99話目 立ってる者は限界まで使って寝かせる
A班
300−15=285
285×8時間=2280コ
B班
1分3コ×60=180
180×8時間=1440コ
★魔力込め班
50コ×16人=800コ
12コ×12人×2時間=288コ
テオくん25コ×6時間=150コ
王女様25コ×6時間=150コ
合計1388コ
C班
400×4回=1600コ
★が付いている班が一番数字が少ないので、要となります。
現在は、ここを重点的に改善しようというお話です。
工場の時間割
9時から9時10分までミーティング。
そのあと、
9時10分から10時、
10時10分から11時、
11時10分から12時、
13時から13時50分、
14時から14時50分、
15時10分から16時、
16時10分から17時
という7時間労働です。
「ほいで、ワテらは王女様に【魔力譲渡】すればええんやな?」
「そうです、お昼にピルヨさんが渡して、おやつタイムにイーッカさんが渡して下さい」
お嬢様は魔力込めが速い。ならば、魔力を回してしまえばいいのだ。
「ガイ……あたしを使い倒そうとしてない?」
気のせいだ。
「お嬢様? ハーピーさんは、1人1日、紫キューブ8個分で雇いました。お嬢様の生産量84個が、150個に増えるので、雇うノルマはクリアです。あとは、朝から粘土でフタをする作業もやってもらうので、そこが純粋にプラスですね」
「ガイってば、錬金術師になろうとしてるわね」
さらなるお金はこれからだよ。
「テオ君の魔力がどれほどで尽きるのかは不明ですが、尽きしだい【魔力譲渡】の人員を雇います。これで確実に150個確保ですね」
彼が本当に楽しそうにやっててくれて良かった。
さて、お昼を食べ終わった面々を前に、再び臨時ミーティングである。
「マケールさん。人はほぼ限界まで活かしました。しかし、まだ魔力込め班が要です」
「じゃあ、さすがにもうムリなんじゃ……?」
「問題ありません。我々には、四次元があります」
私は、腹のポケットから砂時計を出した。
「ヨコ、タテ、高さ……そして、時間ですよ」
「ど、どういうコトですか?」
「私は前から、この工場に違和感を覚えておりました」
ぐるりと周りを見渡す。
「スッキリした姿を見て確信しましたが……この工場、以前はもっと人がいましたね?」
「え、ええ、はい」
そうなのだ。灰色キューブが消えると、工場が閑散として見える。倍は入るだろう。
「ですが、仕事もないのに人を雇う余裕もないと、本部から……」
「ふむ。そして、クビを切ったと?」
「ええ……。あのときは胃が痛かったです……」
完全にコストの罠にハマってるな。
私はオジさんを見た。
「生産力があれば、もっと仕事は取ってこれますか?」
「軽い軽~い。今、カレー関連の会社がキューブをやたら欲しがっててさ~、結構売り手市場だから」
工場長は驚いた。
「じゃ、じゃあ、人を辞めさせたのは……」
「いや~、アレはオジさんもしょうがなかったと思うよ? 本部の頭はカチコチだから」
そうやって慰めつつ、オジさんは困ったような笑みを浮かべていた。――内心、忸怩たるものがあったんだな。
要の生産力を減らしたら、全体の生産力が下がってしまう。オジさんなら、仕事が取りづらくなったことはスグ分かっただろう。
しかし、覆せなかったのだ。
オジさんは頭を掻いた。
「ま、騒音法がイタかったよね~。去年決まってさぁ、あれで『やきやき君』が夜使えなくなっちゃったから」
そうだったのか。
「マケールさん。働く時間をズラせませんか?」
「えぇっ? 機械の時間は固定ですよ」
「では、人の時間ならどうでしょう」
「ひ……人?」
「そうです。ABCの機械は、いずれも音が出ます。ですが、魔力込めと粘土でフタをする作業ならどうでしょうか?」
「む、ムリですよ。法律で、9時から17時までと決まってます」
私は首を傾げた。
「マケールさん。それは、法の責任者にお聞きになられたことですか?」
「いいえ。で、ですが……絶対なんです。砂時計の砂が落ちるのと同じように」
ほぉ。
「たしかに、零れ落ちてますね」
死ぬ間際に、割れた感覚も抱いたな。
私は、サラサラと落ちている砂時計を、ひょいと横倒しにして止めた。
「あっ……」
「絶対なんてこんなものです。――聞いてみましょう」
『大丈夫だよ~、スラちゃん』
「ホントに、パパ!?」
『うん。だって、ドワーフ工房も朝早いしね。機械を動かさないってダケで、その下準備は相当前からやってるよ』
「ありがと、パパ!」
『一応、許可は取りに来てね? それと、朝3時とかはダメだよ~?』
「アハハ、それは大丈夫よ!」
お嬢様は和やかに魔具を切った。
「OKよ、ガイ」
「ありがとうございます」
これほど確実な責任者もいるまい。
ジェラールが自分の腕をトントン叩いた。
「ガイ氏よ。時間をズラした所で、人の使える魔力量は変わらぬぞ?」
「いいえ、違うわ」
お嬢様は気付いたらしい。
「あたしとテオ君が、本当に時間いっぱいまで魔力込めが出来るのよ」
「なるほど……そういう事か」
そういう事だ。
今までは、「やきやき君」のラストオーダーに間に合うよう、16時までで生産を止めていた。
1時間前倒ししたら、仕事が8時から16時までと、フルで行えるのだ。
「あたしが使い倒されてる気がするけどね……」
モチロン気のせいだ。
むしろ、みんながさらにお嬢様を輝かせるため、縁の下の力持ちになっているのだよ。
私はみんなを見回した。
「これが、お嬢様とテオ君、そして12人チーム側の真の限界です」
メモを書き直す。合計欄は、25+25+144を足して、1582だ。
「さて、とうとう要が移りましたね、ベルトランさん」