殺意のペン~最終回~
夜
佐久間は一日中書いた「殺意のメス」をやっと完成まで行けた。時間は10時を回っていた。
佐久間(もうこんな時間か)
そう思いつつも、緑山に食事の支度を告げようとした時だった。玄関の呼び鈴が鳴った。佐久間は既に気づいていた。あの女性刑事だと、緑山が扉を開けると、予感は的中した。
高田「夜分遅くにすみません、ちょっと先生にお話がありまして」
緑山「先生にですか?」
近くの階段から様子を見ていた佐久間、それに気づいた緑山は
緑山「あっ先生、刑事さんがお見えですよ」
佐久間「高田さん、こんな遅くに来るのは失礼じゃないんですか?」
佐久間は不機嫌気味に言った。そりゃそうだ、この女は絶対に事件の話をする。これから食事をして寝ようとする人に、それは苦痛だ。
高田「本当にすみません、今日で最後ですので」
佐久間は今の高田の言葉を信じた。これで最後なら、自分が疑われる根拠は無いからだ。その思いがあって高田を部屋に上げた。自分の部屋に入ると、原稿用紙の厚い束に高田は目が行き
高田「昨日言っていた新しい小説ですか?」
佐久間「あぁ、やっと完成しましたよ、まぁ、いつも書いているミステリーより、そっちの方が断然スラスラ書けますね」
高田「でも完全犯罪考えるのに、苦労しましたでしょう」
佐久間「まぁ、こっちは本当の殺人をするわけではありませんから、苦労はしましたけどね」
高田「そうですか、あっ、そういえば事件解決しましたよ」
佐久間「本当ですか?、それは良かった」
高田「それの報告に参りました」
佐久間は自分自身気になっていた。解決でも犯人が誰なのか、それに事件の推測だが、内容も聞きたかった。そのせいか
佐久間「へぇ、詳しく聞きたいな」
高田「知りたいですか?」
佐久間「もちろん」
高田「分かりました。教えましょう・・・、えぇ大川さんを殺した犯人は、佐久間先生あなたです」
佐久間の息が一瞬止まった。次に息を吐いた時には、少し荒くも感じた。
佐久間「なっ、何を言ってるんですか、私が犯人なんて」
高田「全てに繋がるキーワードがあるんです。それは直木賞です」
佐久間「直木賞?」
高田「そうです。あなたは2000年、初めて直木賞をお取りになった「殺人の列車」なぜこの本が売れたのか、とても不思議でした。内容を最後まで読めば、アガサクリスティの「オリエント急行殺人事件」とほぼ同じです。人物の背景も結末も、普通の人だったら、この本はパクリであることはすぐわかります。しかし、あなたはある方法で、それから自然に抜け出せたのです。それは不正です」
佐久間「不正?」
高田「はい、あなたは当時初めて審査員長になった大川さんに、多額にお金を渡したんです。所謂八百長です。大川さんも悩んだんでしょうね、でも、その年は審査員長になったとは別に、もう一つ大きなことがあったんです。それは佐久間先生のお父様が亡くなられた年でした」
佐久間は、それには触れないで欲しかった。父は確かに2000年に心筋梗塞でこの世を去った。しかし、父の死に目を見られなかったのはいままでの一番の後悔である。そのため、あんまり父親のことは話にしてほしくはなかったのだ。だが、一応話を聞くために
佐久間「確かに父親の死んだ年ですけど」
高田「大川さんは、それを理由にあなたの願いを承諾したんです。そうでなきゃ、恐らく引き受けていなかったでしょう。そして大川さんは他の選考委員にお金を渡し、上手く直木賞に受賞した。そして、今回もそうです。あなたは全く本が売れなく、作家生命が維持できなくなっており、あなたは再び不正を持ちかけようと駆け寄ったんです。しかし、相手にされず、それどころか、この事をマスコミにばらすと言われ、あなたは大川さんを殺害したのです」
佐久間「面白い、でもね、証拠は?」
高田「証拠は当然あります」
佐久間「なんですか」
高田「あなた、最初に私と会ったとき、なんて言いましたか?、ほら頭を強く打って死んだって言ったら」
佐久間「あぁ、あれは固いですねって」
高田は微笑んだ。
佐久間「なんですか」
高田「あなた、なんで死んだ理由で固いもので殴られたって思ったんですか?、あれは確かに固いですよね、でも、私は一言も、何で殴られたかは言っていません、これボイスレコーダーに残しています」
佐久間は負けた。まさか、こんな初歩的なミスで負けるなんて、思いもしなかった。
佐久間「負けたよ、認めよう」
高田「ありがとうございます」
佐久間がため息をつく
高田「あなたがこれで認めてなかったら、最終手段を打つ予定でした」
佐久間「最終手段?」
高田「あなたは左利きです。凶器のトロフィーも跡からにして左利きの人物の犯行でした。緑山さんから聞きましたけど、何も食事は召し上がってないどころか、お風呂にも入ってないそうですね、ですから、あなたの爪を拝見したくて」
佐久間「爪?」
高田「はい、そしたら血痕が微量でも付着してるかも知れなくて」
佐久間「どっちにしろばれたってことか」
高田「それに、何故あなたが直木賞のトロフィーで殴ったか、気づきました」
佐久間「あれは、全然思い入れもないやつです。だって嘘で勝ったやつだし」
高田はそのまま、佐久間を外で待っていた西蔵と一緒に警察署へと連れて行った。
最終回終わり