かった途端いなくなったはず。


 そう『事件性の無い』高校生一人行方不明事件。

シャッターが勝手に降りていたのは

老朽化によるものらしい。

僕が脱出時、いきなりシャッターを開けれたのは前日に降っていた雨の影響らしい。

らしい、らしい、らしい、らしい


僕が抱えていた矛盾点に現実的解釈を付けていく、警察。

寒河江 九は何十年も前に死んでいて、僕には全く関係の無い田舎に住んでいた人間らしい。

まあ、そんな訳ないんだけれど。

あいつは僕の前に確実に存在しており、今もまだ

存在している。

「している……確実に、まだ」

 九は死んでいない。

あの程度で死ぬわけが無い。

僕と会った時は既に九は死んでいた。

そんな摩訶不思議な出来事が起こりうるはずがない。

神隠しはともかく

渦はともかく

ワープはともかく。

死人と出会う、だなんてフィクションじみた事は起こらない。

九は生きている。

まだ実在している人間。

笑顔でまた、僕の前に現れてくれるだろう。


「あのねぇ……いい加減立ち直らないと。後々大変になっちゃうぞ。確かに君が体験した事は凄く不思議な出来事だ。

怖かっただろう、三日間もひとりぼっちだ」

「……」

 本当に不思議そうに、若いカウンセラーがこちらを見てくる。


「本当に不思議だよ君は落ち込む要因が分からない……」

「そこまで、精神的に追い詰められる何かがあったのかい? 私は今まで色んな人を見てきた――

一家無理心中で生き残っちゃった子供、拉致監禁で集団強姦を受けた若い女性だっていたよ」

「……」

「だけどね……言ってしまえば君は運が悪かった。ただそれだけの事なんだよ」


「何をそんなに……死んだような顔をしているんだ?

私が思うに君は――この事件の前から。

何かあったんじゃないか。この事件がトリガーと

なっただけで、球は前々から込められてたんじゃないかなって」

「酷いことを言うとね、普通この類の事件でそこまで精神的に追い詰められる人は居ないんだよ。

寒河江 九ちゃんだっけ?

そんな子『いない』存在しないんだよ」


 そんな事を言われたっけ……覚えていない。

何せそれは事件発生から一時間後、疲弊した顔で

田舎道を歩いていた所を通報されたらしい。

パトカーに乗せられて、美人な女性警官が家、じゃなくて警察署まで送ってくれた。

 ここからは結構地獄、肉体的にも精神的にも

ボロボロな僕に対する執拗なまでの取り調べ。

執拗なまでのカウンセリングを受けた。


哀れみに似た目を向けられながら。

心の中に、一人の少女を生み出してしまった。

精神障害者に対するカウンセリングが終わる。



 そして今、僕はあの商店街の中にいる。

出口となる大きなシャッターは空いており、両端から強い日差しが入ってくる。警察の調査の後が根強く残っており、数個のシャッターが剥がされてたり、結構ショックだった。

 まあ、地元の人によるとここはもう取り壊してしまうみたいだしな……

前々からここまでとはいかないにしても『怪奇的』な何かは起こってた見たい――相当古いし仕方ないのかもな。

人はおらず、変わらずボロボロ……

警察の破壊活動? によって廃墟

ってよりは世紀末って感じの雰囲気になっていた。

そこに差異があるのかは分からないけど……

ノルスタジック、と言えば聞こえは良いかもしれない。

「なんて、早く探さないとな」

九を……


捜索開始から三十分まだ見つからない。

一時間まだ見つからない。

一時間半まだ見つからない。

二時間まだ見つからない。

二時間半まだ見つからない。

三時間、もう昼か、九とラーメンにでも行きたいな。美味しいとこがあるんだよ。

四時間、疲れた骨が軋む。

五時間。

「ちょっと休憩」

シャッターに全体重を預け立った状態から倒れ込む。

「九の奴どこ行ったのかな――」

「いい加減出てきてくれても、良いんじゃないかな……」

体の震えが止まらない、手足が凍るように動かない。心臓が高鳴っている。

涙が止まらない、何故だろう、知らなーい、

そうですか。

「僕は弱いな――」

分かっちゃいるさ、そんな事。

九は……あいつは。

その時

『何か』が発する音。

『何処からか』聞こえる百デシベルは優に超えるであろう爆音。

ではなく、『何者かの声』が聞こえた。 




「××××、×××××」


 そうですか、そうだよな。

僕は逃げていたんだろう。

弱くて弱くてどうしようもない僕は現実から逃げていたんだ。

このどうしようもない、事実から。


























「寒河江 九は死にました」

今、僕の目の前にある渦の中に入って。

どこか遠くへ行ってしまいました。





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