『まずは虐めさせようかな』
生まれた時から決まっている「運命」、なんだか「小説」に似ていませんか
学校帰り、嫌な事があればいつもここに来る。裏山にぽつんとあるボロボロの小屋。誰も来ない、誰も知らない、僕の、僕だけの隠れ家。毎日ここに来る。叫んでも、怒っても、悲しんでも、泣いても、誰にも気づかれない。だからここに来る。一昨日も、昨日も来た。きっと明日も明後日も、いつまでも独りなんだ。今日も『またひとりで泣いてるね、キミ』
驚く為にここに来たことは無い、涙を拭ってすぐさま振り返った。
『今日は早いね、サボり?』
午後は休みだ、口に出そうとして思わず息を飲んだ。
『どうしていつもここに来るの?裏山なんてつまんなくて誰も来ないよ?』
麦わら帽、白いワンピース、多分僕と同じくらいの歳の女の子が立ってた。凄くかわいい子だと思った、いや、“いつも”?見られてた?ずっと?ここ数日?数週間?
『フミ』
「え?」
『フミ、わたしの名前。あなたは?わたしは名乗ったよ、あなたも名乗ってよ、礼儀だよ?』
無礼だ。かわいくない、人が泣いてるのに。なんか、図々しい。
『なーまーえー』
「ヒノキ」
『ヒノキ君、素敵な名前だね、この裏山によく生えてるよね、この小屋もヒノキで出来てるんだよ、良かったね』
何が良いのか分からない、もういつから見られてたかこの際どうでもいい、独りにして欲しい、無視し続けよう、どっかに行ってくれ。
『ねぇねぇ、なんでいつも泣いてるの?嫌な事でもあったの?あるんでしょ、言ってごらんよ、誰かに話すと楽になるよ』
なる訳あるか、ならないから独りなんだ。
『ねぇなんで?言ってみなよ、なんで?』
『なんでなんでなんでー』
『なーんーでーなーのー』
確信した。ここで一生泣き続けるより今この子と居る方が気が狂う。そして折れない、無視は効かない、この子はずっと聞いてくる。絶対に。そんな気がする。
「……いじめられてるんだよ、学校で」
『へぇそうなんだ』
凄い、いや、酷い笑顔だ。口を利いてくれたことに喜んでるんだろうけど、それは分かるけど、いじめを告白した人間にする顔じゃない。笑顔すぎる、にんまりって言葉はこの子の為に生まれたかもしれない、そんな笑顔だ。
『いじめかぁそっかぁ、よくないね、泣きたくなるよね、いやはや泣かずにはいられますまい』
腹立つ。茶化すな。なんだその口調、いじめか。もう顔を向けてやるもんか。
『ねぇ、わたし、童話が好きなんだ、1つ聞いてくれる?』
「……聞かなくても言い続けるんだろ」
『分かってきたねぇ、それじゃお一つ、そう遠くない、なんならついさっきの話ですが、いつも暴れてばかりの子がおりました。その子は人にも物にも酷く手をあげており、周りの人達はほとほと困っております。ある日、その子はいつも通りむしゃくしゃしており誰彼構わず当たり散らしていました。周りの人達も逃げ、とうとう無我夢中になって暴れ回ると、悪い大人達に突っかかっていき、返り討ちにあってしまいました。必死に謝りましたが許してもらえず、連れ去られ酷いお仕置きをされました。その後暴れん坊は戻らず、どうなってしまったか、誰も分かりません。めでたしめでたし。』
「……めでたくないよ」
『めでたいよ、因果応報、学校で習った?善い行いには善い結果、悪い行いには悪い結果だよ』
「大体何が童話だよ、子供が読む内容じゃないだろ。どこの童話?題名は?」
『題名はありませーん、わたしが今創りましたー』
「悪趣味なお話」
『そんな悪態ついてると悪い事が起こるよ、因果応報、因果応報、キミはいじめっ子になっちゃダメだよ』
「誰がなるもんか、誰があんな奴らと同じに、もうどっか行けよ。いつも僕のこと見てたんだろ、ここには泣きに来てるんだよ、帰れよ」
『分かりましたーもう帰りますー。また会ったらお話を聞かせてあげるよ、暗くなる前に帰ろうね』
ぞわっとした、気配が消えた。辺りを見回す。女の子は消えていた。有り得ない、小屋がある以外は少し開けた場所だ。走り去るにしても足音くらいする。消えた、急に消えた。小さい本だけが残されていた。
「手帳……?」
“モノガタリ”
ブックカバーにはそう書かれていた。酷く掠れた字だ。読むのに少し手間取った、右から左に書かれていた。
「落とした?……なんだったんだ……」
少し気味悪くて、拾わなかった。また会えるか分からないのに持っててもしょうがない。置いておこう、明日もきっと晴れるだろう。もう帰ろう……。
……おかしい、夕焼けが殆ど見えなくなってる、30分も話してない筈だ。
17時の時報が鳴らない。時計を見た、17時は、過ぎていた。葉の擦れ合う音、鳥の鳴き声、風の音が怖くなった。不気味だ。