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永劫的な少女?  作者: 緑神江
6/8

第六話 押し付けられた死?

ただいまの時刻、十六時 四十四分 四十四秒

謎の渦出現から約○日。

 疲労困憊で体力的にキツい蟹江 楽を除けばまだあの渦に飛び込まなくていい、と断言出来るほどに九はいつもに増して元気だった。


「起きた……」

 ある筈がない、目覚まし時計を手で探してから起床。

硬い布団で固まった数々の人体各部位を解す

ストレッチを開始。

ゴキゴキと嫌な音を立てる、自分の体を愛すかのように優しくストレッチ。

「ん――――やっぱ最高だな蟹江 楽完全に起床」


 僕の寝ていた布団に目をやると、髪留めなどはなく伸びている長髪をそのままにして。

熟睡している、小学児童の姿が。

「捕まるよな、俺」

 うん、でも余り考えちゃダメだな……

「もう――○日ですか……」

早いですね、そうですね。

○日前ノリと勢いだけで決めた、餓死寸前まで待とうぜ作戦。

何度も何度も何度も、討論を繰り返してもこれを超える案が出ないって言う面白い話は

置いといて。

面白い事が起きた。

九はともかくとして、この僕 蟹江 楽は遂にこの状況に適応してしまった。

神隠しも、ワームホールもワープも全て……

適応するしかなかった

しなきゃこの空間に呑まれてた、狂った空間に狂わされていた。

 こんな魑魅魍魎な出来事を信じ切っている

時点で狂っている、と言うべきなのか……

狂信か、盲信か、妄信か、はたまた敬神か、

どうでもいいけど。

まあ、なので吹っ切れた僕は

吹っ切れた僕達は

結構色んなことをした気がする。

「楽さん、暇です。ひまでひまで暇なのです」

「……」

「率直に言うと――遊んで下さい……ませ」

 この定番のやり取りを何度繰り返したんだろう、こんな夕方に起きるような乱れた生活習慣になるぐらいに、遊んだんだろう……

朝から夜までずっと一緒にいたんだ、多分。

僕が拒む程に、九は僕に着いてきていた。

深夜でも一緒だった、早朝まで話し込んでいた時もあった。

二人っきりで、なんて言い方をすると誤解を招くかもしれないが……

何故なんだろう、何なんだろう。

何故ここまでにも仲良くなってしまったんだ友達のような

心友のような

朋友のような

知音のような

実妹のような

義妹のような

なんとでも言える、この関係性。

幸せに満ちた充実した関係。

それを……不運にも、ただの古びた怪しい

商店街とも言える。

脱出不可能の世界から孤立した異世界とも呼べる。

今までの関係も何もかも全て消し飛ぶ可能性のある渦が存在している空間。

 この異常的空間。

酷く脆く、危うい空間。

そこで僕は、大事な物を得てしまう。

「もう夕方だよな」

 昨日は九と夜遅くまで、僕のバックに入っていた最後の食料、否おやつ片手に。

教科書の掲載作品はしょりすぎ問題について

永遠と語っていたので

放っておけば後5時間ぐらいは気持ち良さそうに寝てそうな、小学生が僕の前に存在している。

「起こしてやろうかな……」

 まずは仰向けにお腹を出してだらしなく寝ている九を、うつ伏せに。そう何日も一緒に過ごせば分かってくる。

寒河江 九は起きない!

