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テンプレな種を蒔く

ジークフリード目線、その2

ふっ、増えてしまいまして削れない orz

「ジークフリード殿下」

「何、リー姉」

「わたくしをそんな風に呼ばれていたのですか」

「うん、嫌?」

「嫌ではございませんわ。 ただわたくしには弟妹がおりませんので、そんな風に呼ばれるととても物珍しく感じられて」

「そう、嫌じゃないなら良かった」


 リー姉に向かって満面の笑顔を見せた。

 瞬間、リー姉からではなく周囲から黄色い悲鳴が上がり、俄かに騒がしくなる。

 

「へっ、陛下と妃殿下に、ご報告をっ!」

「はっ、はい」

「ただいま」 


 乳母も子守も大騒ぎをして部屋から駆け出したものだから、扉の前にいる護衛騎士までもが面食らっているようだ。

 まぁそれが当然の反応だろう、今まで一言も話さず表情さえ変えなかった幼子が、突然流暢に話し笑ったのだから、普通なら混乱必至だ。

 だがリー姉は相変わらず穏やかに微笑み自分を膝の上にのせたまま、さも当たり前に話している。

 まるで自分が話せるのに話さなかったことを、看破しているかのように。


「リー姉は……」

「何でしょうか?」


 一片も曇りない紫目で見られ、何だかその辺はどうでもよくなってしまった。


「ううん、僕はこれから忙しくなると思うけど、リー姉また遊んでくれる?」

「えぇ、約束いたしますわ」

「絶対だよっ!」

「はい」


 両足を揃えてリー姉の膝から飛び降りると、その勢いのまま半回転して今まで自分が座っていた膝に抱き付く。


「あの、ジークフリード殿下?」

「あと、この膝は僕だけのだから、他の誰にも座らせちゃダメだから」

「他になんて、いませんよ」

「言質、取ったからね」

 

 ── まず、一つ ───





 それから王家と行政の上層部は、俄かに騒がしくなる。

 王と王妃の元に行き完璧な礼法で挨拶してみせると、二人とも言葉をかけるのを忘れてしまうほど驚いていた。

 とはいえ今朝方まで一欠片も人間らしさのなかった、忘れられた存在の第二王子なのだから、そうすぐにお披露目の式典など開けるはずもない。

 急遽、式典は半年後と王室行事に捻じ込まれた。


 その間に自分を仕上げようとしたのだろうが、要らぬ心配だ。

 礼儀作法に関しては王直々にお墨付きをもらっているし、座学は教師との問答で完全論破する。

 剣術教師は開始数分で叩きのめし、魔法教師は秒殺で氷の檻に閉じ込めた。 

 舞踊は初見で教師の足捌きを全て覚え、完璧に再現してみせる……次にリー姉と踊るときが楽しみだ。


 そんな事を日々半月も披露していれば、自分の名声は鰻登り『やる前から何でもできる天才』なんて周囲の口に上るようになった。

 そんな人間いるものか、と思わず心の中で毒づく。

 いくら『見聞きしたことを忘れない』能力があろうとも、八年間のリー姉による地道な下積みがあってからこそ。

 リー姉の功績を吹聴できないのも悔しいが、功を誇らないリー姉の事。

 口にするのは喜ばないだろうし、それならそうで自分だけが知っているという仄暗い悦びも覚える。

 

