第一話 商店街の怪奇?
道に迷った。
そんな事は日常茶飯事だ、趣味がサイクリングという名の放浪である僕からしたら特に。
ただの『よくあること』だったはず。
――でも違った、余り状況が呑み込めて
いないパニック状態の僕でも分る。
目々白々に、言うまでもなく。
ここからは出られない、出入口が閉ざされているあたかも初めからそこにあったかのように、必然性の塊であるかの様に。
使い古された様な大きいシャッターで覆われている。
商店街の他の出入口にも全てにシャッターが下りている、閉ざされている。
閉鎖的空間
こう見ると、1度言葉にしてみると。
道に迷うという言葉には少し語弊があるかもしれない,自分が今どこにいるのか分かっているし商店街の名前も最寄り駅も知っている。
分からないのは、今この目をそらしたくなるような不可解な現実。
帰る場所も帰る方向も今この場所も知っている。
のに出れない帰れない。
この道に迷ったというこの言葉は所詮苦しい現実から
目をそらしているだけなのかもしれない。
今ここから出られない、それは僕の心を壊すには十分過ぎる事柄だった。
「ダメだ……」
弱い自分を見てるようで嫌になる
切り替えなければ
授業で言ってたはずだろこういう時は、まず。
『落ち着き状況を整理して今自分ができることの中から最適解を探す』
くどいな……それにググったらすぐ出てきそうな安っぽい言葉と言うより――今僕が作れるレベルの言葉ではあるが。
人からもらった言葉というだけで安心出来る。
言われたことをするだけ、何て猿でもできる楽勝だ。
暗中模索していればいずれ何かしらの回答は見つかる
はず――だろうか。
こんな言葉に縋り付いている時点で……
なんて馬鹿なことを言ってから早4時間
もうしっかり、夕方……
時間なんて見たくなかった自分がどれだけ頭を回しどれほどの作業をしたのか。
これも現実逃避の一種だと思うと、頭が痛い
作業と言ってもただひたすらにシャッター以外の脱出経路を探していただけ。
それに古い商店街だ――30分を過ぎた時点で隅々まで回り終えていた。
それでも得た事――いや押し付けられた事はある。
この商店街が古いタイプの商店街でドーム状になっていること。裏口はなく出入口は二つの大きなゲートだけであり両脇に並ぶ店なども全てシャッター閉ざされている、
街灯はなくそこはかとなく不気味な雰囲気の漂う『場所』ただの古臭い『商店街』なのに出れない出れる気がしない難中之難もいいとこだ。
あの言葉はあくまでも仕事のトラブルだとか友達関係とかで本領を発揮するのであって、今このサイクリングして
田舎の商店街に興味本位で入ってしまい帰る時には出口がなかったよ――何て恥ずかしい状況では
何一つ意味をなさないまだドラえもんの「夢確かめ機」の方が実用的だな――なんてのにもきずいた。気づいてしまった……
四時間という膨大な時間を費やして新しく得たものが一つもない。
いや正確に言えば開始三十分で何となく
わかってはいた……
「ふざけんな!」
思いっきりシャッターを蹴ってみた。
苛立ちをふんだんに込めて。無駄だ知っているただ悲しく響くだけ,反響音が消えていくそれだけじゃない。
近くに落ちていた金属の棒で『たたいた』
へこむどころか傷一つ付かなかった。
何度も『たたく』
何度も何度も何度も
現状は変わらない、いや諦めたという意味では変わったのかもしれない。
腰が落ちた重力に従って地面に――諦めてしまったそこから出ることを。
僕が今思う唯一の脱出経路が消えた……そしてそれは『僕』しかいない世界での終わり。僕一人ではもう革命的な打開策も期待の抱ける空からの助言も何もない。
一日すれば救助が来るんだろうか……
一人閉鎖空間での一日、嫌だな気持ち悪い。
倒れ込んでからどのくらい経ったのだろう日が暮れそうだ、この空間に閉ざされて早六時間程。
「そろそろ動かなければ……」
全精力を注いでその場から立ち上がり
自転車と共に無造作に置かれたリュックサックのもとへ。
そこにあるのは大切にとっておいた水筒にして半分程の儚い水。
飲む飲み干すつもりで飲む正気を失ったもいいとこだ、でもそうならざるを得ない程僕は満身創痍だった。
別に何かと戦ったって訳でもないのに、して言うならたっぷりと見せつけられた弱弱しい『自分』――わかってました。
知っていました。
この状況下で冷静になり凄い打開策を練れる様な人種ではない事は
知っていたつもりでした。
だから弱い現実逃避したくなる様な
『状況下』に立たされた時。いつものように目をそらすだけでは、どうしようもない時僕は何も出来ない。
本当はもっと動けるもんだと思っていたさながら物語の主人公の様に。
もう自嘲的な話はやめようもう十分わかった自分が分かった。
こんな話をしてる間に時間は過ぎていく、
自分なりに今の状況も分かったつもりだし。
まずは寝る場所だな寝る場所は確保している何故か一つだけ不自然にシャッターが開いている古めかしい雑貨屋? のような場所。
ニ階が生活スペースになっており三部屋ある中の一番小さい部屋。押し入れが一つあり畳の部屋。
通路側に窓が一つ。無駄に綺麗な敷布団が押し入れの中に入っていた……怖いな今日はこれで寝るのか。
無駄に生活感があり少し不気味、それに加えて畳の上に無造作に置かれた事務椅子がなおいっそう恐怖を煽ってくる。
それに他の部屋がどうなってるのかと言うと無理だ、とてもじゃないが一日いや入る事すらキツイだろう……そんな様な荒れようだった荒れ荒れだ、畳は剥がれ襖は腐り一度浸水でもしたかのような腐敗臭。
ここまで来る階段もだが、この商店街は基本的にボロボロな廃墟と化しているのでゆっくり寛ぐ場所は今日寝る所位だろうか、ゆっくり寛ぐ余裕なんてないが。
さて――リュックから取り出したハンドタオルを枕にし横になった今から爆睡する用意は満タンだ。
こんな所で爆睡出来るような図太い神経は持ち合わせていないが、疲れと寝る場所があるという安心感でもうそんな事はどうでもいい。人間死ぬ間際ならどぶ水でも飲むというがまさにこれだ。
いやそれをいうなら
今全然死ぬ間際でもないし今この状況でどぶ水を飲むに値する『睡眠』をとることは少し危機感がないのかもしれない。
得体の知れない場所での睡眠これは自分が思っているよりも危険な行為なのかもしれないでも一日だ大丈夫、日本の警察は優秀だからなもうすぐしたら両親が通報するだろう。
結構遠くの方まで来てしまったが――昼前には来てくれるだろう、いくら田舎の方へ来たと言っても農道で何人かの農家とすれ違っている全然大丈夫だ。
なんて自分に言い聞かせる様に大丈夫を連呼している間に眠りに落ちてしまった。
過去形だ。
この後何が起こったって?
そんなの簡単だ考えれば小学生でも思い付く
凄く単純な事件。
『夜何者かに襲われる』
物語の定番だ簡単だったろう?
その何者かが十三もいかない位の『少女』って以外は。
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