第三話 密室での事件?
「で、お前も来るか? 水飲みに喉乾かないの?」
「いいかなー、何だかゆっくりしてたい気分。それに悶々としてるからね……
良いですよ、1人で行ってきてー」
「場所、教えましたよね」
僕達が昨日寝た布団に横たわりながら、
あいつはそんな事を言う
「……分かった」
まだ小学生だぞ、などと言う少女幻想はもう僕には無い。皆無だ。
サンタクロースの真相に付いて知ってしまった以来の精神的なショック。
これだけショックを受けるとは自分でも思ってはいなかった。
もしかしたら僕は少女趣味なのかも
しれないな……
それ以上は追求せずに僕は寝床から出る。
メイドさんが主人の部屋から出る時の様に。この空間がroomへと変わる唯一の襖を
しっかりと閉めて。
この中で今から何が起こるか位簡単に察しがついたし、用心はしていた。
この時は、ね
ただいま時刻は午後六時頃だろうか……少しばかり見える綺麗な夕日がそれを物語っている。先程の会話からは十分
ここに閉じ込められてからは一日程経っている。
「結構ここに居るもんだな……」
んでんで、外出。
外出と言ってもこの中なので。
そんな風な言い方が果たして適切なのかは分からないし、そもそもこの中には寝る場所とシャッター以外行く場所がない。
無いはずだったのだが。
何でもあいつによるとオアシスが有るらしい。まあそんな砂漠にある様な『あれ』を 想像されたら困る。
唯の公園の『あれ』子供の時口を付けるかつけないか、関節キスがどうだとかで盛り上がってた『あれ』
まあこの空間ではオアシスまで昇進する事になるので、どちらにしろ変わりはない。
ただ昨日の時点で言って欲しかったな……
それに、そのオアシスが何故ここにあったのにも関わらず。
昨日決死の捜索をした僕が何故昨日の時点で気ずけず、何故あいつは当たり前の様にそれを利用していたんだろうか……
僕は相当に考えた。普通じゃない、と
本来見つからないはずの、場所にある物を何故どうして。九は知っていたんだろう。
ここにあるのが必然の様な……
当たり前であるかのように。
でもそれは蓋を開けてみるといや、
蓋を開けるまでも無い、てんで拍子抜けの答えが僕に帰って来たのである。
「ん? いやいや楽さん。
私この近く住んでるって……
言ったよね? 」
「ん――き お く そ う し つ な の? 」
そうか、そうだった。
僕は余り記憶力の良い方ではないので、いつ言われたかはハッキリしないが。
確かに聞いた。
『当たり前のこと』だった。
大人びてるとはいえ外で遊ぶぐらいするんだろう。
子供の行動範囲は計り知れない。
ちょっと遠くの使われていない商店街なんて格好の遊び場だったんだろう、か。
やっぱり……何か違和感を感じる。
まただ。
これが通常、当たり前、普通、一般、平民的
常識であり、至極当然。
押し付けがましい何かを感じてしまう……
あれもこれも色々な違和感も。
何故九があそこに居たのかも。
九がやっと言う気になった、『現状の実態』とやらを聞けばスッキリするんだろうか。
全部『当たり前のこと』と解釈出来るんだろうか。
そうな様な事を考えながら
僕は商店街にある多種多様とは言えないシャッターの中から、九から聞いた
黄色く黄ばんだシャッターを探す
シャッターという物が、果たして黄ばむ物なのかは僕は知らないが。
とにもかくにも、僕は黄ばんだシャッターを
見つけた。
そして開けた。
普通に一般的に開いた。
ガラガラと錆び付いた音を立てながら。
「はっ……」
こんなの分かるわけないよな……
その中には九が言っていたとうりの。
公園のあれ。立形水飲水栓だけが、唯置いてあった。公園でもなければ、陸上競技場でもないこの場所に、ある意味も分からないし、ある意図も掴めない。
必要性や需要があったんだろうか。
でもそんな様な考えも、思考も。
『それ』をオアシスとして。
水として取られるや否や吹き飛ぶ事になる。
勿論水は出てくれた。
生暖かい冷えていないぬるい水。正直言って最悪だ。
炭酸水でもジュースでも飲んで、幸せに浸りたい。
僕はここで水の尊さや、生命に関する感謝等を感じられる出来た人間ではないので。
こんな水飲んで読まない様な物……
そんなもんだった拍子抜けもいい所である
死に際いやそれは大言壮語が過ぎるが。
少なくともピンチなこの状況下で飲む物は、何でも美味しく感じると思っていたんだけど。残念、残念。
意外と日の入る腐植した商店街で
僕は大きく背伸びをする。