 で、自分ばかり褒め称えられていると面白くないのは、第一王子と第一王子派の貴族達。

 まぁ今更少々の毒ぐらいは効かないし、暗殺者を向けられても撃退は容易いけれど、特に取り繕う気はないから普段は素の自分のままで過ごしている。 

 案の定『いくら天才でも王族としての品位がない』と王位継承の反対理由になっているとのこと。

 ただ、釘だけは刺しておこうと思う。


 城の渡り廊下、昼過ぎにここを一人で通るのは調査済みだ。

 ぼんやりと壁を背にして待っていると、コツコツと踵の高い足音がこちらに近付いてくる。


「やぁ、侯爵」


 何の毒も含まないような天使の笑顔で微笑んで声をかければ、侯爵は訝しがりながらもこうべを垂れる。


「ご機嫌麗しゅうございます、ジークフリード殿下」

「うん、そーゆー挨拶はいいや」

「私めに何か御用でしょうか」

「一言だけ言っとこうと思ってさ」

「はて、一体何を?」


 表情も態度も変えないまま魔力操作をして、侯爵の足元の温度をどんどん下げていく。


「あの時は簡単に凍らせちゃったけれど、今は結構調整できるんだよね」

「……何のお話で」

「僕は覚えてるって事だよ、あの日の出来事もその原因も」

「!」


 今自分の目の前にいる男、この人物こそあの子守に毒を渡していた張本人。

 あの時は子守を氷漬けにしてしまったから、証拠が固めきれずこの男まで突き詰めることは公にはできなかった。

 この男も、子守との付き合いは隠していただろうし。

 でも女達の噂話を馬鹿にしてはならない、しっかり他の子守達の口に侯爵の名は上っていた。

 そして二人目の毒を盛った子守の蔵書で、毒の正体が分かった。

 寒冷地にある侯爵の領地、そこの特産である果実酒。

 

「果実酒も、小さな赤い実も美味しいらしいね。 まぁ僕が口にしたのは、種の方だったけどさ」


 ニッコリ笑って見せる。

 他人が見れはそれは天使の微笑みだろう、だがこの男にはどう見えているか。


「一体、何の事をおっしゃっておられるのか」


 まぁ当然認める気はないだろう、だがそんな事はどうでもいい話で


「まぁ、物証はないしね……でも、あの頃より凍らせるの上手になったんだよ」

「なっ、何を!?」


 侯爵が笑顔に気圧され一歩下がろうとしたが、自分が全く動けなくなっていることに気付き慌てる。

 寒さを全く感じさせず、侯爵の靴だけを奇麗に分厚い氷が包んでいた。


「でっ、殿下!」

「うん、こうやって足止めすることもできるし」


 指で小さな氷を弾くと、それは矢じりとなり侯爵の髪をかすって飛んでいく。


「こうやって、遠くから標的を狙う事もできる」


 パキパキパキ、と唐突に侯爵の左側から氷結の音がして、慌てて左腕を上げてみれば、すでに手首まで氷に覆われている。


「ひっ!」

「こうやって瞬時に凍らせることもできるし、侯爵、冷たくないでしょ」


 パキパキパキ、氷の浸食は肘まで進む。


「~~~~~っ!」

「中の人間を生かしたまま、氷の彫像にもできる……でも、そんな面倒な事をしなくても」

「っ!」


 侯爵は突然息を詰め、心臓を抑えてその場に膝をつく。


「心臓だけを凍らせることもできるんだよねー」


 心臓が幾千の針で刺されるかのように痛み、最早呼吸もままならなくなる寸前、全ての魔法を解いて楽にしてやる。

 侯爵が慌てて顔を上げて見る見る血の気が引いていったから、自分でもさぞかし蔑んだ視線を向けていると思う。


「弁明や言い逃れなんて聞かない。 『次はない』それだけだよ」


 それだけ言って踵を返しかけたのだが、ふと思い立ち振り向く。


「そうだ、あのね僕は王位なんて興味ないから、精々兄上をたてて上手くやってよ。 くれぐれも僕に面倒かけないでよねー……潰すよ」


 言うだけ言って、さっさとその場を後にする。

 背後からひっ詰めたような声が聞こえたが、うん、きっと、僕が知ったこっちゃない。


 ── さて、二つ ───





 夜の帳が落ち始めた頃、僕は城の物見塔の最上階に向かって階段を上る。

 ついさっき、自分の足を止めようとした者も現れたけれど、魔力で潰して気絶させてその場に放置してきた。

 多分、他の者に回収されているだろう……うん、ま、大丈夫でしょ。 

 気配も階段を上る足音も消す気はないから、最上階の小部屋に付いたら、すぐに目的の人物達と顔を突き合わせた。


「ジークフリード!?」

「ジークフリード殿下」

「今晩は、父上、叔父上」


 この二人が時々こうやって兄弟に戻って談話をしているのは、ほんのごく一部の者しか知らないから驚くのも無理はないけど、そんな幽霊でも見たような顔をしないでもと思うよ陛下。

