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1-1 無価値な男
「世界はくだらない。」と男は思った。
ありふれたニュースがTVでの放送やSNSのネタとして消化されていく。芸能人のスキャンダル、スポーツの速報、政治や外交、事件や事故…。
―誰だっけ、「近くで見れば悲劇、遠くから見れば喜劇」的なことを言った奴がいたな。残酷な殺人事件も、悲惨な災害も、有名人のスキャンダルも、俺には関係のないことだ。無趣味で何にも興味のない、更に無職で親に何年も養ってもらっている俺にとって、そんなことはどうでもいい。
世間の評価から隔絶されたカゴの中にいる男は、自分の将来になんとなく不安を覚えていたが、その不安すらもいつからか感じなくなっていた。高校を卒業し11年間引きこもった男の中の時間は、いつまでも止まったままだ。
―だるいな、寝るか。
男は、今日も寝床についた。明日は男の30回目の誕生日だ。
何も乗り越えることができなかった、何も成すことのできなかった男の30年は、何という言葉で形容できようか。