昨日の夜付けなかった髪留めを使い勝手に

ポニーテール。うん、やっぱりこれだな。

ツインテールは今度してみるか……

次に着替え、はさすがに出来るとはいえ犯罪すぎるので惜しくも却下。

布団をしまいたいので、九はお気に入りの

事務椅子へ置く。抱えて運び置く、良く起きないもんだなぁ。

 事務椅子の前に屈み、

自分が作ったポニーテールの美しさに惚れ惚れしていたら。

急に電源を入れられた機械化のように

目を完全に開く九。

「……着替えを期待してたのになー。

あとあと、髪結んでくれたのは嬉しいけどさ、股がりながら辞めてよね。なんかされそうで怖いんだよ」

「……」

「おはよう」

「おはよう! 良い感じの――夕方だね!」

愛嬌良くすごく可愛い苦笑いに似た笑顔。

「もうすぐ夜だね……」

「人生で初めてかも、昼夜逆転。こんな乱れに乱れた生活初めてだよ」

「僕の人生でもこんな訳の分からない生活は、後にも先にもないんだろうな」

 九の場合は何かと摩訶不思議な事に縁がありそうな、度を越し過ぎた不思議ちゃんなんて言う勝手なイメージがあるから。あと1度位は何か経験しそうだな――なんて。

「ん――と、楽さん」

「暇です。ひまでひまで暇なのです」

 足の届かないジム椅子から地面を見ながら

片足そしてもう片足を降ろし、着地。

目線を僕の方へ変え、手を僕の背中に回す。

簡単に言うと、抱きついてきた……

「……ここの?」

「……」

 ゆっくりと、背中に回していた手を解き

一歩後退。

「いえいえ! ただの気まぐれです!」

「気にしたら死です」

 ひでぇ! 僕を殺しやがった。

えへへ、と明らかに照れ隠しの笑い。

「ではでは! 水飲んできますね。あとあと、私こういう事結構しますけど本当に

『ただの』気まぐれですからね? 」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 ととっと、鼻歌交じえて出ていった。


『事は急に降り掛かる、適応してる暇なんて、頭を作動させる暇もない程に。

だが、甘ったれるなこれが君の望んでいる世界のルールなんだよ』


「……きゃ…………きゃぁぁぁぁぁ」

『絶叫』その一言に限る。

商店街をこだまする少女の声、否絶叫。

こればかりは理解できた、疑いはしなかった

だってこれは……

明らかに否定のしようがない程にその声は

寒河江 九のものだった。


 まず僕が行ったのは、九が叫んだであろう水飲み場へ向かうただそれだけだった。

緊急事態発生、僕の頭の中は今この言葉で埋め尽くされている。

とにかく動く、友達の悲鳴を聞いて微動だにしない奴なんて人間ではない。

走る、メロスのように。この場合指定時間たるものが存在するわけでもないのだが……

怖い、恐ろしく怖い。

寝床を出て早々僕の足が震え始める、少なくとも走るのを止めてしまうぐらいには。


……もうこれ以上動きたくない進みたくない、物語を止めておきたい。

次のページを開きたくない……

『絶叫』という時点で、何かが起こったのは分かる。

その何かを確認しなければならない。

この世界において、この空間において九が

絶叫する程の出来事がまた僕の前に現れるのだろう。

もう嫌――疲れた。



 嫌だ、戦慄してしまっている。

まだ確認していない何かに、押しつぶされてしまう。吐きそうだ、喉が痛い鋭利な針で刺されたかのように、足も全く動かない。

手の震えも非汗も……呼吸が苦しい。

嫌なことを考えてしまう、果たして九は無事なのか?

先程の絶叫から動きがない、あちらからのアクションがない。

「おーい……ここの、悪ふざけしすぎだぞ、何か返事……」

 少し歩いて左側不自然に一つだけ入る事が出来る。

水飲み場の開けておくことができない閉められたシャッター、そこからの返事はない……

少し遅遅と歩いてみる。

一歩、一歩、一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩

一歩一歩一歩一歩

一歩

 いつの間にか、シャッターと目と鼻の先。

もう1枚シャッターを超えれば寒河江 九がいる場所。九がいるであろう閉鎖的空間。

なんの理由かは全く、全然……分からないが。

『話さない』

『動かない』

『何も発しない』九がいる場所。


「うわあ……うあわ……ああ」

 やっぱり『死んでいるのだろうか』

言うまでもなく始めに思いついたことだった。


多分僕は……惨殺された九の死体を見ても、撲殺死体、毒殺死体、水死死体でも何でもいい受け入れることはできないだろう。

この状況に至ってもそうだ、いつまでも目を逸らし現実から逃げ続ける。

まずはこれが現実でない、と仮定してからでないと気が狂う。

 現実逃避しかしない、自分の世界にいつも逃げ込み自分を籠絡させ他を嘲るように見て自分を保つ。

そんな惰弱な人間なのだ、そんな惰弱な人間だったのだ。


 もう違う人間は変わる。

何が原因で何が引き金となってなのかは知らない。

それがいい方向なのか悪い方向になのか

そんなことは知らない。

変わったことのない僕は全く知らないけれど、今僕こと蟹江 楽は現実を直視する。

目の前にある重たいシャッターに手をかける。いいじゃないか、見てやろうじゃないか寒河江 九の死体とやらを。

幼き十一歳の少女の死体を……

 重いシャッターを持ち上げた。


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