表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/188

90話目 王より飛車を可愛がり

 次々と賛成に転向するメンバー。

 ジェラールの顔が芸術的に歪むなか、今度はマケール工場長が手を挙げた。


「あのお……、ガイさん? 工場の閉鎖は決まってるのですから、ムリに変えなくてもいいのでは?」

「どうなれば、存続となりますか」

「え?」


 工場長は、目をパチクリした。


「ど、どうって……」

「マケールさん。私は、工場を閉鎖の運命から救おうと思っております。どうすれば閉鎖が撤回されますか」

「そ、そりゃあ……魚人の会社に奪われた仕事を取り戻せれば、確実に……。で、ですが……」

「してみせます」


 私は断言した。


「この工場は、すごいポテンシャルを秘めていますよ。――仕事を奪われた経緯は、どんなことでしたか?」

「せ、生産性が下がったから……」

「なら、上げれば良いのです。A-5を捨てるのは、そのための第1歩ですよ」

「え、ええっと……勝手にそんなことをしたら、本社が怒ってくるんじゃ……」

「今のままだと閉鎖されるんです。怖いモノはないですね」

「ですが……」

「あーた! うっさいよ!」


 おカミさんが怒鳴るや、向こう側の工場長はビクッと震えた。


「でももヘチマもないよ! うだうだ言ってるぐらいなら、賛成すりゃどうだい!」

「で、でもお前……」

「あーた、シッカリおしよ! ずっと動かず、このまま閉鎖を待ってる気かい!?」


 夫婦だったのか、この2人。


「そう言えばあーた、『セレーナ王女様の理論』がどーこー言ってたね?」

「あ、あぁ……」

「それがうまく行ってないんだよ!? なら、別の王女様の理論に乗り換えるのはフツーだろ!? とくに、そのお方が最近、ものスゴい勢いがあるスラヴェナ王女様ときたもんだ! 天の助けだね!」

「う、うん……」

「はい、決まり! 2票賛成だよ!」


 ――おカミさん、強い。


 ジェラールがメチャクチャ渋い顔をしている。


「ええい、なんだね!? カンタンに意見をひるがえしてしまって。我らが工場の話だぞ? どこの馬の骨とも分からぬ者に……」

「訂正を。私は人骨です」

「分かっている! もののたとえだ!」


 ムキになるなよ、エセ貴族。


「現在、きちんと反対というのは誰だね? 手を挙げてくれ給え」


 オジロン、ベルトラン、ジェラール、レオン、トゥーサン、ミシェルが手を挙げた。


「6名か。ものの分かっているメンバーだ」

「あら、クソ貴族。アタシはアンタの隣にいるオラースの方が、よっぽど分かってると思うわよ?」

「黙れ、アンリ!」

「黙ってられるわけないでしょ!」


 アンリは立ち上がった。


「ねえ、まだ反対だって言うみんな、何が大事か考えてみて。本当に大切なものは何なの? そのこだわりは、工場閉鎖よりも大事なの? ――アタシは、あの機械と心中するつもりはないわ。そこの、おエライ元貴族サマは違うみたいだけど」

「! 『元』ではない!」


 ジェラールもガタンと立ち上がった。


「現役の貴族だ! 訂正しろ、男女!」

「そのこだわりはねえ、1人でやる分には格好良いわよ? だけど、他人を巻き込むな、ジェローム!」

「ジェラールだ!!」


 対岸でぎゃいぎゃい言い争うなか、トゥーサンが話し掛けてきた。


「あの……実は本社から、作るノルマが課せられているんです。そのときに、このA-5が役立ってたんですよ」


 おや。


「どういうことですか?」


 トゥーサンは、そこら中にある灰色のキューブを指差した。


「こういった、仕掛しがかり在庫の状態でも、個数としてカウントされるんです。たまに本社から見に来るときに、慌てて動かして、ノルマの滑り込みクリアに役立ってたんですよ」


 販売していないのに、どうしてノルマ達成なのか。それも……途中の状態でだと?


「不要です」

「えっと……ノルマが……」

「テオ君のお父さん。――そのせいで、工場は閉鎖のピンチなんですよ? ノルマを守って終わりにしますか?」


 飛車を守ったために王を取られそうな現状である。

 父さんの会社が、倒産。――笑えないよ。


 トゥーサンは、隣で魚の身をほぐしては一口ずつ食べるテオ君のほうを向いた。

 しばらく彼を見守っていたのち、がっくりと肩を落とす。


「――ノルマを、捨てます」


 立ち止まって考えればスグ分かることでも、当人の立場からは、意外に見えないものなのだ。


「我は不愉快だ!」


 アンリとの口論でも押され気味だったジェラールは、机を離れた。


「トイレに行く!」

「あら、じゃあ汚さないでね。腹いせに汚すとか、貴族らしくないわよ?」

「我はキレイに使っている!」


 モブエルフの笑い声のなか、エセ貴族は隅のトイレに向かった。将棋でいうと自陣右端である。


「チッ……うるせぇ奴だ」


 隣に座ってたダークエルフ爺が頭をかいた。


「骨のニイさんよ。『歩止ぶどまり』ってのを知ってるかい」


 ――知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