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95話目 理詰めのザマァはえげつない

「おやおや……3倍も時間をかけているようでは、自分のクビが怪しくなりますね」


 私は、ワザとらしく頭蓋骨を外してみせた。


「お嬢様。10分と30分では、どちらを選択なさいますか?」

「もちろん速い方ね。1・9で行って、1で帰るわ」

「すると、レオンさんは……」

「こうだな」


 レオンは、1と27を持って反対側の机に置いた。


「仕事完了だ」

「ありがとうございます、レオンさん」


 私はセレーナに向き直った。


「各自が最短でしたねぇ」

「うぅっ……クッ……」

「さて、困りました。今のままでは不正解ですよ、セレーナ様?」


 待ってやる私。優しいな。


「ま……まずは、管理者全員を呼ぶわ。そして、全体のプランを話します」

「残念ながら、それだけではお嬢様は拒否されますね。個別の最短・・・・・から外れてしまいますゆえ」

「だから! 運行プランも指示するわ! それと……こ、個別に遅くなっても、全体が早くなればOKとします!」


 ――勝ったな。


「あと、スラヴェナの時間が長くなりすぎるから、3番手に変えるわ! レオンさんを2番手にします! これでどう!?」

「ふむ、正解としましょう」


 私は3の船を手で転がした。


「いやはや、流石セレーナ様。賢くていらっしゃる。私の負けですね」

「こ、の……!」


 なんだ? 問題は解けたぞ、喜べよ。


「さて、どこかの王女様は、個別に最適化をしたことで悦に浸っておられたそうですよ? まるで、1・9を運んで、1で帰ってきたような行いですね。――あるいは、9の船を改造して、8で走れるようにしたと言いましょうか」

「あれ? ガイ、その王女様をほめてる?」

「いえいえ、まさか。全体を見たら、9・27を運んで3で帰ってくるのが最適だと、セレーナ様がおっしゃった通りなのですよ? つまり、9が8になった所で、全体の最短時間は一切変わりません。――いえ、1・9が1・8になった分、より気付きにくく・・・・・・・・なり、より変わりにくく・・・・・・・・なってしまったと言えるでしょう」

「ありゃ~……。余計なコトしたわね」


 お嬢様は、サラッと一刺しいれるな。――いいぞ、もっとやれ。


「ぐぐっ……。わ、分かったわよ、あなたたち! 個別でなく、全体を見ろってことね! よーく分かったわ!」

「結構。――ああ、ちなみにもっと良い手段は、2人目を1人目・・・の時間に呼ぶことです。船を結ぶロープも持ってきてもらってね」

「はぁ!?」

「そして、1人目は1・3で行きます。そのまま、彼には向こう岸から帰ってもらいましょう。同時に、2人目が9・27で行くと、トータル27分で済みます」


 3人目は、別の仕事をやってもらおうかね。


「何それ!? サギよ! 一緒に運ぶとか!」

「おや、船はまとめて運ぶ・・・・・・・・のが当たり前なのでは?」

「だ、だって……ロープを持ってくるなんて!」

「私は、『ロープの持ち込みが禁止』などとは、一言も言ってませんよ?」


 しれっと答えてやる。


「考えうる最高のことをやったまでです。もっとあるかもしれませんね」


 そこでお嬢様が手を挙げた。


「あたし、思いついたわ!」

「いかなる方法です、お嬢様?」

「27分の船、処分しちゃえばいいのよ。代わりに9分の船をもう1そう増やしたら、スッゴク早いもの。だって、時間が1/3よ? あたしが上の人なら導入したいわ」

「おお、たしかに9分で済みますね。お嬢様は頭が柔らかいです」

「えへへ……」

「ちょっと!」


 セレーナは私たちに詰め寄った。


「それは流石にヒドイでしょ!?」

「どこがです? 仕事をするってのは、こういうことですよ」


 誰も「正解」なんて提示してくれないし、そもそも「正解」かどうかも分からない。

 刻一刻と、「正解」が変わる現場だってありうる。


「状況の変化に応じて、対応も変化させる。そのとき、全体を見ていないと、思わぬ落とし穴に落ちてしまう。それだけですね」

「うっ……くっ……!」


 悔しそうに顔を歪めるセレーナ。手を握りしめ、瞳を潤ませている。


 そのとき、大女が聞こえよがしに耳打ちした。


「セレーナ様。そろそろ、次のご予定が……」

「え? ――あ、ああ! そうだったわね!」


 チッ。大女に救われたな、コイ女。


 大女は私を睨み付けてきた。――ほお、魚人は青い目が多いハズだが、じつに黒いな。大マグロと呼んでやる。


「お、覚えておきなさい!」


 セレーナは、私をビシッと指差した。


「会社の規模は力! 可哀想だとは思うけど、魚人の大会社も頑張ってるのよ! あなたが少し改革した所で、ここの閉鎖は変わらないわ!」


 ふーん。


「それにね、コストの削減は、確実にお金を得られる行いよ! これだけは間違ってないわ!」


 魚も吠えるんだな。


 耳ひれまで紅潮させたコイは、大マグロに連れられて工場を出て行った。


 私は頭蓋骨をなでたのち、ゆっくりと振り返る。




「あんまりやると可哀想だったので、今日はリリースしました」




 エルフの皆さんは、やんやの大喝采をしてくれた。

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