97話目 要を探せ!
翌日、工場からはA-5が去り、代わりに、倉庫の灰色キューブが山ほど戻ってきた。
トゥーサンがポツリと呟く。
「多いですね」
そうだな、実に多い。
工場内のキューブも、A-5の跡地にまとめてもらった。全部で2万個。1mの高さまで積んでもらったが、跡地が8マス分埋まったよ。
残り1マスは、A-3を隅から引っ張り出してきている。
「僕は……こんなにあっても作ろうとしてたんですね」
思い込みってのは怖いね。
朝のキューブを出す作業がなくなったので、かわりにミーティングが復活した。
さっそく、お嬢様に取ってもらった紙を元に確認する。
「A班のオラースさん。A-3は常に動かすことが出来ますか?」
「大丈夫だべ」
「とすると、9時から17時までの計8時間ですね」
「んだな。お昼も交代で動かせるだよ」
私は新たに紙を用意し、
A班
300−15=285
285×8時間=2280コ
と書いた。
「B班のベルトランさんも、機械は常に動かせますか?」
「ああ、儂ンとこも同じだ」
「では、8時間、と」
B班
1分3コ×60=180
180×8時間=1440コ
「C班のレオンさん。『やきやき君』はクールタイムが必要との事ですが、最大で何回動かせますか?」
「16時が最終だな。それより遅いと、都市の騒音法に引っかかる。あとは2時間ずつ逆算するだけだ」
「ふむ。すると14時、12時、10時ですね。騒音法は、8時はダメなんでしたっけ」
「ああ、9時からだ」
「では4回、と」
C班
400×4=1600コ
「最後に、マケール工場長。魔力込めは15時まで18人体制だそうですが、昼以外の時間はずっとやっているという事ですか」
「え、ええ。1時間におよそ10個作ってます」
「では、お昼と10分休み以外は作業しているとして、5時間ですね。そのあとは?」
「各班の人と入れ替わって、16時まで12人です。あと、テオ君ですね」
おや。
「テオ君はずっと魔力込めをしているんですか?」
「はい。作業がゆっくりなので、魔力の消費が遅いからかと」
ふむ。書き書きと。
10コ×(18人-1人)×5時間=850コ
10コ×12人×1時間=120コ
テオくん5コ×6時間=30コ
合計1000コ
「では、A班が2280個、B班が1440個、C班が1600個、魔力込め班が1000個なので、一番数字が小さいのは魔力込め班ですね。今は、ここが要です」
「要……ですか?」
「ええ、マケールさん。肝心要の、要ですよ」
私は、腹から砂時計を取り出した。
「どれだけ他が広くても、砂が落ちる速さは、この真ん中、蜂の腰に依存しています」
扇子も取り出し、広げてみせる。
「私は、大事なところという意味で、要と呼ぶことにしました。現時点では生産力が一番低い『魔力込め』班を、キューブ1個でも増産させることが出来たなら、全体の生産量が増えます」
「ガイの言う通りよ。今は、あたしのいる魔力込め班が弱いの。この生産量が上がるような、何かいい案を出して」
お嬢様がみんなを見回した。
「いい案か……」
「と言っても、俺らの魔力は尽きてるし……」
「じゃあ、テオの生産力を上げる……?」
「おい、テオはもう頑張ってるだろ……」
おっと、また彼の名前が出たな。
私はトゥーサンを見た。
「テオ君は、最後まで魔力が尽きていない。そうですね?」
「ええ。ですが、それは仕事がゆっくりですから……」
「そこです」
私は人差し指を立てた。
「皆さん、大体15時ごろに魔力が尽きるのですよね?」
「はい」
「でも、テオ君は尽きていない。ならば、改良の余地はあります」
私は指差した。
「魔力込め班と言ってますが、やってる事はもう1つありますよね? 粘土でフタをする作業が」
「ええ」
「それを、肩代わりしましょう」
「え? で、でも……」
「テオ君が魔力を込める時間が増えます。1個でも増えるなら、それは全体の生産量が増えるんですよ」
私は、テオ君の作業を細かくチェックした。時間をメモしたのち、次の休み時間にみんなに告げる。
「マジか?」
「うっそだろ……!」
いや、私も驚いた。
しかし、調査結果は事実である。
魔力込めの時間2分
粘土でフタをする時間6分
キューブを探してる時間2分
「計10分ですが……内容は予想と大きく違いましたね」
一般的な人が、魔力込め4分、粘土でフタをするのが1分の計5分である。
魔力込め2分という数字は、両手両足のお嬢様と同じぐらいに迅速なのだ。
「どなたか魔力の少ない方。テオ君にキューブを渡す係となって下さい。それと同時に、粘土でフタをするのも」
「ガイさん」
おっと、お父さんだ。
「テオは……正直、作業が遅いと思ってました……。多少は魔力込めが早くても、トータルはやはり遅いと……」
「お父さん」
私は優しく肩を叩いた。
「ワンフォーオール、オールフォーワンの精神です。それぞれが、得意なことを受け持ちましょう。1人で全てをやる必要はないんですよ」
「――はい」
お父さんは、少し泣いていた。