 まぁ恐らく僕が普通にここに辿り着いたことにも動揺してるんだろうけどさ、影潰してきたし。


「何用だ」

「誰の邪魔も入らない場所で、僕の本音を言っておこうと思って」

「お前の本音」

「僕、リー姉が大好きだから」

「リー姉とは?」

「……クレリットの事ですな」


 大公が渋い顔をしてぼそりと呟く。

 人物特定によって、僕の言いたいことを察したのだろう、二人の表情が少しだけ貴族のソレになる。


「それで、好きだからどうしたいと」

「うん、別にどうもしない」

「は?」

「僕はリー姉が大好きだから、リー姉には幸せになってほしいけど、リー姉が王妃にならなければいけない事情も立場も分かってる。 僕は王位なんて興味もない、というかぶっちゃけリー姉以外はどうでもいい、僕自身の事も。 だからリー姉が王妃になるなら、一番近くで支えたい……これが嘘偽りない僕の本音」

「ジークフリード殿下は、王位には関心を示されないと」

「うん、兄上が王になったら、僕は臣下に下ると約束するよ。 その代わり父上と叔父上にも確約してほしいことがあるんだ」

「何だ」

「リー姉に凶事が降りかかった時は僕が払うし、不幸になりそうな時は僕が貰う」

「「っ!」」


 僕の言い切った発言に二人同時に息を呑む。

 それは十歳の子供が、軽々しく口にしていい内容ではないからだろう。

 二人とも分かっているのだ、第一王子は歩み寄らない、大公令嬢は最早諦めている、今のままでは冷え切った夫婦になるであろうことは。

 だが王と王妃が政略婚で、折り合いが悪いのなんてまぁまぁ聞く話。

 そういう時、王も王妃もそれぞれの執務をきちんとこなして、床を分けて後継ぎ問題をちゃんと片付けておけば、王が何人側妃を娶ろうが、王妃が何人愛人を囲おうが何も問題はない……まぁ倫理的には別として。

