96話目 くびれは蜂の腰
天を動かした効果は、エルフの皆さんにも絶大だったらしい。
俺たちでも変われるんだ――。
その意識がハッキリ出てきたようだ。セレーナ様々である。
アンリがジェラールの肩を叩いた。
「ねえ、貴族サマ? 機械、どうする?」
「――捨てよう。セレーナ様もお認めになられたからな」
無念そうなジェラールが印象的だった。
「――でね? 午後はA-5の分解作業を主にやってたわ」
お嬢様は、モーフィーにそんな説明をしていた。
「ん~、それにしてもビックリよねえ。ジェラールさんが本当に貴族だったなんて」
かつてエルフの大貴族だったが、父が濡れ衣を着せられて処刑されたという。当時10才だった息子である彼、ジェロームは、15年掛けてアンチジェラール派を追い詰め、父の名誉を回復。ジェロームはその名を襲名し、晴れてジェラールに。そのとき、支えてくれていた一般女性と結婚し、金も領地も国も捨て、名ばかり貴族の道へ。――お前はどこの主人公だ。
「ワン。でも、セレーナ様を呼ばれるとか、大ピンチだったですワン」
「本当よねえ~。貴族の知らない繋がりとか、怖いわ~。あたしがデビューした舞踏会にも来てたって言うし」
まあ、ジェラールの場合は特殊だろうがな。エルフ界隈でだけ有名らしいし。お嬢様の初陣に来たのも、あれがチャリティーを銘打ってたからだと思うぞ。
「ねえねえ。それで、モフモフの方はどうだった?」
「拙者は、10回ぐらい死にましたワン!」
モーフィーがお嬢様の手にヒシッとすがった。
「剣聖の英雄……あの人にオモチャの刀持たせたの、誰ですワン!?」
私だ。
「腰が大丈夫なタイミングで、少し手合わせしてもらいましたワン。そしたら、頭、首、心臓、右手と、まあ打たれましたワン!」
スゴイな、バウバウ爺。
彼女も遠征討伐隊に参加していたほどの実力者だ。それを子供扱いとか、全盛期がバケモノ過ぎるだろ。
「そのあと、剣聖のお孫さんたちの相手をして、スケさんのマジックの助手をしてと、拙者も盛り沢山だったですワン」
おー、色々やってるなあ。
スケさんは、手先が器用らしくて、カードやコインを使ったマジックに適性があったからな。私は、知っていても出来なかったから、骨仲間として、ぜひともスケさんに伝授したい。
「ときに、モーフィーさん。マルヨレイン様のカレー店はどうでしたか?」
「繁盛してたワン!」
「そうですか。では、そちらも引き続き、繋ぎをよろしくお願いします」
「お任せあれですワン!」
地道な活動が実を結ぶからな。
「ガイ。そういえば、頼まれてた数字、集めてきたわよ」
「ありがとうございます」
「それと……あなた、オジさんやマケールさんと連れだって、どこか行ってたわね。何してたのよ?」
「少々確認をしておりました」
私はお嬢様からメモを受け取った。これには、それぞれの班が1時間当たりに生産、もしくは処理できる個数が記されている。
A班
300−15=285
B班
1分3コ×60=180
魔力込め
1人1時間10コ×18人=180
※ただし午後3時ごろから少しずつ魔力切れの人が出てくる。
C班
400÷2=200
※やきやき君は1時間でいっぺんに400コ焼ける。ただし1回やると、1時間のクールタイムが必要。その間に温度設定変更は可能。つまり、1時間当たり200コ。
「ふむ……。ではまず、『魔力込め』が重要ですね」
「全部重要じゃないの?」
「それはモチロンですが、優先順位がございますゆえ」
私は数字を指差していった。
「ABCの各班と、お嬢様のおられる魔力込めチーム。この中で、一番数字が小さいのは、魔力込めチームです」
「あー、B班も180個だけど、こっちは午後3時ぐらいから徐々に魔力の尽きる人がでてくるものね」
「これは、砂時計をイメージしてもらえば分かりやすいでしょうか。上と下がどんなに幅広くても、砂が落ちるのはくびれの部分ですから、移動は少しずつです」
ちなみに、そのくびれはオリフィスと言う。
「ガイ、くびれで思い出したんだけど」
「なんでしょう?」
「あの……あ、足が少し太くなったの。あと、腹筋が少しついてきて……」
「良かったですね、着実に成果が出ておりますよ」
「違うの! そろそろ止めたいんだけど、逆戻りしたらどうしようって……」
ああ、それを心配してたのか。
「安心してください。3日に1度のスクワットを、1週間に1度へ変えましょう。それで体型の維持ができますよ」
「早く言ってよ!」
お嬢様は筋肉至上主義を掲げるのかと思っていたぞ。
「そんなのないから!」