殺意のペン~第3話~
高田警部は、ソファでくつろいでいる佐久間に何か不信感を持っていた。何でこの人は殺害現場なのにこんなにくつろげられるのか
佐久間は思った。さっさとこの刑事帰ってくれないか、ゆっくりと小説も書けないじゃないかと
高田「あの、今なんか小説って書いてるんですか?」
佐久間「えぇ、書いてますよ」
高田「今度はどんな話ですか?」
佐久間「倒叙ミステリってご存知ですか?」
高田「いえ、聞いたことなんですけど」
佐久間「刑事コロンボや古畑任三郎ってご存知ですよね」
高田「知ってます」
佐久間「その手法です」
高田「つまり、犯人が最初からわかってる話ですか?」
佐久間「ご名答」
高田は興味を持った。確かに古畑任三郎や刑事コロンボはテレビで見て、少しこういう手法もいいかもと感じていたことがあったからだ
高田「見てみたいです。一体どんな話なんですか?」
佐久間「犯人の職業は医者です。そこまでは考えてるんですが、後は動機と完全犯罪の方法です」
高田「なるほど」
佐久間は近くにある棚から一本のウイスキーを出し、コップにつぎ込んだ。
佐久間「自分は強盗に見せかけて殺そうと思ってますけどね」
高田「なるほど・・・、あっ!」
佐久間のコップが一瞬揺れた。ウイスキーが少しだけこぼれた。
佐久間「なんですか?」
高田「今回の事件で少しだけ気になることが2点ありまして、ちょっといいですか?」
佐久間が頷き、高田の向かう方向へとついていく、いったい急にどうしたんだと、佐久間は思っていた。まさかもうばれたのか、そんな恐怖で一杯だったが、今さら人一人殺して怖がるわけにはいかないと、
高田は庭の窓の前にまで来た。
高田「これ見てください」
佐久間「これって、ただの窓じゃないですか」
高田「実は、第一発見者の女性が発見した時、この窓は閉まってました」
佐久間「普通の事じゃないですか、犯人は扉を閉め、ここから逃げていっただけだと思いますよ」
高田「えぇですが、鍵が閉まってたんです」
佐久間「鍵が?」
高田「えぇ、だって玄関の鍵も閉まってたんですよ、おまけに合鍵であろう鍵も、大川さんのかばんの中にありました。つまり犯人はどうやってこの部屋から抜け出したのか」
佐久間「真の密室ですな」
高田「考えられるのは、犯人はこの家の合鍵を作ってたしかありません」
佐久間「そうだよな、密室を作るにも、場所や仕掛けの痕跡とかがないですし」
高田は次にトロフィーのある棚へと向かった。
高田「これはほとんどが」
高田は手を佐久間に向けた。
佐久間「あぁ、確かに自分の物がありますけど、ほとんどが父の物です。父はいつも本を書くたびに、芥川賞や直木賞を総なめし、あまりにも凄すぎて、あの松本清張や江戸川乱歩を超えたとまで言われましたよ」
高田「でも、実はこの数多いトロフィーの中に、一つだけ凶器に使われたものがありました」
佐久間はすでに分かっていた。あのトロフィーだと、さっきからこの刑事は何を自分に訴えかけているのか、さっぱり理解が出来なかった。
佐久間「何なんですか?」
高田「はい、実はあなたが2000年にお取りになった直木賞の受賞記念トロフィーです」
佐久間「ま、まさか」
高田「残念ながら」
佐久間は焦った。この時自分はどんな反応をすればいい、わざと悲しんでいるふりをすればいいか、冷静に言葉を出せばいいか、作家人生で一番の悩みに突入した。本を書いているときにはこんな悩みなど一切ないのに、でも佐久間は決断し
佐久間「でも、たまたまなんですか?、直木賞のトロフィーが凶器に使われたって」
高田「流石作家先生、そうなんですよ、なんで犯人はこんなに数多いトロフィーの中で、こんな奥にある直木賞のトロフィーを使ったのか。不思議でたまりません」
今のは正解だったのか、佐久間は少し人間不信になりそうだった。でも、実際のところは早く帰ってほしい、そう思い
佐久間「あの高田さん」
高田が返事をした。
佐久間「もうそろそろ家に帰ってもいいですか?、執筆の時間もあるし」
高田「あぁ分りました。いいですよ、ありがとうございました」
佐久間「いえ」
佐久間はそのまま、家を後にした。自分は車で来たが、車内でずっと悩んでいた。あの刑事、何かを察してると。エンジンを掛ける、すると、窓を誰かがノックする音が聞こえ、見ると、高田の姿だった。窓を開けると
高田「あのもう一つだけ、事件のあった朝の9時から10時の間、何をされていましたか?」
佐久間「アリバイ確認ですか、そうですね、その時間は家で執筆してました。家政婦の人が午前中はお休みをしていたので、証明する人はいませんが」
高田「分りました。ありがとうございます」
佐久間はそのまま、車を走らせていった。高田は少し微笑えみながら、佐久間の車が消えるのを待っていた。そして高田が向かったのは、大川の自宅で、大川の担当の編集者や家政婦などに話を伺うことにした。
高田「つまり、朝の6時すぎ、急に出かけられたんですね」
先ずは家政婦の女性が口を開いた。
家政婦「えぇ、旦那様がその時間家を空けるのは、釣り以外なかったですし、でもその時は釣り道具なんてもってなかったですし、珍しくスーツで行きましたから、何かおかしいなって思って」
高田は思った。つまりは誰かと会うつもりでいた。それも大事な人と。だからスーツを着て行ったのか、そしたら辻褄が合う。次に編集者の男性が口を開き
編集者「実は今日は、朝の9時過ぎにこちらにお伺いさせていただく予定でした。でも、その日に来てみたら、先生の姿はありませんでした。そんな仕事や私のことでキャンセルしたことはなかったですし、おまけに何も言わずに、他の用事に行くなんて絶対無い人でしたから、自分も不思議に思ってました」
つまりは急な用事、それも他の仕事をほっといても行かなきゃいけなかった仕事、一体なんだ
高田「先生は誰かに恨まれていたとか、ありませんでしたか?」
編集者「それは、実は言いにくいんですが、先生は大の毒舌で、他の作家から嫌われていたんです。その毒舌のせいで、作家活動を断念した作家もいますから、恨んでいる人は多いと思いますよ」
家政婦「近所からも、その傲慢で頑固な性格のせいで、引っ越しした人がいて、その人から訴訟されそうで大変だったんですから」
つまり敵は多い、しかし、今回の事件ではこの近所の人は関係がない、やはりトロフィーの件が頭に残る。
そして高田は警視庁に戻っていった。
第3話終わり