 僕の宣言は『王妃の愛人に立候補する』そういう事。

 だからもう一押し。


「何も難しい事じゃないよね、兄上がちゃんとすればいいだけだし」


 と、何の穢れもない天使の微笑みでごり押しする。


「う、うむ」


 陛下は何とも珍妙な表情をしつつも、拒否はできない。

 だが流石に娘を持つ大公はそう簡単にはいかないようで、険しい表情でこちらを見る。


「殿下、お尋ねしたい」

「いーよ」

「娘にそのことは伝えておられるのでしょうか」

「ううん、リー姉は僕の事は可愛い弟ぐらいにしか思ってないからねー」

「私にも『言うな』と」

「うん、まだ先の話だしさ、どうなるかも分からないし、ただ約束だけは取り付けときたいなーって」

「……」 


 大公は何かを考えるかのように押し黙る。

 大公だってわかっている筈だ、このままではよくない事に、だから最後の強制的な後押し。


「リー姉は僕にとっての精神安定剤だから、約束を貰えると落ち着くんだよね」


 言葉の端に軽く魔力を乗せる。

 陛下の顔は引き攣るが、大公の表情は変わらない……へぇ、とちょっと感心してしまった。


「……確約する前に一つお願いが」

「ん、何?」

「『そう』なる時には必ず娘に話を通して頂きたい、決して何も知らないうちに話を進めないように」

「あ゛ー叔父上、それ、もしかして実体験?」

「……」


 大公とリー姉の間に、溝というか小さな軋轢があるのは見ていて分かる。

 どちらかと言えば、リー姉の方が明確に線引きをしている。

 あれだけ溺愛されていると分かっているのに、リー姉は決して大公に我儘やお願いや頼みごとをしない。

 まぁリー姉は全てにおいてそうなのだけれども、第一王子の次に諦めが入っているのは大公なのかもしれない。

 決して仲が悪い訳ではない、だが確実に見切りをつけている、そんな感じで。


「りょーかい、元々『そう』なる時はちゃんと口説き落とすつもりだから」

「承知いたしました」

「父上もいいよねー『約束』」

「むっ……まぁ、な」


 不承不承ながらも頷く陛下の様子を見ながら、上出来と口角を上げる。


 ── 三つ ───





 日々は流れお披露目の式典も無事に終わり、ようやく日常を取り戻し以前のように王妃教育の後、リー姉が僅かな時間とはいえ顔を出すようになってくれた。

 勿論、前と全く同じという訳にはいかなかった。

 僅かながらとはいえ、自分に王族としての仕事が回ってくるようになっていたし、リー姉も第一王子の婚約者としての立場を慮って、第二王子として動き出した自分とそうそう懇意にするわけにはいかなくなったのだろうし。

 だから今日は、第二王子から大公令嬢への正式な茶会の招待。

 とは言っても招待客はリー姉一人だけで、いつもと変わらないわけだけれど。

 場所は王族専用の薔薇園のガゼボ。

 そこで王妃から賜った紅茶とリー姉お手製の焼き菓子を堪能しながら、至福の時間を過ごしていると、お邪魔虫がやってきた。

 ……まぁ、これも計算の内ではあるのだけれど、やはり『チッ!』と思ってしまうのは致し方ない。

 背後にぞろぞろと子分を引き連れて、お前は何処のお山の大将だと言いたくなるのを抑えて、にこやかに声をかける。


「やぁ兄上、ご機嫌麗しゅう?」


 麗しくないと言わんばかりに鼻を鳴らし、忌々し気にこちらを見る第一王子とそのゆかいな仲間達。


「こんなところで何をしている、ジークフリード」

「リー姉とお茶会、父上と母上の許可済みー」


 それを知ってるから一言物申したくて、態々ゆかいな仲間達も一緒に引き連れてきたのだろうに。

 大体今は、表立っては僕を称賛する声が多い、ま、裏の話はどうだか分からないけど。

 それは自分が仕留めた教師達も同じとの話。

 で、彼等の生徒である人物達も聞き及んでいるのだろう、今迄その中で一番であったという自負を潰された形で。

 宰相の息子に騎士団長の息子に魔術師団長の息子ねぇ、ってか君達さぁ、第二王子相手に子供でもそうあからさまに睨んでくるのは不敬だと思うけど。


「アーサー殿下の婚約者ともあろう方が、このような場所でジークフリード殿下とお茶会とは」

「みっともないな」

「何、第二王子にまで媚び売ってんの」 


 流石に第二王子に直接何事かを言うのは拙いと思っているのか、口撃の標的をリー姉にしたようだ。

 今まであの姦しい子守達でさえ、自分の前でリー姉が貶められるようなことはなかった、だから知らなかった。

 目前でリー姉が侮辱される事が、これほど腸が煮えくり返るのだと思い知った。

 うん、こいつ等いつか〆よう……と心に決めて、あれ前もこんな風に思った事があったな、と思い返してみれば、リー姉から初めてポーション貰って咥えて、あの子守から「汚い」と言われた時。

