院長の壁~第2話~
夜中
現場に駆り出された高田は、眠たそうな表情で現場に現れた。そこには先に西蔵の姿があった。西蔵は現場になった内科部長室で、現場検証を行っていた。すると、部屋に入ってきた高田を見て、
西蔵「あっ高田さん」
高田「あぁ西蔵君だっけ?」
西蔵「そうです。あっ遺体ご覧になります?」
高田「いいわ、今すごく眠たいし、その気分じゃないから」
西蔵「そうですか」
高田は辺りを見渡す、確かに内科部長らしい、たくさんの置物や絵画が飾っている。まるで院長ぶってると言えるほど、豪華な部屋だった。
西蔵「亡くなったのは、この病院の内科部長をしています岡部幸三49歳、自殺でしょうね、机の上には遺書がありますし」
確かに机の上には「院長になれないかもしれない、自分は疲れた」という遺書らしき文字が記載された紙が置いてあった。確かに自殺しか考えられない
高田「院長になれないって書いてあったけど、何?、次期院長候補だったの?」
西蔵「えぇ噂ですけど、どうやら今の院長が今月中に院長の座を降りるみたいなんです。その跡継ぎに岡部さんが選ばれたらしいんです」
高田「なるほどね、第一発見者は?」
西蔵「あぁ二人です。本当は警備員の方もいたんですけど、死体を見たんでしょうね、今は部屋で安静中です。一応あちらにいらっしゃる女性の方が第一発見者です。一人は看護士の方で、一人は外科部長の林先生です」
外科部長?、何故外科部長がこの内科部長の第一発見者になるんだと、高田はそう思っていた。
高田「分かった。ありがとう」
高田は部屋の前で別の刑事から話を聞いている二人の元へ行き、声をかけた。
高田「あのすみません」
林「はい」
高田「私、警視庁捜査一課の高田と申します。第一発見者の林外科部長先生と」
もう一人の看護士の名前を聞いてなかったため、看護士の方を見ながら少し間を開けた。
室田「あぁ、看護士の室田です」
高田「もしかしてですけど、既に発見当時のお話をされてるとは思うんですけど、失礼ですが、もう一度お話頂いでもよろしいでしょうか?」
林「いいですよ」
何度も聞かれても、話すことは同じと心に決めていた林だったが、この女何か気になるとそう思っていた。
高田は手帳を取り出し
高田「お願いします」
室田「あれ午後の10時ぐらいだったと思います。ナースステーションにいたら、突然岡部先生から内線で電話がかかってきて、でたら「林先生はいるか、お別れの挨拶がしたくて」って言われて、そのまま電話が切れたので、急いで林先生の部屋まで行って、先生と一緒にこの部屋に駆けつけたら、もう先生は」
室田は途中から涙声になり、最後には泣いてしまった。
高田「あのごめんなさい、2、3質問良いですか?」
林「あとは私が、どうぞ」
高田「警備員の方も第一発見者と聞きましたが、そういうことだと部屋の鍵は閉まってたってことですか?」
林「はい、そうです」
高田は大きな声で西蔵を呼んだ。彼が来ると
高田「この部屋の鍵はどこにあったの?」
西蔵「えっとですね、確か左ポケットですね」
高田「なるほどね」
西蔵「それがどうかしたのですか?」
高田「そもそもなんで鍵なんて閉めたの?、だって林先生を呼んでるんだよ、鍵なんて閉めたら入れないじゃない」
西蔵「呼び出したけど、結局自殺したかったからしたんじゃ?」
高田「でもね、自殺だよ?、自分が死ぬのに密室にしたら、見つかるのに時間がかかるじゃない、それだと見つける側も手間がかかる。まるで自分は自殺ではなく、事件性があると言ってるようなもの、そうすると、警察や他の医者の人にある意味の迷惑をかけてしまうかもしれない。そんなこと普通の人はする?」
西蔵「確かに」
何この人、まるでこの件を事件にしたいと言ってるようなものと林は一瞬恐怖を覚えた。
高田「それともう一つ、林先生にお聞きしたいんですが」
林「なんですか?」
林はあくまで普通通り答えた。
高田「遺書には院長にはなれないと書いてあったんですが、誰かライバルでもいらっしゃったんですか?」
林「そんな話聞いたことないですね、岡部先生は敵対関係とかを一切嫌ってた人でしたから」
高田「そうですか、こうなると遺書の件も分かんなくなってきました」
林「あとは頑張ってください。私は患者さんの処方箋のリストを作成しなきゃいけないので」
高田「分かりました。ありがとうございました」
林が後姿を向け、外科へと戻る。誰も見えていない高田のその顔は笑っていた。しかし高田は
高田「西蔵君」
西蔵「はいなんでしょう」
高田「あの外科部長。探ってみて」
西蔵「やっぱり怪しいですか」
高田「なんで?」
西蔵「だってここ内科ですよ。まぁ同じ病院だから発見者になる可能性は0ではないけど、内科部長が自殺する時に普通外科部長を呼びますかね、職業上同じでも、やってることは全然違いますからね。それに・・・」
高田は西蔵が話している最中に気づいた。さっきまで泣いて震えた室田が去っていく林を見て、睨みつけていたのを。
高田「西蔵君ちょっと待って」
西蔵「はい?」
高田「どうしたんですか、物騒な目して」
室田は慌てて、目を普通に戻し
室田「いえ、なんでも」
高田「何でもじゃない顔ね」
室田「あぁ、あの女、さっきは岡部先生にライバルなんていない風に言ってたけど、本当は一番ライバル関係にあったのあの女なんです。あの人は、いつも内科の事バカにしてきますし、岡部先生はとても優しい人なのに、「あの男は可愛い女の子にはすぐに手出す人だから気をつけなさい」って散々悪口言って、私あの女を相当恨んでます」
高田「岡部先生の事好きなんでしょ?」
室田は慌てた口調になり
室田「そ、そんな、もし私が好きだったら、他の内科のナースみんな好きですよ、だって私がミスをした時も大丈夫、大丈夫って声をかけてくれて、そんな人が自殺だなんて、絶対にあの女が殺したに違いないです」
室田は泣き崩れた。すると、西蔵は高田に
西蔵「でもなんで、あの外科部長は知らないと嘘をついたんですかね」
高田「嘘をつく人間は必ず裏がある。それを調べるのは私たちの仕事、だから西蔵君、あの外科部長を探って」
西蔵「分かりました」
西蔵は走って調査に向かう、それを見ながら高田は微笑みの顔を浮かべた。
第2話終わり