「さてと……」
僕はそう呟いて九のいる寝床へと向かう。
そこまでの足取りは比喩ではなく軽快になってしまった。
なんだかんだで水も飲めたし。
さっき九を問い詰めた結果教えてくれるという、『現状の実態』を聞けるとなると。
単純な僕は蟹江楽はご機嫌だった。
なんでも、その実態とやらは。
なんで九があの時この商店街にいたのか、なぜどうして一日半近く経っても救助やらが来ないのか。などの矛盾点、疑問点を明かしてくれるというのだから。
でもそれは恐らくマイナスな答えが返って来ると容易に想像できるのだが。『実態』何て言葉を使ってるしな。
でも、僕はそうは思わなかった。
この狐に化かされた様なこの状況を。
廃墟と化した商店街で小学生と謎の共同生活を送っているこの状況を。少しでも理解することができる。
僕の頭の中にあった不鮮明な事柄をサッパリと消し去ってくれる。
そんな大イベントが今から起こるとなるとご機嫌になるのも仕方ないことなのである。
「ん――」
もう一度背伸び凄い伸ばす。
ちょっと緊張している。
反面凄くワクワクもしている。
ギシギシと古びた家特有の音を出してくれる寝床への階段を上がって行く。
一段二段三段、と
何だろう、この階段。
来た事の無いビル、学校に朝遅れて行った時の階段。
等と類似している気がする。
他人の空間 私的な空間 誰かの私有地
他者を拒み孤立して生きている、アフリカの原住民族の村の様な、なんて言うか――いい比喩が出てこない……
まあ階段に対する比喩なんて出てきたらそれは天才だ、天賦の才。
そんな様な階段当たり前だが、人生で初だった。少し感嘆してしまった。
それはこの訳の分からない状況がまた僕を 狂わしている、それだけなのかも知れない。
それだけじゃないのかも知れない。
まあこれだけ考えても所詮は階段、建造物とは言え唯の古びた階段。
だなんて言う僕の価値観をひっくり返してくれた、ありがとう階段。
しかし、僕は廃墟好きだったりするんだろうか? どうなんだろう……
僕は自分の知らない一面を知るととてもワクワクと言うか、上機嫌になる部類の人間なので元から上がっていたテンションがまた少し上がってしまった。
部屋のノックを忘れるぐらい。
そんな社会の常識的マナーを忘れるぐらい、
ちゃっかり舞い上がっていた。
寝床と言え個室、しっかり畳の部屋、襖もある『部屋』元々誰かが使ってただろう
部屋。
そんな所で一人になった思春期女子がする 行動だなんて容易に想像付いていたのに……
「ここのー!」
勢い良く襖を開ける。
そこには、掛け布団も何も無い布団にだらしなく寝転がっている。
上半身は疎か下半身にも服を着ていない。いわゆる全裸の小学生の姿が……
「……」
「……っ?!」
顔お真っ赤に腫らした九は一瞬で掛け布団にコアラの様に抱き着く。
強く強く抱きしめる
半分泣いた真っ赤な目でこちらを見ながら。
「なんで! なんでっ! どうしてどうして
どうして!」
「バカ! アホ! 嘘だ! こんなの!
うそうそうそ! う そ!」
「最低です! ばかあほまぬけ、こっちを見るな! 見ないで下さい! 私を見るな……私を覗くな! 見るなったら み る な!」
……可哀想に、仕方ないさ、人間生きていたら1度位あるもんさ――多分。
僕は無いので何とも言えない――な。
九は両手でしっかり涙を拭い。
ゆっくりと立ち上がる、布団が若干肩に掛かったまま僕の前で無い胸を張る……
「仕方ないじゃないですか! 良いじゃないですか! 思春期女子なんですよ……疲れたらこうなるのは自然の摂理です!
ともかく、ノックぐらいして下さい!」
「それに何ですか、ノックをしなかった方に非があるんじゃないですか! 」
「……」
ん――会話が始まるのか、やっぱりコイツ何かおかしいよな……
「えーっと、確かにノックしなかったのは悪かったが……明らかに共同スペースで裸になってる方が悪い! 絶対に悪いね、さっさと服を着ろ!」
「いえいえ例え一時的な共同スペースとは言え、ノックは必要です。絶対にーいります、この歳なんですよ! ちゃんと予測して下さいい!い!」
「何の逆ギレだよ……お前はジャコモか何かか? そっちが悪い何がなんでもお前が悪いね」
「誰ですか、それ。聞いた事もありませんし、見た事もありましー」
「じゃなくって!」
近くの壁に拳が……
危ない、こいつ手が出るタイプか。
「ほんと、勘弁して下さいよ! 私別に裸を見せる趣味とか持ってませんからね!