 何だ、あれから全然成長してないな、と気付いたら何だか可笑しくなってきて。


「何だ、何が可笑しいジークフリード」

「あぁ、いや、こっちの話。 うん、で、リー姉とのお茶会はちゃんと兄上にも連絡したよ」

「何?」

「それに、朝、リー姉と会った時にも言われなかった?」

「聞いてないぞ」

「そんな訳ないよね、リー姉」

「はい、あの、朝にお会い出来た時にお伝えしましたが、アーサー殿下はお忙しそうでしたので……」


 そう、真面目なリー姉が、例え諦めきっている相手といえど、その辺の連絡を怠る筈はない。

 要は第一王子がろくすっぽ聞いていなかっただけの話。


「それに何ら疚しいことがないから、外の薔薇園(ここ)でのお茶会なのにぃ」


 香ばしい焼き菓子を一口で放り込んで、丁寧に咀嚼してから呑み込む。


「リー姉、美味しい」

「ありがとうございます」


 有象無象を無視して、リー姉に出し惜しみなく天使の笑顔を振りまいておく。


「ふん、他の貴族を招くことない茶会とはな」

「だって、リー姉のお手製のお菓子美味しいんだもん、独り占めしたいし」

「は!? 手製?」

「貴族令嬢ともあろう方が、厨房に入ったと」

「嘆かわしいな」

「平民みたいだね」


 あ゛ーうん、こいつら絶対〆るわー。

 もう一つ焼き菓子を口に入れる、表面サクサク中身フワフワ、甘く幸せの味に自然と頬が弛む。


「そんな素人が作って何が入っているか分からない物を、よく口にできるな」

「んー何で? 僕の為に作ってくれたお菓子はとっても美味しいよ、ねーリー姉」

「……あの」

「ん、リー姉どうしたの」

「……朝は、わたくしが作った物を差し出しまして、申し訳ありませんでした」


 リー姉が第一王子に、伏目がちに頭を下げ謝罪する。


「は?」

「へぇ、リー姉、兄上にも作ってきてたんだ、でも兄上は受け取らなかったと、ソレ今どうしてるの?」

「アーサー殿下に叩かれて床に落ちてしまいましたので、どこに捨てるわけにもいかずバスケット(ここ)にありますが」

「見せて」

「えっ、あっ、はい」


 リー姉からバスケットを受け取り中を見ると、丁寧に手巾に包まれた物が一つ。

 取り出して開けてみれば、確かに落としてしまったのだろう、割れたり欠けたり崩れたりしてしまったクッキーが詰まっていた。


「兄上にはクッキー?」

「アーサー殿下は、甘い物が苦手とお聞きしました。 焼き菓子は甘さを控えるとどうしてもパサついてしまいますので、甘さを抑えたクッキーにしたのですが」


 甘いの苦手ねぇ、取り繕うのも大変だ第一王子。

 甘味好きなはずなのにと苦笑しながら、欠けたクッキーを一つ頬張る。


「あっ、ジークフリード殿下、それは床に落ちた物ですよ」

「へーきへーき、落ちたって言っても手巾ごとでしょ」

「それは、そうですが」

「その位でリー姉のお菓子を食べ逃すなんて選択はないよ。 うん、甘くはないけどバターたっぷりでサクサクして美味しい」

「甘いのがお好みでしたら、砂糖を増やしたり、ジャムや蜂蜜を付けたり、干し果物を入れたりできますが」

「じゃっ、次にそれ作ってー」

「はい、かしこまりました」


 周囲の目をまるっきり無視して、二人の世界を作ろうとする自分に焦れたのだろう、第一王子は忌々しげに大きな溜息を吐いた。


「下らん、行くぞ」

「「「はいっ」」」


 踵を返した後ろ姿に一声かける。


「ねぇ兄上、要らないなら僕が全部貰うよ」

「はぁ、何を言っているジークフリード」

「うん、これー」


 胡散臭げに振り向いた第一王子に、手にした手巾を振って見せる。


「好きにしろ」

「うん、ありがとー」


 ニヤリと北叟笑む。



 ── そして、四つ ───





 一つ、二つ、三つ、四つ。

 彼方此方と種を蒔く。

 種は芽吹き、葉を出し、花を咲かせ、実をつける。


 実が熟し、この手に収穫できる日をゆっくりと待つ。

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