院長の壁~第3話~
翌日
林はいつもの通り診察を行っていた。今回の患者は乳がんで入院中の女性患者だった。抗がん剤の注射を打ち
林「はい、今日の注射でしばらくは大丈夫だわ」
患者「あの先生」
林「うん?」
患者「本当に治るんですか?、あちこち病院をたらいまわしされて、やっとの思いでこの病院に来たんです。大丈夫ですよね?」
林「あなたは、もう大丈夫。私がいる限り絶対に治るから、安心して」
患者「ありがとうございます」
患者はしばらく泣いていて、林の優しい心で動いたのか、ハンカチを差し伸べた。しばらくして、患者は病室へと戻っていった。カルテを書いていると、大城が近づいてきて
大城「あの先生」
林「どうしたの由美ちゃん」
大城「本当に自殺したんですか?、岡部先生は」
林のカルテを書く指が止まった。既に岡部が自殺したことはこの病院に、まるで新種のウィルスみたいに早く出回っていた。自分も知らないふりをしなくてはいけない、そう思い
林「本当にってどういうこと?」
大城「内科の看護士さんから聞いたんですけど、どうやら殺されたって岡部先生」
私が殺した?、噂にしては真相に近づいてる、いつからそんな噂が出回ったんだと思いながらも
林「へぇ、殺されたって誰によ」
大城「内科の看護士さんが言うには、林先生だって」
林は、一瞬目で大城を睨みつけるように見た。大城は慌てて
大城「内科の人が言っているだけですから、私はそう思ってませんよ。まぁ私今まで見てきましたら分かるんですけど、岡部先生と林先生、いつも喧嘩してましたからね」
林「盗み聞き?、悪い人ね」
大城「いや、私はたまたま聞いただけですから」
林は椅子から立ち上がり、大城の肩を掴みながら
林「お願い、、もし警察の人から私と岡部先生の事聞かれても、絶対に喧嘩の事話さないでね」
大城「まさか、先生・・・」
林は肩から手を外し、椅子に座りため息をつきながら
林「殺すわけないでしょ、あなたがどんな喧嘩を聞いたかわからないけど、とりあえず、証拠も根拠もないから、安心して」
大城は少し半信半疑になりながらも、
大城「分かりました」
林「ずいぶん、患者さん待たせたみたいね、呼んでいいわよ」
大城「はい、次の方。えっと高田さんどうぞ」
高田?、まさかかと思ったが、そんなことあり得ないと自分に言い聞かせていた。だって今高田のことを思い出すだけで、頭が痛くなるからだ。しかし入ってきたのは、刑事高田だった。一気に頭痛が襲ってきたが、気にしなかった。
林「今日はどうされたんですか?」
高田「ちょっと、熱っぽくてのども痛くて」
林「あっ、そうだ、前の患者さんの処方箋渡すの忘れてた。由美ちゃんこれ渡してきてもらえる?」
林は処方箋を大城に渡した。
大城「いいですよ」
そう言い、林から処方箋を受け取ると、部屋から出て行った。林はカルテを書きながら
林「本当は風邪じゃないんでしょ」
高田「え?」
林「声も前と会った時と一緒の声、顔色は前よりも普通、それに咳も出ていない、一番はそれ」
林は指をさした。その先は高田のズボンのポケットだったが、そこには警察手帳が入っていた。高田は思わず
高田「あっ」
林「どうぜ聞き込みに来たんでしょ、高田さん」
高田「ばれましたか」
林「まぁ、順番通り来てくれたのは、褒めてあげるけど、で、何しに来たんですか?」
高田「昨日の事でお話が」
林「昨日?」
高田「亡くなった岡部さんと林先生、ライバル関係だったそうじゃないですか」
どうせ内科の看護士からでも聞いたんでしょ、そう思い、少し自信を持ちながら
林「どうせ、内科の看護士から聞いたんでしょ、噂よ噂、そんなの信じてもらっちゃ、こっちは少しながら侵害なんですけど」
高田「何やら噂を言ってたらしいじゃないですか、岡部先生は女の子に手を出すと」
林「だって事実を言ってるだけだわ、あの人は常に女性関係に関しては激しかった面があったし、私は看護士たちにも目を付けていたから、気を付けてって警告を出してただけだよ」
高田「それに関しても、ライバル関係は誰もが知ってました。院長の座を巡って」
林「あなた何を聞きたいの?、院長の座か何か知らないけど、岡部先生は自殺したんでしょ」
高田「自殺にしては不自然な点が多すぎます」
林「例えば?」
高田「例えば、プリンターです」
プリンター?、この刑事は何を言ってるんだ、そう思いながらも
林「プリンター?」
高田「実は、岡部先生の部屋にはプリンターが無かったんです」
林「あっもしかして、どうやって遺書をプリントアウトしたかだよね?」
高田「さすが先生、その通りです」
言われなくてもわかるわ、確かに実行直後に岡部の部屋にプリンターが無かったことに気づいたが、どうせプリンターは家にもあるだろうと思い、気にはしなかった。だが、次の高田の言葉で思惑は崩れる。
林「それなら簡単、岡部先生の家には当然プリンターがあるはず、それだったら先生が自分でプリントアウトして、ここに持ってきたのなら話は早いでしょ、はい、話はおしまい、次の患者さんもいるの、早く帰っ・・・」
高田「故障中だったんです」
林は振り向いて、高田の方を向いた。高田は続けて
高田「岡部さんの家のプリンター、故障中で誰も使えなかったんです」
嘘でしょ、そんなまさかと思いながらも
林「それっていつ故障したの?」
高田「一か月前です。しかし、岡部先生は内科の仕事が忙しく、中々修理に行けなかったらしいですよ、それに岡部先生は独身、家政婦も雇ってなかったらしいですから、誰も修理に出す人もいなかったということになります」
確かに独身なのは知っていた。しかし、家政婦ひとり雇わないことは知らなかった。内科部長もしてれば家政婦2,3人は雇えるぐらい金は持っているだろうと前から思っていた。私だって外科部長になってからは家政婦を2人に雇ってもらったほどだ。どんだけケチなんだ。そう思いながらも
林「じゃあ、殺人の線が濃いってことですか」
高田「そうです」
林「そうですか」
すると、大城が戻ってきて
大城「先生、渡してきました」
高田「じゃあ先生、ありがとうございました」
林はとっさに演技をし
林「薬の必要はありません、大丈夫ですよ、お大事に」
高田は一礼をして部屋から出て行った。しかし、林にとっては更に油断できないことだった。
林「次の患者さん呼んできて」
大城「分かりました」
林の顔色は益々と悪くなっていった。
第3話終わり