露出嫌いですから!」
趣味とか、言いやがった……俺の、少女幻想が。
どんどん、崩されていく……
「はぁ……もう分かりました。そう、そうですよ! そうなんです。取り乱すのが間違ってた。
別に今小学生が裸になってる『だけ』
何ですよ! 裸で寛いでる所に入ってきた。
ってだけの状況なんですよ、はぁーそうかそうか」
うんうん、と自分の台詞に自分で頷く。
「じゃじゃ楽さんさっき言ってた事の真相とやらをお話しましょうか。
私はもうだいじょーぶ な ん で」
「何が大丈夫だ! 全然大丈夫じゃない!
特に俺がとてつもなく大丈夫じゃない!
それをが気にならない位のの変態してないからな俺は」
「いや……ですから楽さんもう大丈夫ですって。楽さんもしかして私の体気になったりしてます?」
「ロリコンだったり――するのかな?」
「ないな、それは絶対に無い」
「ホントに?」
「もちろん、of courseだよ」
「じゃあ良いじゃないですか!」
「貴方の妹や姉が風呂から裸のままで出てきても何も思わないでしょ? いちいちそんな事気にしないでしょ?」
「それと同じ様に思って貰って結構です。
ささ教えるんで、座って下さい」
畳の上で九が正座を始める、嘘ではない。
目を真っ赤に腫らしながら、
意地の張り合いだった……物凄く無駄。
非生産的な時間。今警察が来たら僕は、拉致監禁の上小学生を全裸にさせその後……
と三面記事を飾ってしまう。
「分かった! 俺の負け。俺が悪かった。
ごめん、だからさ、えーと。服着てくれよ、頼むからさ」
「えーと、それは、楽さんが私の体が気になって話に集中出来ない――と」
「ああ、その通りだ。お前の幼気で愛愛しい体が気になって、何にも手が付かない。からさ頼むよ服着てくれ。」
やったー!
と、満面の笑みで万歳。
九の頬が紅潮する、本気で嬉しそう。
それとも現実逃避か……
この訳の分からない現実から目を逸らしているのだろうか。
ともあれ、小学生に負けたと言う事実は、結構心に来るものがあるな。
「分かりましー服来ますね。ほらほら何見てるんですか、後ろ向いといて下さい」
「チッ」
「え? 今舌打ちしたんですか?何か変な事言ったかなー」
「何でもないよ。はいはい後ろ向いとくから早く着替えとけよ」
「ういうい」
僕の背中に割と強烈なデコピン、反応はしなかったが、相当に強い。
何だろう後ろ向いたら、これじゃあ済まないよ、的な意味がこのデコピンに込められてるんだろうか。
「まだ? 着替え始めてもう5分、は言い過ぎかもしれないけれど……」
「まだまだ、今七分の一位だよ」
ミニスカにTシャツ、これのどこに七個もの工程があるんだろうか、女子というのは実に大変な生き物何だな?
「楽さん、見ないんですか……」
「え? 」
「いえ、ですから。着替え覗かないんですか」
「……質問の意味が分からないな」
「あーもう……これだから童貞は」
「!」
え? もう分からない。助けてくれ……これが昨日の仕打ちだとしたら、重すぎる。
「はい、もう良いですよ。着替え終わり!」
半ギレ九何かしたかな……
心当たりしかないけど、
「ではでは」
「ではではではでは、楽さん。」
「長い」
「この話を始める前に一つだけ言いたい事があります。」
急に先程まで泣きわめいていた事など完全に忘れたかのように、シリアスな口調に変わり。
こちらを凝視してくる。キリッと、漫画だったらオノマトペが出るであろう真摯さ。
「ん? 何だよ改まって、気持ち悪い。
僕に言いたいことなんて、もう言い終わったはずだろうに」
「気持ち…… いえいえ、それが一つだけあります、あるんですよ」
「始めは処女の如く後には脱兎の如し。
私の座右の銘です」
嫌な小学生だった……
胡座をかいて座っている僕に目線の高さを合わせる様に、気持ちが伝わる様に、中腰になりる九。
いかにも眼鏡をかけた清楚系な女子がやりそうな、髪を自分の耳に掛ける仕草。
片手を肩に置き顔を近ずけてくる、
腕が短いので今にも全体重を預け抱きしめられそうな距離。
色仕掛けをするには少々残念な体系である。
「楽さん……」
「何でしょうか」
ふぅ、と一息
「先程の事忘れてくれませんか?」
「不可能です」




